フェリチンと貧血の関係から疾患診断まで

フェリチンは体内の鉄貯蔵量を反映する重要な検査項目です。低値時の隠れ貧血から高値時の肝障害まで、フェリチン値から何がわかるのでしょうか?

フェリチン検査と基準値

フェリチン検査でわかる体内の鉄状態
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血清フェリチンの基準値

男性:20-250ng/ml、女性:10-80ng/ml(閉経後は男性と同様の値)

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鉄欠乏症の診断基準

血清フェリチン値が12ng/ml未満で鉄欠乏性貧血の確定診断

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検査の特徴

体内の貯蔵鉄量を最も正確に反映する指標として利用される

血清フェリチンは体内の鉄貯蔵量を反映する最も重要な検査項目の一つです 。基準値は男性で20~250ng/ml、女性では10~80ng/mlとされており、閉経後の女性は男性と同様の範囲になります 。検査方法による違いはありますが、一般的に男性の方が低値から高値まで幅広い値を示し、女性は低値で範囲が狭くなる特徴があります 。
参考)https://www.toseki.tokyo/blog/ferritin/

 

フェリチンは鉄を貯蔵する高分子タンパク質で、24個のタンパク質から成る球状タンパク質複合体を形成しています 。肝臓、脾臓、骨髄、胎盤などの組織に広く分布し、組織内の貯蔵鉄量を正確に反映する特性を持っています 。血清フェリチン1ng/mlが貯蔵鉄8~10mgに相当するため、生体の鉄状態を把握する上で極めて有用な指標とされています 。
参考)https://www.lalacli.com/iron_deficiency/

 

フェリチン検査の確定診断における重要性

血清フェリチン値が12ng/ml未満の場合、鉄欠乏性貧血の確定診断が可能です 。これは日本鉄バイオサイエンス学会の治療指針でも採用されている診断基準で、フェリチンが低下する病態は鉄欠乏性貧血以外にはないため、確定診断として用いることができます 。一般的な血液検査では測定されていない項目のため、医師への相談が必要です 。
参考)https://maeda.clinic/blog/20231122_diagnosis-of-iron-deficiency/

 

フェリチン検査は、ヘモグロビン値が正常でも貯蔵鉄の不足を早期に発見できる優れた特徴を持っています 。鉄欠乏の進行は「フェリチンの減少→血清鉄の減少→ヘモグロビンの減少」の順で起こるため、表向きは貧血でなくても将来的に貧血になる可能性のある「隠れ貧血」の発見に不可欠です 。
参考)https://www.healthy-pass.co.jp/blog/20230111-2/

 

フェリチン測定時の注意点と制限

フェリチン値の解釈には注意が必要な状況があります。発熱や感染症を伴う場合、血清フェリチンが異常高値となり、実際の貯蔵鉄量を反映しない可能性があります 。特に高齢者では長年にわたる軽微な炎症の蓄積により、45ng/ml以下でも鉄欠乏症の可能性を考慮する必要があります 。
慢性炎症性疾患が存在する場合、血清フェリチン値が100ng/ml(慢性腎臓病では200ng/ml)を下回る場合には、慢性炎症性疾患に伴う貧血に鉄欠乏症が合併している可能性が示唆されます 。また、肝障害、悪性腫瘍、心筋梗塞などの病気でも血清フェリチン値が高値を示すことがあるため、総合的な判断が重要です 。
参考)https://miyake-naika.com/01sindan/ferritin.html

 

フェリチン値から判明する潜在性鉄欠乏症

潜在性鉄欠乏症(隠れ貧血)は、ヘモグロビン値が正常値でもフェリチンが不足した状態を指します 。2009年度の厚生労働省の国民健康・栄養調査によると、フェリチンが15ng/ml未満の鉄欠乏性貧血と隠れ貧血を合わせると、日本人女性の約23%(1400万人)にも及ぶとされています 。
参考)https://www.igaku-shoin.co.jp/paper/archive/y2022/3488_04

 

2023年の国民健康・栄養調査では、20代~40代の女性の4人に1人(25.7%)が鉄欠乏性貧血であり、フェリチン値については20~40代の女性の3人中2人(65.5%)が25ng/ml未満、2人に1人(47.8%)が14ng/ml未満の鉄欠乏状態でした 。このような隠れ貧血の状態では、体内での鉄の役割が赤血球の構成だけでないため、ヘモグロビンが正常範囲内でも全身倦怠感や精神症状を生じます 。
参考)https://women-wellness.metro.tokyo.lg.jp/columns/26/

 

フェリチン高値が示す疾患スクリーニング

血清フェリチン値が250ng/ml以上の高値を示す場合、体内の貯蔵鉄が過多になっている可能性や、肝障害、感染症、悪性腫瘍、心筋梗塞などの病気が疑われます 。輸血後鉄過剰症患者では、40%にトランスアミナーゼの異常が認められ、フェリチン値の増加に従って肝障害の頻度が増加することが報告されています 。
参考)https://www.kitasato-u.ac.jp/ktms/kaishi/pdf/KI47-1/KI47-1p001-009.pdf

 

成人発症スティル病では、血清フェリチンの上昇が最たる特徴とされ、正常上限の5倍以上をカットオフ値とする診断基準があります 。また、晩発性皮膚ポルフィリン症では血清フェリチン値が正常範囲をわずかに超える程度でも、肝臓の鉄増加に起因する酸化ストレスの亢進が症状の原因となることがあります 。
参考)https://www.msdmanuals.com/ja-jp/professional/10-%E5%86%85%E5%88%86%E6%B3%8C%E7%96%BE%E6%82%A3%E3%81%A8%E4%BB%A3%E8%AC%9D%E6%80%A7%E7%96%BE%E6%82%A3/%E3%83%9D%E3%83%AB%E3%83%95%E3%82%A3%E3%83%AA%E3%83%B3%E7%97%87/%E6%99%A9%E7%99%BA%E6%80%A7%E7%9A%AE%E8%86%9A%E3%83%9D%E3%83%AB%E3%83%95%E3%82%A3%E3%83%AA%E3%83%B3%E7%97%87

 

フェリチン検査による個別化医療の実現

フェリチン値は個人の体質や病状に応じた個別化医療を可能にします。腎不全がある場合は血清フェリチン濃度100ng/ml未満で鉄補充を行い、女性では30ng/ml以下で貧血がなくても貧血症状が出現する可能性があります 。鉄欠乏性貧血の治療目標値は一般的に25~250ng/mlとされていますが、基礎疾患や合併症によって目標値が変化することもあります 。
参考)https://www.glicli-snd.com/renal-anemia/

 

治療効果の判定においても、フェリチン値は重要な指標となります。十分にフェリチンが増加していない状態で鉄剤の使用を中止すると、貧血をすぐに再発してしまう可能性があるため、適切な治療期間の判断にも活用されています 。このように、フェリチン検査は単なる診断ツールを超えて、治療方針の決定と効果判定において中心的な役割を果たしています。
参考)https://ubie.app/byoki_qa/clinical-questions/xem6kzeub2ok