timed up and go test 方法・カットオフ値・観察ポイント完全ガイド

timed up and go testの正しい方法・カットオフ値・観察ポイントを徹底解説。転倒リスク評価として広く使われるTUGテストですが、あなたは本当に正しく測定できていますか?

timed up and go testの方法・カットオフ値・観察ポイント

カットオフ値13.5秒を超えた患者の病棟移動を、あなたは自立禁止にしていませんか?


この記事のポイント3選
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TUGテストの正しい測定手順

開始肢位・スタート合図・ストップウォッチのタイミングまで、原法に基づいた正確な測定方法を解説します。

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カットオフ値の正しい解釈

「13.5秒以上=転倒リスク」の根拠論文の対象者と、日本整形外科学会が定める11秒基準の違いを整理します。

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時間だけでは見えない観察ポイント

方向転換・立ち上がり・着座の質的評価が、転倒予防とリハビリ計画立案に直結する理由を説明します。


timed up and go testとは何か:目的と臨床的意義

Timed Up and Go Test(以下、TUGテスト)は、1991年にPodsiadloとRichardsonが発表した機能的移動能力の評価法です。もともとはGet-Up and Go testを改良したもので、椅子からの立ち上がり・歩行・方向転換・着座という複合動作を時間で数値化します。理学療法士や作業療法士をはじめ、介護・医療現場で最も使用頻度の高い歩行評価の一つとして位置づけられています。


TUGテストが現場で重宝される最大の理由は、「日常生活に近い動作を丸ごと評価できる」点にあります。10m歩行テストは直線歩行しか評価できませんが、TUGテストは方向転換・立ち座りを含むため、より生活場面に即した能力を把握できます。


実際にTUGテストで評価できる内容は以下の通りです。


- 立ち上がり能力:下肢筋力・重心移動の協調性
- 直線歩行能力:歩行速度・歩幅・ケイデンス
- 方向転換能力:バランス制御・足部の使い方
- 着座能力:上体の制動・安全性


日本整形外科学会では、TUGテストを「運動器不安定症(MADS)」の診断基準として公式に採用しており、開眼片脚起立時間と並ぶ重要な指標として位置づけられています。これは単なるスクリーニングツールではなく、病名に直結する評価であるということです。


さらに注目すべき点があります。60歳以上の地域在住高齢者を対象とした研究では、TUGのタイムが遅いほど全死亡リスクが上昇するという報告があります。また、TUGが10秒以上の群では、平均3.8年の追跡調査でアルツハイマー型認知症・脳血管性認知症の発症リスクが高かったことも示されています(Lee et al., J Gerontol, 2018)。つまりTUGテストは、転倒予防だけでなく認知症・心疾患リスクの把握にも活用できる評価ツールなのです。


日本運動器科学会:Timed Up & Go Test(TUG)について(TUGのカットオフ値と運動器不安定症の診断基準を公式に掲載)


timed up and go testの正しい測定方法:準備から採点まで

間違った方法で測定している臨床家は意外と多いです。測定方法が統一されていないと、同一患者のデータを時系列で比較することができません。まず準備物から確認しましょう。


【準備するもの】


| 必要物品 | 詳細 |
|---|---|
| 椅子 | 座面高44〜47cm。肘掛けがあれば原法に近い。なくても可 |
| コーン(目印) | 1個。椅子の前脚から3m地点に設置 |
| ストップウォッチ | 手動計測。0.01秒単位が望ましい |
| メジャー | 3mを正確に計測するため |
| スペース | 最低4m×1.5m程度(コーンを回る幅を考慮) |


3mという距離はA4用紙を縦に並べると約14枚分です。意外と「目測で大丈夫」と省略してしまいがちですが、距離が変わるとタイムも変わるため厳守が必要です。


【測定手順(日本理学療法士協会の標準法)】


測定は以下の順序で進めます。


1. 開始肢位:背もたれに軽くもたれかけ、肘掛けがある場合は肘かけに手を置く。肘掛けがない場合は手を膝の上に置く。両足を床につける。


2. 教示:「"どうぞ"の合図で立ち上がり、3m先のポールを回って戻り、すぐに椅子に腰かけてください。回る方向はどちらでもかまいません。」と伝える。


3. 1回目(通常速度):「いつも歩いている速さ」で実施。身体の一部が動き始めたときからストップウォッチをスタートする。


4. 2回目(最大速度):「できるだけ早く」で実施。同じタイミングで計測。


5. 終了タイミング:お尻が椅子に接地した瞬間にストップ。


6. 採用値:2回の測定のうち小さい値(速い方)を採用。小数点第2位は四捨五入。


7. 歩行補助具:普段使用している場合はそのまま使用する。記録に補助具名を必ず記載する。


⚠️ 特に注意が必要なのがストップウォッチを押すタイミングです。「立ち上がった後」にスタートを押しているケースが散見されますが、正しくは「身体の一部が動き始めた瞬間」がスタートです。この1点だけで1〜2秒の誤差が生じることがあります。


