力価(りきか)は、医薬品の「効き目(生物学的作用)」を基準化して数量として扱うための考え方です。厚労省が公開する日本薬局方(第十八改正)通則では、「医薬品の力価を示すとき用いる単位は医薬品の量とみなす」と明確に書かれており、力価は“量”そのものとして扱われます。さらに同通則は、力価は「通例,一定の生物学的作用を現す一定の標準品量」で示され、医薬品の種類によって異なること、そして「単位は原則として生物学的方法によってそれぞれの標準品と比較して定める」ことを示しています。
ここで重要なのは、力価が「なんとなく強い/弱い」を言う俗語ではなく、標準品(スタンダード)と比較して数値化される“定量概念”だという点です。言い換えるなら、力価は「その医薬品が、標準品に比べてどれだけ作用を示すか」を、同じ土俵で測れるようにした“共通通貨”です。
医療現場では、力価は主に次のような形で出会います。
この2つは別物に見えますが、日本薬局方の立て付けとしてはどちらも「力価=医薬品の量」という整理に収まります。つまり、力価表記に出会ったときの第一歩は、「これは質量なのか、活性なのか」を感覚で当てることではなく、「この薬の“量”の定義が何で固定されているか(標準品は何か、測定法は何か)」を確認することです。
参考(力価の定義の根拠:日本薬局方 通則10)
(JP18通則の“力価は医薬品の量”という規定)
https://www.mhlw.go.jp/content/11121000/001329439.pdf
医療現場で混同が起きやすいのが、「単位(U)」と「国際単位(IU)」です。ざっくり言えば、どちらも“生物学的活性”を基にした表記として扱われますが、現場では「U=IU」と短絡しがちで、そこに落とし穴があります。
まず押さえたいのは、単位やIUは「mgのように普遍の換算ができる単位」ではない、ということです。インスリンの例では、重量ではなく生物学的力価として「単位」で表す歴史的背景があり、インスリンの国際標準品に基づいて「1mg当たり何単位」といった形で規格化されてきました。日本薬剤師会の資料では、インスリン発見当初に純度が一定しないため重量で表現できず、ウサギの血糖降下作用(痙攣を起こす最少量)を使って1単位を定義した経緯、国際標準品での定義の変遷、そして現在の規格化に至る説明がまとめられています。
ここから得られる現場的な結論は明快です。
特にインスリンは、濃度が100単位/mLに統一されてきた経緯があり、ここでも「単位」と「mL」の読み違いが事故につながり得ます。日本薬剤師会の資料は、単位とmLの見誤りが100倍投与につながる危険性に触れ、記載が不明瞭な場合は必ず確認する重要性を強調しています。
参考(インスリンの「単位」の歴史と、単位・mLの誤認リスク)
https://www.nichiyaku.or.jp/files/co/pharmacy-info/insulin_h23_s3.pdf
「mg(力価)」という表記は、初見だと“mgと何が違うのか”が直感でつかみにくい表記です。しかし実務的には、ここを曖昧にしたまま運用すると、処方監査・調剤監査の弱点になります。
mg(力価)が必要になる典型的な状況は、「重量としてのmg」と「作用としてのmg」が一致しにくい、もしくは一致させる必要があるのに製剤や原薬の由来・純度・分子型(塩、エステルなど)でズレが出る場面です。日本薬局方部会の議事録では、抗生物質の“力価”の扱いが歴史的に複雑であること、標準品の構造・純度によって力価の定義が異なり得ること、そして高純度で構造が同定された標準品では「化学的純物質1mg(力価)」のように定義される一方、構造不明・低純度では生物活性に基づく「単位」で定義される、といった考え方が説明されています。
ここが「mg(力価)」の要点です。
意外と知られていないポイントとして、医薬品の品質試験(力価試験)の世界では、微生物学的な力価試験から、製造技術の発展に伴う物理化学的測定(例:液体クロマトグラフ法など)へ移行してきた経緯があります。これは「力価=動物実験や菌の阻止円だけで決める古い概念」と誤解されがちなところですが、実際には“標準化された量を担保するための試験体系”として更新され続けています。
参考(抗生物質などにおける力価=mg(力価)の位置づけ、標準品と定義の違い)
2013年10月30日 薬事・食品衛生審議会 日本薬局方部会…
力価が絡む事故・ヒヤリハットの多くは、薬理学の難しさより「表記の読み替え」と「前提の思い込み」から起きます。特に危険なのが、次の3パターンです。
インスリンでは濃度が100単位/mLに統一されている一方で、「単位ではなくmLで指示される場合がある」ことが指摘されています。単位数とmL数を見誤ると100倍投与になる危険がある、という警告は、忙しい現場ほど刺さるはずです。
日本薬剤師会の資料は、手書きの「U」が「CC」に読み違えられて100倍投与につながった事例など、典型的な誤認リスクを挙げています。今どきは電子化が進んでも、口頭・メモ・緊急時の走り書きはゼロになりません。
経験則は役立つ一方で、力価表記(mg(力価)など)が混ざった瞬間に破綻します。疑わしいときに「たぶんこうだろう」で進めず、疑義照会・IF確認・添付文書確認に戻る、という当たり前の動きが最終的に最短です。
医療従事者向けに、力価が絡む指示を受け取った際の“実務チェック項目”を、あえて簡潔に並べます(入れ子にしない運用のため、1行1項目にします)。
参考(インスリンでの単位・mL誤認、U表記誤読などの医療安全上の注意)
https://www.nichiyaku.or.jp/files/co/pharmacy-info/insulin_h23_s3.pdf
検索上位でよくある説明は「力価=効き目の強さ」「IU=国際単位」といった定義で止まりがちですが、現場の教育・引き継ぎで本当に効くのは「標準品(スタンダード)依存である」という一点です。これは、薬剤部・病棟・検査部など“部署を跨ぐと説明が途切れやすい”盲点でもあります。
日本薬局方は、力価が「一定の標準品量」で示され、標準品と比較して定めるという原則を示しています。ここから導ける実務上の示唆は、次の通りです。
たとえばインスリンの歴史は、国際標準品の定義が変遷し、1mg当たりの単位が変わってきたことを示しています。つまり「単位で表すから安全」ではなく、「単位は標準品により保証されているから運用できる」であり、その背景を知らないと、誤った自信が生まれます。
この独自視点を、明日からの運用に落とすなら、次の一文に集約できます。
「力価表記は“規格の言語”なので、現場の共通語に翻訳する役割(薬剤師・教育担当)が必要」
新人教育や多職種カンファレンスで使える、短い例を置いておきます。
参考(力価の“標準品比較”という原則:日本薬局方 通則10)
https://www.mhlw.go.jp/content/11121000/001329439.pdf