呼吸器疾患の症状と治療薬:最新診療ガイド

呼吸器疾患の適切な診断と治療薬選択について、COPDや喘息の最新治療戦略を含めて詳しく解説します。症状の見極めから薬物療法まで、臨床現場で役立つ情報をお探しですか?

呼吸器疾患の症状と治療薬

呼吸器疾患診療の要点
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症状の適切な評価

息切れ、咳嗽、喘鳴などの症状から疾患を鑑別し、重症度を判定

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個別化された薬物療法

患者のフェノタイプに応じた治療薬の選択と組み合わせ

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最新の治療戦略

トリプル療法や生物学的製剤を含む先進的な治療アプローチ

呼吸器疾患の主要症状と鑑別診断のポイント

呼吸器疾患の診療において、症状の適切な評価は治療方針決定の基盤となります。急性の呼吸困難を主訴とする疾患には、喉頭浮腫、気道異物、自然気胸、気管支喘息、慢性閉塞性肺疾患の急性増悪などの呼吸器疾患のほか、心不全や肺血栓塞栓症などの循環器疾患も含まれます。

 

主要な症状とその特徴:

  • 息切れ(呼吸困難):労作性から安静時まで段階的に評価
  • 咳嗽:乾性咳嗽と湿性咳嗽の鑑別が重要
  • 喘鳴:呼気性喘鳴は気道狭窄を示唆
  • 胸痛:胸膜性疼痛と心疾患の鑑別が必要

COPD(慢性閉塞性肺疾患)は、長期間の有害物質の吸入によって起こる気道の慢性炎症性疾患で、可逆性の乏しい閉塞性障害があり、徐々に生じる息切れが特徴的です。有害物質といってもほとんどは喫煙が原因で、タバコ病とも言われています。40歳以上の日本人の有病率は8.6%と、かなりありふれた病気です。

 

一方、気管支喘息も同じく気道の慢性炎症性疾患ですが、アレルギーが原因であり、閉塞性障害も症状も可逆的である点でCOPDとは異なります。

 

COPD治療薬の選択と使い分け

COPD治療における薬物療法は、主に息切れに対して対症的に気管支拡張薬を使用します。治療薬の選択は重症度に応じて行うのが原則で、軽症のうちは苦しい時だけ短時間作用薬を使い、より重症になると定期的に長時間作用薬を使用します。

 

短時間作用性気管支拡張薬:

  • 吸入β2刺激薬(メプチンなど):即効性に優れる
  • 吸入抗コリン薬(テルシガンなど):β2刺激薬に次ぐ選択肢

長時間作用性気管支拡張薬:

  • 吸入抗コリン薬(LAMA)(スピリーバなど):最優先選択薬
  • 吸入β2刺激薬(LABA)(セレベントなど):LAMAと同等の優先度
  • 経口徐放性テオフィリン薬(テオドールなど):第3選択
  • 貼付β2刺激薬(ホクナリンなど):吸入困難な患者に有用

COPD患者の予後改善の秘訣は、併存症の早期診断・治療と増悪予防・軽減することであり、身体活動性の向上・維持に加え、安定期の患者には積極的に長時間作用型抗コリン薬(LAMA)を使用するべきです。増悪抑制の点から効果が不十分であれば、同じく吸入薬である長時間作用型β2刺激薬(LABA)との併用療法を検討します。

 

併用療法の考慮点:

  • 前立腺肥大や緑内障があればLAMAは禁忌
  • 頻脈性心疾患があればLABAは慎重に使用
  • LAMAとLABAの合剤(ウルティブロ)も選択肢

気管支喘息の薬物療法と生物学的製剤

気管支喘息治療において、吸入ステロイド薬(ICS)の登場以降、喘息死やコントロール不良患者の減少をもたらしました。現在では段階的な治療アプローチが確立されており、重症度に応じた適切な治療薬選択が可能になっています。

 

基本治療薬:

  • 吸入ステロイド薬(ICS):抗炎症作用により喘息の基本病態を改善
  • 長時間作用性β2刺激薬(LABA):気管支拡張作用
  • ロイコトリエン受容体拮抗薬:アレルギー反応の抑制
  • テオフィリン徐放製剤:気管支拡張と軽度の抗炎症作用

