呼吸器疾患の診療において、症状の適切な評価は治療方針決定の基盤となります。急性の呼吸困難を主訴とする疾患には、喉頭浮腫、気道異物、自然気胸、気管支喘息、慢性閉塞性肺疾患の急性増悪などの呼吸器疾患のほか、心不全や肺血栓塞栓症などの循環器疾患も含まれます。
主要な症状とその特徴:
COPD(慢性閉塞性肺疾患)は、長期間の有害物質の吸入によって起こる気道の慢性炎症性疾患で、可逆性の乏しい閉塞性障害があり、徐々に生じる息切れが特徴的です。有害物質といってもほとんどは喫煙が原因で、タバコ病とも言われています。40歳以上の日本人の有病率は8.6%と、かなりありふれた病気です。
一方、気管支喘息も同じく気道の慢性炎症性疾患ですが、アレルギーが原因であり、閉塞性障害も症状も可逆的である点でCOPDとは異なります。
COPD治療における薬物療法は、主に息切れに対して対症的に気管支拡張薬を使用します。治療薬の選択は重症度に応じて行うのが原則で、軽症のうちは苦しい時だけ短時間作用薬を使い、より重症になると定期的に長時間作用薬を使用します。
短時間作用性気管支拡張薬:
長時間作用性気管支拡張薬:
COPD患者の予後改善の秘訣は、併存症の早期診断・治療と増悪予防・軽減することであり、身体活動性の向上・維持に加え、安定期の患者には積極的に長時間作用型抗コリン薬(LAMA)を使用するべきです。増悪抑制の点から効果が不十分であれば、同じく吸入薬である長時間作用型β2刺激薬(LABA)との併用療法を検討します。
併用療法の考慮点:
気管支喘息治療において、吸入ステロイド薬(ICS)の登場以降、喘息死やコントロール不良患者の減少をもたらしました。現在では段階的な治療アプローチが確立されており、重症度に応じた適切な治療薬選択が可能になっています。
基本治療薬:
重症・難治性喘息に対する生物学的製剤:
高用量ICSだけではコントロール不良な患者や難治性喘息患者に対して、以下の4種類の生物学的製剤が使用できます。
難治性喘息とは、コントロールに高用量ICSおよびLABAに加えてロイコトリエン受容体拮抗薬、テオフィリン徐放製剤、LAMA、経口ステロイド薬、抗IgE抗体の投与を要する喘息、またはこれらの治療でもコントロール不能な喘息であり、一般的に重症喘息とも呼ばれます。
最近の呼吸器疾患治療において、ICS、LABA、LAMAの合剤であるトリプル吸入薬が登場しており、治療開始早期からの良好なコントロールを得る目的で、ステップダウンを意識した治療法も選択肢の一つとなってきています。
テリルジーエリプタの特徴:
テリルジーは、フルチカゾンフランカルボン酸エステル(ICS)、ウメクリジニウム臭化物(LAMA)、ビランテロールトリフェニル酢酸塩(LABA)の3成分を配合した吸入薬です。
適応症:
使用上の注意:
合剤使用のメリット:
呼吸器疾患の中でも、標準的な治療に反応しにくい患者への対応は臨床上の重要な課題です。最新の診療においては、様々な臨床情報から病態(臨床病型やバイオマーカー)把握を行い、フェノタイプ、エンドタイプを意識して適切なタイミングで治療法を選択することが重要です。
個別化医療のアプローチ:
新規治療薬の開発動向:
気管支拡張症の治療においても新たな進展が見られています。AIRLEAF試験では、気管支拡張症の成人患者を対象に、カテプシンC阻害薬BI 1291583の有効性が評価されました。この薬剤は、48週間までの最初の増悪までの時間に関して、用量依存的にプラセボよりも有意な効果を示しており、今後の治療選択肢として期待されています。
治療抵抗性への具体的対策:
非薬物療法との組み合わせ:
呼吸器疾患の治療においては、個々の患者の病態を正確に把握し、エビデンスに基づいた適切な治療薬選択を行うことが重要です。新しい治療選択肢の登場により、これまで治療困難とされていた患者に対しても、より良好なコントロールが期待できるようになってきています。定期的な治療効果の評価と、必要に応じた治療方針の見直しを行いながら、患者の QOL 向上を目指した包括的な治療アプローチが求められています。
日本心臓財団の呼吸器疾患に関する詳細な治療ガイドライン
https://www.jhf.or.jp/pro/hint/c4/hint012.html
テリルジーの臨床成績と使用方法に関する医療従事者向け情報
https://gskpro.com/ja-jp/products-info/trelegy/copd/clinical-trail/