AYUMI EYE:TUGテストの測定環境・方法とカットオフ値(測定方法・用意するものを図解で解説)


timed up and go testのカットオフ値と正しい解釈方法

カットオフ値が「独り歩き」していることには危険性があります。これは多くの専門家が指摘していることで、特に「13.5秒」という数字の扱いについては慎重さが求められます。


【代表的なカットオフ値の一覧】


| カットオフ値 | 意味 | 出典・対象 |
|---|---|---|
| 11秒以上 | 運動器不安定症の診断基準 | 日本整形外科学会・介護予防の観点より設定 |
| 13.5秒以上 | 転倒リスクあり(転倒経験者との比較) | Shumway-Cook(2000)地域在住高齢者対象 |
| 12秒以上 | 施設利用者相当のレベル | Bischoff(地域在住高齢者との比較) |
| 20秒以上 | ADL・屋外歩行に制限が出始める | Podsiadlo(1991) |
| 30秒以上 | 日常生活動作に介助が必要 | 複数研究の一致 |


坂田(2007)による目安は、臨床現場で使いやすい整理です。10秒未満は自立歩行、11〜19秒は移動がほぼ自立、20〜29秒は歩行が不安定、30秒以上は歩行障害ありとされています。


ここで重要な点があります。「13.5秒」の根拠となった論文(Shumway-Cook, 2000)の対象は「地域在住高齢者(Community-Dwelling Older Adults)」です。地域在住高齢者は段差や路面の凹凸など多くのバリアがある環境で生活しています。そのため「13.5秒以上なら転倒しやすい」という基準は、その環境が前提となっています。


一方、病院内はバリアフリー化が進んでおり、TUGが13.5秒を超えていても安全に自立移動できる患者は多く存在します。つまり、「13.5秒以上だから病棟内移動は自立にできない」という判断は、論文の対象と測定方法を確認しないまま数字だけを適用してしまっている誤用です。


カットオフ値は対象の疾患・年齢・生活環境・測定方法をセットで確認することが原則です。また、脳卒中患者では転倒リスクを識別するTUGのカットオフ値は15〜19秒の範囲とする報告があり(近年のスコーピングレビューより)、疾患によって基準が大きく異なることも押さえておく必要があります。


PT・OTスキルアップノート:Timed Up and Go testとは?〜カットオフ値13.5秒の過信は危険(カットオフ値の根拠論文の対象・測定方法を詳細に解説)


timed up and go testの観察ポイント:時間だけでは見えない動作の質

TUGテストは「何秒かかったか」だけを評価するツールではありません。これが実は見落とされがちな重要点です。


時間という単一の数値は動作の「結果」しか示しません。「なぜその時間がかかっているのか」を明らかにするには、動作の質的観察が不可欠です。近年の研究では、TUGの遂行時間だけでは転倒リスクの予測精度が限定的であることが複数のシステマティックレビューで示されています。


【フェーズ別の観察ポイント】


TUGは大きく6つのフェーズに分解できます。


🔸 立ち上がり(Sit-to-stand)


- 上肢で肘掛けや膝を強く押していないか
- 体幹の前傾が不十分なまま腰を浮かせていないか
- 左右の下肢に均等に荷重できているか


🔸 往路歩行


- 歩幅・ケイデンス・歩行速度のバランス
- 体幹の側方動揺の大きさ
- 足部のクリアランス(つま先が地面をこすっていないか)


🔸 方向転換


特に転倒が起きやすいフェーズです。ある研究では、転倒は直線歩行中より方向転換中に8倍多く発生すると報告されています(Spina et al.)。


- 右回り・左回りで所要時間や安定性に差がないか
- ステップ数が多い(3〜4歩以上)場合は非効率な代償戦略の可能性
- 体幹の前方への過剰な傾き
- 麻痺側を外側にするか内側にするか(片麻痺患者の傾向確認)


🔸 着座(Stand-to-sit)


- 勢いよく「ドスン」と座っていないか
- ブレーキとなる下肢の制動力が不足していないか
- 着座直前に体幹が後方へ大きく倒れていないか


これらの観察を通じて、「立ち上がりに時間がかかっている」「方向転換で不安定になっている」など時間延長の原因を特定することができます。原因が分かれば、リハビリの焦点を具体的に絞り込めます。これが質的観察の最大の意義です。


