MSDの製薬企業としての特徴と医療革新への取り組み

世界的な製薬企業MSDの事業展開、革新的な医薬品開発、ワクチン事業の特徴について詳しく解説します。MSDが日本の医療業界に与える影響とは?

MSDの製薬事業における革新と将来展望

MSDの主要事業領域
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医療用医薬品開発

がん、感染症、循環器疾患など重点分野での新薬開発

💉
ワクチン事業

肺炎球菌ワクチンなど予防医学への貢献

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研究開発投資

年間305億ドルの巨額R&D投資による技術革新

MSDの企業概要と日本における事業展開

MSDは、グローバルヘルスケアリーダーMerck & Co., Inc., Rahway, NJ, USAの一員として、日本で医療用医薬品やワクチンの開発・製造・販売を手がける外資系製薬企業です。1891年の創業以来130年にわたり、人々の生命を救い、生活を改善する革新的な医薬品とワクチンを開発し提供することに全力で取り組んできました。
参考)https://www.msd.co.jp/about/summary/

 

日本国内では、本社を東京都千代田区に置き、資本金263億円、従業員約3,300人の規模で事業を展開しています。事業内容は医療用医薬品、ワクチンの開発・輸入・製造・販売が中心となっており、大阪オフィスや埼玉県の妻沼工場なども含めて全国主要都市で幅広く医療機関への供給体制を構築しています。
MSDの特徴的な点は、販促子会社として「日本MSD合同会社」を設立し、地域限定での雇用を行い多様な働き方の実現を推進していることです。これにより、医療用医薬品およびワクチンの共同プロモーション活動をより効率的に実施する体制を整えています。

MSDの医療用医薬品開発における技術革新

MSDの医薬品開発は、「最先端のサイエンスを駆使して、世界中の人々の生命を救い、生活を改善する」というパーパスの実現に向けて、研究開発を強化し継続的な投資を行っています。2023年の研究開発への投資額は305億ドルに達し、21,800名の研究活動従事者が世界中で1,400本以上の査読付きジャーナルでの論文発表を行っています。
参考)https://www.msd.co.jp/about/stories/in-our-commitment-to-rd-the-numbers-speak-for-themselves/

 

臨床試験の規模も圧倒的で、50カ国以上で330件以上の後期臨床試験を実施し、88,000名以上の患者が世界中の21,000以上の施設でMSDの臨床試験に登録しています。このような大規模な臨床開発体制により、がん、ワクチン、感染症、循環代謝疾患、免疫疾患、神経科学などの重点分野において革新的な医薬品やワクチンの研究開発方法に革命をもたらしています。
MSDの代表的な医薬品には、抗PD-1抗体「キイトルーダ」をはじめ、肺動脈性肺高血圧症治療薬「エアウィン」、がん治療薬「ウェリレグ」など、大型化が期待される新薬が含まれています。特に「キイトルーダ」は、がん免疫療法の分野で画期的な治療選択肢を提供し、MSDの主力製品として位置づけられています。
参考)https://answers.ten-navi.com/pharmanews/30967/

 

MSDのワクチン事業と予防医学への貢献

MSDは、ワクチン事業においても業界をリードする企業として知られており、特に肺炎球菌ワクチンの分野では35年以上にわたり日本の成人および小児の肺炎球菌感染症予防に貢献してきました。1988年に23価肺炎球菌莢膜ポリサッカライドワクチン「ニューモバックス」を発売し、2023年には沈降15価肺炎球菌結合型ワクチン「バクニュバンス」を発売するなど、継続的な製品ラインナップの拡充を図っています。
参考)https://www.msd.co.jp/news/product-news-20240809/

 

2025年8月には、成人に特化して設計された21価肺炎球菌結合型ワクチン「キャップバックス筋注シリンジ」の製造販売承認を取得しました。このワクチンは、日本人成人の市中肺炎の原因となる肺炎球菌血清型の71.9%をカバーし、高齢者や肺炎球菌による疾患に罹患するリスクが高い成人における肺炎球菌感染症の予防に大きな効果が期待されています。
参考)https://www.msd.co.jp/news/product-news-20250808/

 

肺炎は日本人の死因の第5位で、肺炎で亡くなる方の97.8%は65歳以上の高齢者が占めるという現状において、MSDのワクチン事業は日本の高齢社会における重要な医療課題の解決に寄与しています。特に侵襲性肺炎球菌感染症(IPD)は、発症した成人の22.1%が死亡し、8.7%に後遺症が残るという重篤な感染症であり、MSDのワクチン開発はこうした深刻な医療問題への対策として極めて重要な役割を果たしています。

MSDの研究開発パイプラインと将来戦略

MSDの研究開発パイプラインは業界でも屈指の充実度を誇っており、2025年2月時点でフェーズ2段階の開発プロジェクトが50件以上、フェーズ3段階の開発案件が30件以上、承認申請中の案件が5件以上という豊富な開発品群を有しています。開発領域はワクチン、ウイルス感染症、循環器、自己免疫疾患呼吸器疾患など多岐にわたっており、次世代の創薬技術の獲得にも積極的に取り組んでいます。youtube
特に注目される開発品として、RSV予防薬の「クレスロマブ」は2025年に承認が見込まれており、キイトルーダの皮下注射型製剤の開発も患者の利便性向上を目的として進められています。さらに、モデルナとの共同開発による眼がん領域でのmRNAベースワクチンは、キイトルーダとの併用療法として2024年に第3相試験が開始されており、新たな治療選択肢の提供が期待されています。youtube
MSDは、抗体薬物複合体(ADC)という新しい創薬技術分野にも注力しており、3種類のADCを共同で開発販売する契約を締結するなど、がん細胞を標的とする新たな治療法の研究を推進しています。このような外部との戦略的提携を通じて革新的な薬剤を生み出していく戦略は、MSDの持続的な成長を支える重要な要素となっています。
参考)https://www.msd.co.jp/about/stories/
youtube

MSDの独自技術と3Dプリンティング活用による医薬品製造革新

MSDの技術革新における特筆すべき取り組みとして、3Dプリンティング技術を活用した医薬品製造プロセスの革新があります。MSDの3Dテクノロジー部門(3DT部門)は、医薬品やワクチンの研究、開発、商業化の方法を変革する取り組みを進めており、従来の製造方法とは異なるアプローチでワークストリームの最適化、時間短縮、コスト削減、イノベーションの推進を実現しています。
参考)https://www.msd.co.jp/about/stories/3d-printing/

 

3Dプリンティングを用いた具体的な応用例として、吸入された薬剤の沈着パターンを研究するための解剖学的に正確な鼻腔模型の製作があります。この模型により、ラボでの試験の精度と正確性が向上し、製剤決定に要する時間が大幅に短縮されました。また、3D技術は研究室、製造現場、さらには宇宙においても活用されており、設計の自由度が高く材料の無駄が少ない製造プロセスを実現しています。
MSD 3DT部門ディレクターのマーク・デュランテは「3D技術はデジタルと物理的手段の究極的な調和であり、限界は人間の想像力のみです」と述べており、全社員が自らのアイデアを3DT部門と連携して実現できる体制の構築を目指しています。このような先進技術の活用により、医薬品やワクチンを必要としている人々により早く届けるという共通目標の達成に貢献しています。