トレシーバ(インスリン デグルデク)の「単位の決め方」は、患者ごとの目標血糖と低血糖リスクを見ながら、添付文書にある用法・用量の範囲で“開始→評価→調整”を繰り返すのが基本になります。
まず、成人の初期用量は「1日1回4~20単位」、維持量は(他のインスリン併用を含めて)「通常1日4~80単位」と整理されており、ここが単位設定の土台です。
一方で、現場で起きがちな誤解が「トレシーバは長く効く=少しずつ増量してもすぐ結果が見える」と思い込むことです。実際には、薬剤特性として平坦な血糖降下作用が長く続く設計であり、投与開始時および開始後数週間は血糖モニタリングを十分に行うよう注意喚起があります。
参考)https://www.semanticscholar.org/paper/1e47b28512fdd0278eb6258a775cf8424a71b223
つまり、単位を“決め切る”というより「目標に向けて調整し続ける」薬剤と捉える方が安全です(特に強化療法や併用療法では、Basalだけ動かすとBolus側の過不足が露呈します)。
単位の議論を安全にするため、最初に言語を揃えると便利です。
ここから先は、単位の決め方を「①開始量の置き方」「②切り替え時の置き方」「③調整の観察ポイント」「④運用上の注意」に分けると、チーム内でブレが減ります。
他の中間型または持効型インスリンからトレシーバへ切り替えるとき、成人では「前治療で使用していたBasalインスリンと同じ単位数から投与を開始する」ことが目安として明記されています。
この“同単位開始”は、現場で説明しやすく、患者も混乱しにくい一方で、万能ではありません。
添付文書上の重要ポイントは、Basal-Bolus療法で「1日2回投与のBasalインスリン製剤から本剤に切り替える場合、減量が必要な場合もある」という但し書きです。
ここが、検索上位の一般的なブログ記事だと薄くなりがちな箇所で、実務では最も事故に直結しやすいところです。なぜなら、1日2回Basalを打っていた患者は“背景の低血糖リスク(夜間・早朝)”と“日内変動の癖”を抱えていることが多く、単純に同じ総量を1回へ集約すると、時間帯によって過剰になり得るからです(特に腎機能低下、摂取量低下、感染や手術前後などのイベントが重なると顕在化します)。
切り替え時の実務の型(医師の処方設計を支える、薬剤師・看護師の確認観点)を、あえて文章で固定化すると以下です。
また小児では、前治療のBasal相当量を目安としつつ「低血糖リスクを回避するため減量を考慮」と明記されています。
小児は活動量の急変や摂食の不確実性が成人以上に大きく、同単位開始の“楽さ”より安全側の設計が優先される、というメッセージとして読めます。
トレシーバは、注射時刻は原則「毎日一定」としつつ、必要があれば「通常の注射時刻の前後8時間以内」で注射時刻を変更できる、とされています。
ただし、注射時刻の変更で投与間隔が短くなる場合は低血糖に注意するよう指導、と明記されており、“柔軟にできる=自由で安全”ではありません。
この「±8時間」のルールは、単位調整の議論とセットで扱うと事故予防になります。例えば、夜勤が入り注射時刻が前倒しになりがちな患者では、投与間隔が短くなった日に「いつもの単位をそのまま」入れると、体感としては単位増量に近い状況が発生し得ます(同じ単位でも“重なり”が増える)。
よって、単位の決め方は「投与量」だけでなく、「投与間隔(8時間ルール)」を含めた設計として説明する方が伝わります。
投与を忘れた場合の指導も、単位の決め方に直結します。添付文書では「気づいた時点で直ちに投与できる」が、「次の投与は8時間以上あける」とされています。
つまり、忘れた分を“埋め合わせるために増量する”という発想は原則不要で、むしろ投与間隔を守ることが優先です。
現場の説明テンプレとしては、次のように短文化しておくとスタッフ間で統一しやすいです。
トレシーバの単位調整は、添付文書上も「患者の状態に応じて適宜増減」とされ、開始後数週間のモニタリング強化が推奨されています。
ここでいう“状態”には、検査所見だけでなく、食事量、運動量、体重変化、併用薬、感染、手術など、臨床的イベントが含まれる前提で読み解くと実務に落ちます。
医療従事者向けの記事として、調整の観察軸を3つに絞ると、単位決定の議論が整理されます。
また、意外に盲点なのが「単位調整」と「注射時刻変更」が同時に走る状況です。例えば、入院で生活が変わる、透析スケジュールが変わる、食事が病院食へ切り替わる、という場面では、単位を増減するより先に“投与時刻の固定”を優先して変動要因を減らす方が、原因切り分けが容易になります。
実務の小技として、調整理由をカルテや指導記録に「数値+理由」で残すと、次の担当者が単位を決めやすくなります。
例。
検索上位では「何単位から始めるか」「切り替えは同単位か」が中心になりがちですが、医療安全の現場では“単位そのもの”より投与過誤が重大事故につながることがあります。特にBasalとBolusの取り違えは、添付文書の安全性検討事項としても「重要な潜在的リスク」に挙げられています。
つまり、「単位の決め方」は“処方量を決める技術”だけでなく、“間違えない仕組みを作る技術”でもあります。
投与過誤を減らすために、単位設計と同時に見直したいポイントを挙げます(現場でやることが明確なものだけ)。
さらに“意外な落とし穴”として、患者が「時間をずらせる=足りない日は追加で打っていい」と解釈してしまうケースがあります。添付文書は、忘れた場合は気づいた時点で投与できる一方で、次回は8時間以上あける、としており、追加投与で埋め合わせる思想ではありません。
この誤解は、単位調整の相談が増える原因にもなるため、最初の導入指導で「増やすのは自己判断でなく、血糖の流れで医療者と決める」まで言い切ると、後の事故予防になります。
(用法・用量、切替、投与時刻変更の一次情報:添付文書ベースで確認できる)
トレシーバのインタビューフォーム(用法・用量、切替目安、±8時間、忘れた時の対応がまとまっている)