前庭系・小脳系の平衡障害や片側性の下肢疾患がある場合は、右回り・左回りの両方向を分けて測定し、差を記録することも推奨されています。左右差の確認は原則です。


KNERC(ネルク):TUG評価の革新—時間計測から動作の質的分析へ(iTUGや方向転換のバイオメカニクス分析を含む専門的解説)


timed up and go testの測定誤差・注意点・測定条件の統一

同じ患者を同じ日に測っても、担当者によってタイムが変わることがあります。これは測定方法が標準化されていないことに起因します。TUGテストは一見シンプルですが、測定誤差が入り込みやすい評価でもあります。


【誤差が生じやすい要因】


測定環境に起因するもの、測定方法に起因するものの2種類があります。


- 床面の素材(フローリング・カーペット・ビニール床の違いで滑りやすさが変わる)
- 靴・補装具の有無(素足・室内履き・装具の違いは結果に直接影響)
- 椅子の仕様(肘掛けあり・なしで立ち上がりやすさが変わる)
- ストップウォッチ操作のタイミング(開始・終了のブレが最大の誤差源)
- 教示の言葉(「できるだけ速く」と言うかどうかで被験者の努力量が変わる)
- 部屋の雑音・声がけ(集中力や歩行速度に影響する)


再測定を行う場合は、これらの条件をすべて前回と同一にすることが必要です。具体的には椅子の種類・床面・補助具・靴・教示内容を記録に残すことを習慣化しましょう。


MCIDについても知っておく価値があります。腰椎変性椎間板手術後の患者では、TUGのMCID(最小臨床重要変化量)は約2.1秒と報告されています(Maldaner et al., 2022)。つまり2秒以上の変化がなければ、真の改善とは言えない可能性があります。「0.5秒改善した」という変化だけで「リハビリ効果あり」と結論づけることには注意が必要です。


脳卒中患者では、TUGのMDC(最小可検変化量)は約3.2秒(慢性期脳卒中、Alghadir et al., 2018)とされています。疾患によって変化の判定基準が大きく異なるため、疾患別のMCID・MDCを把握しておくことが、より精度の高いリハビリ評価につながります。


認知機能が低下している患者の場合、テストの手順が理解できず、正確な測定が困難になるケースがあります。そのような場合は事前に検者がやって見せる(モデリング)ことが有効です。また転倒ハイリスクの患者では、測定者がすぐに支えられる位置に立ち、常に寄り添うことが安全確保の原則です。


Reha-on:TUGの測定方法・MCID・MDCのエビデンス(疾患別のMCID・MDC数値を文献ベースで整理)


timed up and go testとBBSなど他の転倒評価との組み合わせ方

TUGテスト単独で転倒リスクを完全に予測できるわけではありません。これは見落としがちな事実です。


脳卒中患者を対象とした近年のスコーピングレビューでは、TUGの時間に基づく転倒予測のAUC(識別能を示す指標)は0.66〜0.70程度に留まることが報告されています。統計的には「中程度の識別能」であり、TUGを唯一の転倒判断基準として使うべきではないという根拠がここにあります。


転倒リスク評価として組み合わせが推奨される代表的な評価ツールを整理します。


🔹 Berg Balance Scale(BBS)


複合的なバランス能力を14項目で評価するスケールです。最大56点で、40点以下では転倒リスクが高いとされます。TUGとBBSは強い負の相関(r=-0.81、Podsiadlo, 1991)が確認されており、両者を組み合わせることで評価の精度が上がります。TUGが境界値付近(11〜13秒)の場合には、BBSを追加することで判断の精度を補完できます。


🔹 Functional Reach テスト


足を肩幅に揃えて腕を肩関節90度に挙げ、足を前に出さずに最大限リーチした距離を測定します。虚弱高齢者では18.5cm未満、脳卒中片麻痺では15cm未満が転倒リスクの目安とされています(Thomas et al., 2005 / Acar & Karatas, 2010)。TUGが動的バランスを見るのに対し、Functional Reachは静的な前方バランスを補完します。


🔹 継ぎ足歩行テスト


腕を胸の前に組んで3.6mの継ぎ足歩行を行い、最大10歩までの歩数で評価します。7〜9歩が軽度バランス障害、4〜6歩が中等度の目安です(Wrisley, 2004)。特に狭い廊下での歩行能力と相関が高く、TUGでは把握しにくい側方バランスの評価に向いています。


評価ツールの選び方は「場面/リスク→目的→候補」の順で考えることが大切です。転倒歴があり転倒リスクが高い患者の初期評価であれば、TUGとBBSの両方を実施してリスクを多角的に把握する、という組み合わせが合理的です。評価に時間をかけすぎず、TUG+1つを基本として現場に合ったプロトコルを作るとよいでしょう。


通所リハビリのリハビリテーション計画書では、移動能力の評価に「TUGテスト」または「6分間歩行」の記載が必要とされています。TUGテストは行政的にも要求される評価です。


リハブクラウドマガジン:TUGテストのカットオフ値・測定方法・他の転倒評価との比較(カットオフ値と他の評価バッテリーを体系的に解説)