力価計算の「公式」は、結局のところ“含有率(濃度)×秤る量=有効成分量”という比例関係の言い換えです。
散剤やドライシロップの例で「A%製剤」と書かれているとき、まず意味を日本語に直します。A%(w/w%想定)の製剤とは、「製剤100g中に有効成分A gが含まれる」と解釈できます。すると、製剤1g中の有効成分はA/100 g=(A×10) mgになります(g→mg換算で×1000)。この“1g中に何mg”が出れば、あとは比例で解けます。
公式としては、よく次の形で整理されます。
この形は、教育サイトでも頻出で、現場計算を高速化するのに向いています。
ただし、ここで一つ大事な注意があります。注射剤など「%」表記でも w/v%(質量対容量百分率)の世界が混ざることがあります。日局の通則・製剤各条では、有効成分の濃度を%で示す場合、注射剤などで w/v%を意味する旨が明記されています。つまり「%=必ずw/w」と決めつけるのは危険です。散剤の力価計算と、注射の濃度計算を同じノリでやると、単位の次元が崩れます。
参考:日本薬局方の単位や、力価の単位の考え方(通則の単位一覧、力価の単位は医薬品の量とみなす等)
第十七改正日本薬局方 通則(単位一覧、力価単位の扱い)
力価計算が難しく感じる最大の原因は、式の難しさではなく「求めたいのが製剤量なのか成分量なのか」を途中で取り違える点です。医療安全の報告でも、散剤の処方で“製剤量として処方すべき量がmgで記載され、薬剤師が成分量と解釈して調剤した”など、製剤量と成分量の誤認が背景になった事例が整理されています。さらに、医療機関ごとに処方の記載方法が異なり、持参薬から院内処方へ切り替える場面や紹介受診の場面で誤認が起きやすいことも示されています。
そこで、計算に入る前に「判定フロー」を固定すると事故リスクが下がります。
そして計算は、次の“安全な手順”で進めるのが確実です。
この手順は公式を使う場合でも同じで、公式は「1)を頭の中でやった結果を、まとめて書いたショートカット」と捉えると応用が効きます。
参考:製剤量と成分量の誤認が再発していること、処方システム・疑義照会の問題点と改善策
医療事故情報収集等事業 第66回報告書(製剤量と成分量の間違い:再発・類似事例)
力価計算は「秤る量」を出して終わりではなく、出した数が用量として妥当かを必ず点検します。医療安全報告では、添付文書の通常用量を大幅に超えているのに「適宜増減」と書かれていたため許容範囲と誤認した、という形の背景も記載されています。つまり、計算が合っていても“入力が間違っている”可能性を前提に監査する必要があります。
ここで役立つのが、ざっくりした「臨床量の肌感」と「システムのアラートの意味」の二段構えです。
とくに散剤では、同じ「10%」でも、処方を成分量で書く施設と製剤量で書く施設が混在します。持参薬の情報(お薬手帳や連携ノート)が製剤量ベースで書かれ、院内が成分量オーダで運用されている場合、切替時に事故が起きやすいことが報告されています。
この“施設間ギャップ”は、計算式では吸収できません。だからこそ、監査の手順(疑義照会を具体的に、用量が何倍かまで言語化する等)まで含めて「力価計算」として設計する必要があります。
力価計算は「mgとg」だけではありません。注射・生物学的製剤・電解質などでは、IU(国際単位)やmEqのように“質量ではない単位”が現れます。さらに日局の通則では、力価を示す単位は医薬品の量とみなす、とされており、単位(U等)は医薬品ごとに標準品との比較で定める、と整理されています。つまり「単位=mg換算できる」と短絡すると危険で、必ず“その製剤の定義”に戻る必要があります。
単位が絡むときの安全策は、次の通りです。
意外と盲点になるのが、「%」表記が“いつでも同じ意味”ではない点です。先ほど触れた通り、注射剤では%がw/v%を意味する旨が日局に書かれています。散剤のノリで「A%→A×10 mg/g」と変換すると、注射の世界では次元がズレます(gあたりではなくmLあたりの話に変わるため)。この切替をミスると、計算結果がそれっぽい数字で出てしまい、気づきにくいのが怖いところです。
検索上位の記事は「公式暗記」や「練習問題」が中心になりがちですが、現場で本当に効くのは“疑義照会が必要かどうかを短時間で判定する型”です。医療安全報告では、疑義照会があっても医師が添付文書を確認せず、薬剤師も疑問点を具体化しきれず、結果として過量投与につながったケースが示されています。つまり「疑義照会をした」という事実だけでは安全にならず、照会の質が重要です。
そこで、力価計算に直結する“照会テンプレ”を作っておくと強いです。
この型の良い点は、計算式を忘れていても運用が崩れにくいことです。比例で出した値を使って“言語化”し、相手の返答が曖昧なら上級医や別ルートへエスカレーションする、という流れが作れます。
力価計算の事故は「数学の誤り」より「前提(製剤量/成分量、単位の意味、施設ルール)の取り違え」で起きやすいので、独自視点としては“計算式の前に前提を固定するコミュニケーション設計”が、結果的に最短ルートになります。