転倒予防の看護に役立つ文献と実践ケアの最新知見

転倒予防の看護で文献をどう活かすか迷っていませんか?アセスメントスコアシートの正しい使い方、夜間排泄リスク、4点柵の意外な落とし穴、多職種連携の効果まで、病棟ですぐ使える根拠ある知識をまとめました。あなたのケアはエビデンスに基づいていますか?

転倒予防の看護に活かす文献と病棟実践のポイント

一般病棟での転倒転落は、実は「4点柵をしっかり使っても減らない」と複数の文献で報告されています。


この記事の3つのポイント
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アセスメントスコアシートの正しい活用法

危険度Ⅱ以上(10点以上)の患者への個別ケアが転倒予防の基本。スコアを「つけるだけ」で終わらせない使い方を解説します。

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夜間・排泄時のリスクが最大化する理由

転倒の約60%は18時〜翌6時の夜間帯に集中。排泄動作に関連した転倒は一般病棟で71.7%にのぼるという文献データを紹介します。

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多職種連携で転倒発生率を下げる方法

看護師・薬剤師・理学療法士が連携した多因子介入が最もエビデンスのある対策。チームでできる具体的なアプローチを紹介します。


転倒予防の看護で押さえたい文献の基礎知識:転倒率と重大性


転倒予防の看護を根拠ある実践につなげるには、まず文献が示す転倒の実態を正確に把握することが出発点になります。日本病院会のQIプロジェクト(2017年度)によると、入院患者の転倒・転落の発生率は調査施設の平均で2.51‰(千分率)、最も多い施設では22.06‰に達します。これは1日に1,000人の入院患者がいれば、平均して2〜3人が転倒するという計算です。


病棟の種類別に1,000病床日換算の転倒率を見ると、回復期リハビリテーション病棟が4.6〜13.9、慢性期病棟が4.67、急性期医療機関が1.85と報告されています(大高洋平,2016)。地域在住高齢者の転倒率は0.8〜0.9ですから、入院患者は地域生活者の実に5〜15倍程度転びやすいといえます。さながら、自宅で過ごすよりも格段に危険な状況に患者が置かれているわけです。


これが重大な問題である理由は、後遺症リスクにあります。骨粗鬆症性骨折の中でも最も重い大腿骨頸部骨折は、その90%以上が転倒によって生じると報告されています(厚生労働科学研究,2005)。大腿骨頸部骨折は日本における寝たきり原因の第3位に位置し、骨折後の歩行能力回復率も高くはありません。転倒予防は「念のための対策」ではなく、患者のQOLに直結する優先課題です。


転倒の定義自体がいまだ統一されていないという事実もあります。WHO定義では「意図せずに地面・床・その他の低い位置に倒れること」とされますが、国内では「転倒・転落」と一括りにされることも多く、厳密な再発防止策を立てるうえでは転倒・転落・墜落を区別した記録が望まれます。


施設・病棟の種類 1,000病床日換算の転倒率
地域在住高齢者(比較基準) 0.8〜0.9
急性期医療機関 1.85
一般病院 4.1
慢性期病棟 4.67
回復期リハビリテーション病棟 4.6〜13.9

※大高洋平編著「活動と転倒」(医歯薬出版,2016)をもとに作成


転倒率の数値は「自施設の立ち位置」を把握するうえでも有用です。自院のインシデントレポートと照らし合わせ、病棟の課題を明確化することが次のアセスメント実践に直結します。


参考:入院患者の転倒率と転倒予防の重要性について(アルメディアWEB・上内哲男先生監修)
https://www.almediaweb.jp/expert/feature/1911/index01.html


転倒予防の看護に使うアセスメントスコアシートの正しい活用法

転倒リスクのアセスメントツールは、病棟における転倒予防看護の根幹をなします。日本看護協会が推奨するスコアシートは、年齢・既往歴・感覚・運動機能・認識力・薬剤・排泄などの項目でリスクを点数化し、0〜9点を危険度Ⅰ(転倒の可能性あり)、10〜19点を危険度Ⅱ(転倒しやすい)、20点以上を危険度Ⅲ(転倒をよく起こす)と分類します。重要なのが原則です。スコアは「記入するだけでは意味がない」という認識を持つことが大切です。


多根総合病院の前向き研究(2020年)では、脳神経内科・脳神経外科病棟の患者1,027名を対象に分析した結果、入院患者の約60%が危険度Ⅱ(10〜19点)に該当していました。危険度Ⅱ以上の患者に対しては、スコアの危険項目を看護計画に直接反映させ、具体的な行動目標に落とし込む作業が不可欠です。