重症・難治性喘息に対する生物学的製剤
高用量ICSだけではコントロール不良な患者や難治性喘息患者に対して、以下の4種類の生物学的製剤が使用できます。

  • 抗IgE抗体製剤:アレルギー性喘息に有効
  • 抗IL-5抗体製剤:好酸球性喘息に特に有効
  • 抗IL-5受容体α鎖抗体製剤:好酸球の機能を直接阻害
  • 抗IL-4受容体α鎖抗体製剤:Th2型炎症を幅広く抑制

難治性喘息とは、コントロールに高用量ICSおよびLABAに加えてロイコトリエン受容体拮抗薬、テオフィリン徐放製剤、LAMA、経口ステロイド薬、抗IgE抗体の投与を要する喘息、またはこれらの治療でもコントロール不能な喘息であり、一般的に重症喘息とも呼ばれます。

 

呼吸器疾患における合剤治療の最新動向

最近の呼吸器疾患治療において、ICS、LABA、LAMAの合剤であるトリプル吸入薬が登場しており、治療開始早期からの良好なコントロールを得る目的で、ステップダウンを意識した治療法も選択肢の一つとなってきています。

 

テリルジーエリプタの特徴:
テリルジーは、フルチカゾンフランカルボン酸エステル(ICS)、ウメクリジニウム臭化物(LAMA)、ビランテロールトリフェニル酢酸塩(LABA)の3成分を配合した吸入薬です。

 

適応症:

  • 気管支喘息(ICS、LAMA、LABAの併用が必要な場合)
  • 慢性閉塞性肺疾患の諸症状の緩解(3剤併用が必要な場合)

使用上の注意:

  • 慢性閉塞性肺疾患の増悪時の急性期治療を目的として使用する薬剤ではない
  • 用法及び用量どおり正しく使用しても効果が認められない場合には、漫然と投与を継続せず中止する
  • 肺炎の発現リスクが高いと考えられる患者への投与時は注意が必要

合剤使用のメリット:

  • アドヒアランスの向上
  • 複数の作用機序による相乗効果
  • 治療の簡素化

治療抵抗性患者への対応戦略と新規治療法

呼吸器疾患の中でも、標準的な治療に反応しにくい患者への対応は臨床上の重要な課題です。最新の診療においては、様々な臨床情報から病態(臨床病型やバイオマーカー)把握を行い、フェノタイプ、エンドタイプを意識して適切なタイミングで治療法を選択することが重要です。

 

個別化医療のアプローチ:

  • バイオマーカーの活用:好酸球数、FeNO、IgE値など
  • フェノタイプ分類:症状パターンや病理学的特徴に基づく分類
  • エンドタイプ分析:分子生物学的機序に基づく分類

新規治療薬の開発動向:
気管支拡張症の治療においても新たな進展が見られています。AIRLEAF試験では、気管支拡張症の成人患者を対象に、カテプシンC阻害薬BI 1291583の有効性が評価されました。この薬剤は、48週間までの最初の増悪までの時間に関して、用量依存的にプラセボよりも有意な効果を示しており、今後の治療選択肢として期待されています。

 

治療抵抗性への具体的対策:

  • 薬剤変更・追加:異なる作用機序の薬剤への変更や追加
  • 吸入手技の見直し:適切な吸入ができているかの確認
  • 併存症の評価:胃食道逆流症、睡眠時無呼吸症候群など
  • 環境因子の除去:アレルゲンや刺激物質の回避

非薬物療法との組み合わせ:

  • 呼吸リハビリテーション:運動療法と呼吸法指導
  • 栄養管理:栄養状態の改善と体重管理
  • 禁煙指導:COPDの進行抑制に不可欠
  • ワクチン接種:インフルエンザワクチンなどによる感染予防

呼吸器疾患の治療においては、個々の患者の病態を正確に把握し、エビデンスに基づいた適切な治療薬選択を行うことが重要です。新しい治療選択肢の登場により、これまで治療困難とされていた患者に対しても、より良好なコントロールが期待できるようになってきています。定期的な治療効果の評価と、必要に応じた治療方針の見直しを行いながら、患者の QOL 向上を目指した包括的な治療アプローチが求められています。

 

日本心臓財団の呼吸器疾患に関する詳細な治療ガイドライン
https://www.jhf.or.jp/pro/hint/c4/hint012.html
テリルジーの臨床成績と使用方法に関する医療従事者向け情報
https://gskpro.com/ja-jp/products-info/trelegy/copd/clinical-trail/