薬物依存症は進行度に応じて明確に4つの病期に分類されます 。依存期では時折襲ってくる薬物への渇望が唯一の症状として現れ、この段階では日常生活への影響は比較的軽微です。
参考)https://www.rakunan-hosp.jp/gairai/case/yakubutsu.html
離脱症期に進行すると薬物の切れ目に身体的・精神的不調が現れます。身体症状としては漠然とした不快感、不眠、異常発汗、動悸、めまいなどの自律神経症状が出現し、精神症状としてはイライラや意識がもうろうとする状態、夢遊病のような行動が見られることがあります 。
さらに進行した精神病期では幻聴、幻視、被害妄想が代表的な症状として現れます。特に勘ぐりやすくなることは被害妄想の一種であり、対人関係に深刻な影響を与えます 。
最終段階の認知障害期では記憶障害が主要な症状となります。本人では気づきにくいものの、物忘れの増加やちょっとしたことが覚えられなくなるといった形で自覚される場合があります 。
薬物依存の発症には遺伝的要因、環境的要因、心理的要因が複雑に絡み合っています 。遺伝的要因では依存症にかかりやすい遺伝的素因を持つ人が存在し、家族に依存症者が多い場合にリスクが高まることが知られています 。
参考)https://etouhp.com/blog/id_13352
研究によると依存症の原因は遺伝的素因が50%、対処能力の低さが50%であることが示されており、依存症者の子供は依存症を発症する可能性が8倍高くなると報告されています 。アルコール依存については、アルコール依存者の約3人に1人がアルコールを乱用する親を持ち、アルコール依存の父を持つ子どもの4人に1人は自身がアルコール依存になりやすいとされています 。
参考)https://www.ohishi-clinic.or.jp/addiction/izon_cause/
環境的要因としては薬物使用が身近な環境、ストレス過多、精神的問題を抱えている状況が挙げられます 。心理的要因では不安、うつ病、過去のトラウマなどの心理的問題があり、薬物を使って一時的にその感情を和らげようとすることが依存を引き起こします 。
薬物依存の発症メカニズムには神経生物学的要素が重要な役割を果たしています 。長期にわたって薬物を乱用すると、脳内の神経細胞の機能が変化し、より頻回により多量に使用する必要が生じます 。
条件づけと使用欲求の理論では、ストレスや不安を解消するため、気分を改善するために薬物を使用しているうちに、徐々に使用量が増加して依存症に至ると説明されています 。このしくみは「条件づけ」理論で説明され、嗜癖行動は報酬によって強化・学習された習慣として理解されます 。
特定の刺激(注射針、薬物の売人、飲み屋、酒の臭い、テレビCMなど)が手がかりとなって薬物の使用欲求が誘発されることが研究で明らかになっており、この欲求は依存症の発症・持続だけでなく、再発にも関与することが報告されています 。
薬物依存症の治療において薬物療法は補助的な役割を担っています 。薬物乱用に伴う幻覚・妄想、興奮や易怒性に対しては抗精神病薬がよく効くことが確認されており、抑うつ状態の患者には自殺のリスクを慎重に見守る必要があります 。
参考)https://www.saiseikai.or.jp/medical/disease/drug_dependence/
精神状態が落ち着くまでには一定期間が必要で、入院治療を行うケースも多くあります。特に触法薬物使用者は地下に潜行しやすく、治療のきっかけが警察による逮捕であることが多いため、入院治療に傾きやすいとされています 。
しかし、薬物依存症患者の治療において薬物療法は乱用薬物の影響で生じた症状の軽減に対して一定の効果がある一方で、根本的な「薬物をやめる」という課題に対する直接的な解決策ではありません 。そのため、薬物療法は心理療法と併用して実施されることが一般的です。
参考)https://www.ncasa-japan.jp/you-do/treatment-method/drug-treatment-for-drug-addiction
薬物依存症治療の中核を担うのが認知行動療法(CBT: Cognitive Behavioral Therapy)です 。この治療法は依存症治療に効果(エビデンス)がある心理療法として世界中の治療現場で用いられており、日本の依存症専門治療施設でも頻繁に活用されています 。
参考)https://www.ncasa-japan.jp/you-do/treatment-method/psychotherapy
認知行動療法では「薬を使う」という行動を続けてしまう理由を、これらの行動が求める結果(報酬)をもたらすことを学習してしまったからと説明します 。例えば「クスリを使ったら嫌なことを忘れられた」などと、気づかぬうちに嗜癖行動と報酬の因果関係を学習してしまうのです 。
この治療法は問題行動のみならず、依存症者の薬物や周りの人、自分自身への見方や考え方(認知)を患者自身で検討し、その認知を新しく身につけることで、行動や生活、生き方に変化をもたらしていきます 。これは一人ではなく、グループの中で発言し、耳を傾けることで、自分の『認知の偏り』に気付くことができる治療形態です 。
参考)https://seimei-hp.or.jp/program/cbt/
薬物依存症からの回復において12ステッププログラムは重要な役割を果たしています 。DARC(Drug Addiction Rehabilitation Center)は薬物・アルコール依存症からの回復を支援する施設として、12ステッププログラムを中心とした治療を提供しています 。
参考)http://darc-ic.com
12ステッププログラムは「私たちはアディクションに対して無力であることを認める」から始まり、「スピリチュアルな目覚めを得てこの原理を実践する」まで段階的な回復プロセスを示しています 。このプログラムでは強制も暴力も命令も威嚇も使わず、薬物依存は自分ではどうしようもない生きづらさを基調としたものとして理解されています 。
参考)http://q-darc.com/wp/?p=687
ダルクでは医療機関と連携し、自助グループによる12ステッププログラムとクリニックによるデイケアプログラムを組み合わせて回復支援を行っています 。地域社会での生活支援として、ナイトケアハウスでの共同生活やボランティア活動を通じて、規則正しい生活習慣の確立や社会との健全なつながりの維持を目指しています 。
大阪府では「DAIJOB(Drug Addiction Improvement Program Join On With Buddy)」という薬物の問題を抱える方を対象としたプログラムが実施されており、仲間と一緒にワークブックを用いて薬物問題への具体的な対処方法を学び、薬物に頼らない生活を取り戻すことを目指しています 。このプログラムは「薬物の問題についての整理」から「回復の道のり」まで6回のセッションで構成されています 。
参考)https://www.pref.osaka.lg.jp/o100220/kokoronokenko/soudan2/kaihuku-s.html
薬物依存症の基本的な理解と治療法について - 厚生労働省の詳細資料
薬物依存症の専門的治療における外来治療プログラム - 国立精神・神経医療研究センター
依存症治療に効果のある心理療法の詳細 - 全国薬物依存症者家族会連合会