主な転倒リスク因子として、文献(宮本まゆみ,2009)が整理した代表的な要因は以下の通りです。


  • 転倒歴(過去の転倒経験は再転倒リスクを2〜3倍に高めるとされる)
  • 精神・認知障害(認知症せん妄見当識障害など)
  • 関節可動性・歩行障害(ふらつき、麻痺、骨関節疾患)
  • 薬剤の影響(睡眠薬抗精神病薬、降圧利尿剤、下剤などの服用)
  • 排泄障害(頻尿、切迫性尿失禁など)


これが基本です。特に薬剤の影響は過小評価されやすい項目で、睡眠薬や向精神薬を服用している患者は夜間の覚醒時に意識レベルの低下が起きやすく、転倒リスクが有意に上昇します。看護師と薬剤師が情報を共有し、ハイリスク薬を使用している患者を個別にリストアップすることが転倒防止のになります。


スコアシートはあくまで「転倒リスクを予測するツールの一部分」に過ぎません。檜山明子(博士論文,2017)は「転倒リスクアセスメントツールの機能は患者の転倒リスク評価であり、転倒予防看護に必要なアセスメントの一部分にあたる」と明記しており、スコアを起点にした個別の観察・計画立案・情報共有までをセットで行うことが求められます。


参考:転倒・転落アセスメントツールに関する提言(日本転倒予防学会)
https://www.tentouyobou.jp/content/files/risuk%20assessment/20200725%20teigen%20risk%20assessment.pdf


転倒予防の看護で最も重要な夜間・排泄動作時のリスク管理

転倒予防の文献で繰り返し強調されているのが、夜間と排泄動作に関連したリスクの高さです。これは看護師にとって見落としやすい盲点になりえます。


金沢医科大学の平松知子教授らが行った転倒調査によると、排泄に関連した転倒は一般病棟の71.7%、回復期リハビリテーション病棟の37.8%、療養型病棟・老健施設の39.3%を占めていました(平松,正源寺,2014)。転倒は夜間帯(18時〜6時)に約60%が集中しており、夜間頻尿が大きく関係しています。排泄に関連した転倒者の約80%に排尿障害が認められ、機能性尿失禁が最多、次いで切迫性尿失禁でした。つまり夜間の排泄が危ないということです。


意外な点があります。排泄関連転倒の約80%はトイレではなくベッドサイド・病室内で発生しています。つまり「トイレへ向かう途中」ではなく「ベッドを離れた瞬間」が最も危険な局面といえます。ベッドの高さの調整、床頭台の位置確認、スリッパから滑りにくい履物への変更など、ベッドサイドの環境整備が転倒予防の実効性を大きく左右します。


夜間リスクへの具体的な対応策としては、以下が文献でも推奨されています。


  • 夜間頻尿がある患者は、日中の排泄パターンを観察し、夜間の排泄方法(トイレ・ポータブルトイレ・尿器など)を個別に計画する
  • 利尿作用のある薬剤(スピロノラクトンなど)を服用している患者は、尿意が転倒リスクに関連していないか医師・薬剤師と情報共有する
  • 夜間勤務帯の看護師配置を考慮した訪室タイミングの設定(排泄動作前後の確認)
  • ベッド低床設定と離床センサーの組み合わせによるベッドサイドリスクの検知


ベッドサイドでの転倒は、ナースコールを押さずに自ら動こうとする患者行動に起因することが多いです。入院時から「自分でトイレに行きたくなったら必ずナースコールを押す」という共通認識を患者・家族と作ることも、転倒防止の重要なステップです。


参考:転倒と排尿障害(平松知子,金沢医科大学看護学部)
http://www.igaku.co.jp/pdf/1408_wocnursing-04.pdf


転倒予防の看護と4点柵:文献が示す意外な事実と身体行動制限の考え方

「4点柵をすれば転倒転落が減る」という思い込みは、現場でいまだ根強く残っています。しかし文献はそれを支持していません。


大阪・多根総合病院の前向き研究(2020年)では、脳神経内科・外科病棟の患者1,027名を4点柵使用群(522名)と不使用群(505名)に分けて比較しました。その結果、転倒転落の頻度は使用群0.50、不使用群0.53で統計的な有意差はなく、重大なアクシデント(レベル3b以上)は両群ともにゼロでした。先行研究でも「4点柵の使用と不使用で転倒転落の頻度やアクシデントの頻度に差はない」と複数が報告しています。つまり4点柵は万能ではないのです。


それどころか、4点柵には以下のような問題が指摘されています。


  • 認知症の高齢者が4点柵に囲まれることで「自分らしさを失い、生きる意味を見失う」という心理的影響(小楠範子,文献報告)
  • 柵を乗り越えようとしてベッドから転落したり、柵に手足が引っかかって怪我をする重大事故
  • 4点柵は厚生労働省の身体行動制限(身体拘束)に準じる扱いとして位置づけられており、切迫性・非代替性・一時性の三原則に則った判断が求められる


身体行動制限を減らすためには、個々の患者に合わせたケアプランが必要です。同研究では4点柵を使わない方針を採用した際、①ベッド低床設定、②安静度に合わせた離床方法の見守り、③入浴・足浴・散歩など日中の関わりを増やして生活リズムを整える、④入院前の生活背景を聴取して入院前環境に近づける、という複合的な対応を行い、転倒率を変えることなく身体行動制限を削減しています。身体行動制限ゼロへの実現が条件です。


患者の安全を守りながら身体拘束を回避するには、「なぜこの患者は動こうとするのか」という原因への看護的アプローチが根本的に重要です。痛み・かゆみ・トイレ・不安など、不穏行動の背景を多職種で共有し、代替的なケア介入を試みることが4点柵に頼らない転倒予防の第一歩となります。


参考:急性期病棟における4点柵の不使用が転倒転落に与える影響(多根医誌,2020年)
https://general.tane.or.jp/wp-content/themes/general/assets/images/hospital/journal/09/10.pdf


転倒予防の看護における多職種連携と独自視点:薬剤師・PTとの情報共有が防ぐもの

看護師が転倒予防を「自分たちだけの問題」と捉えている病棟では、見落としが生じやすい構造があります。文献が繰り返し示しているのは、多職種連携による多因子介入が最も効果的であるという事実です。


鈴木みずえ(2016)の認知症高齢者に関する転倒予防レビューでは、「看護職・介護職・理学療法士・作業療法士・医師などの学際的な専門チームによる、対象者個々の転倒リスクに合わせた多因子介入が最も効果的」と結論づけています。これはコクランレビューを含む複数のエビデンスをふまえた見解であり、看護師が単独でできることの限界を示しています。これは使えそうです。


多職種連携の中でも特に見落とされやすいのが、薬剤師との連携です。睡眠薬・向精神薬・降圧利尿剤・下剤など、転倒リスクを高める薬剤(いわゆる「転倒リスク薬」)を複数服用している患者(ポリファーマシー)は転倒ハイリスクです。松岡綾ら(2003)の研究でも「睡眠薬による転倒転落事故リスクへの看護師の理解が十分でない」という課題が示されており、薬剤師が主体的にリスク薬を整理して看護師に伝える仕組みが重要とされています。


理学療法士(PT)との連携もまた不可欠です。PTは歩行機能・筋力・バランス能力を専門的に評価できるため、リハビリ開始直後という「最も転倒リスクが高い時期」に具体的な歩行補助具の選定や移動方法の指導を担います。看護師は日々の病棟観察から「歩行がふらついている」「夜間に一人で動こうとしている」という情報をPTと共有することで、リハビリ計画の修正を速やかに行えます。


多職種連携を実際に動かすうえで有効なのが、定期的な転倒カンファレンスの設置です。ある病院の取り組み(日本転倒予防学会誌,2022年)では、多職種による転倒予防介入を仕組み化した結果、転倒発生件数の減少に至ったと報告されています。情報共有が基本です。


病棟ごとに「転倒発生後の振り返り(事例検討)」と「転倒リスクの高い患者の定期スクリーニング」を多職種で行う体制を作ることが、個々の看護師の経験値に依存しない、組織的な転倒予防の実現につながります。転倒予防の看護は、スコアシートを起点に、夜間・排泄リスクの把握、4点柵に頼らないケアの工夫、そして多職種連携という4つの柱で成り立つものです。


参考:認知症高齢者の視点からの転倒予防のエビデンスと実践(鈴木みずえ,日本転倒予防学会誌)


参考:日本老年医学会 介護施設内での転倒に関するステートメント(2021年)
https://www.jpn-geriat-soc.or.jp/info/important_info/pdf/20210611_01_01.pdf




認知症者の転倒予防とリスクマネージメント