鉄欠乏性貧血の診断には、血液検査による複数の指標の確認が必要です 。日本鉄バイオサイエンス学会の診断基準では、ヘモグロビン濃度12g/dl未満、総鉄結合能(TIBC)360μg/dl以上、血清フェリチン値12ng/ml未満の3つの条件を満たすことが求められます 。
血清フェリチンは体内の貯蔵鉄を反映する最も重要な指標で、鉄欠乏の早期発見に有効です 。ヘモグロビン濃度が正常でも血清フェリチンが低値の場合は、鉄欠乏状態として治療開始が推奨されます 。また、平均赤血球容積(MCV)や平均赤血球ヘモグロビン濃度(MCHC)の測定により、小球性低色素性貧血の特徴を確認します 。
参考)https://www.fuyukilc.or.jp/column/%E7%94%A3%E5%A9%A6%E4%BA%BA%E7%A7%91%E9%A0%98%E5%9F%9F%E3%81%AB%E3%81%8A%E3%81%91%E3%82%8B%E9%89%84%E6%AC%A0%E4%B9%8F%E6%80%A7%E8%B2%A7%E8%A1%80%E3%81%AB%E3%81%A4%E3%81%84%E3%81%A6-%EF%BD%9E%E6%97%A5/
WHO基準では、成人男性のヘモグロビン値13g/dl未満、成人女性・小児12g/dl未満、妊婦・幼児11g/dl未満を貧血と定義しており、重症度の判定に活用されています 。
参考)https://ohba-cl.com/blog/%E9%89%84%E4%B8%8D%E8%B6%B3%E3%81%A7%E3%81%8A%E6%82%A9%E3%81%BF%E3%81%A7%E3%81%99%E3%81%8B%EF%BC%9F%E9%89%84%E6%AC%A0%E4%B9%8F%E6%80%A7%E8%B2%A7%E8%A1%80%E3%82%92%E5%BE%B9%E5%BA%95%E8%A7%A3%E8%AA%AC/
鉄欠乏性貧血の最も多い原因は、女性の過多月経による性器出血で全体の31.6%を占めています 。月経がある10代後半から50代前半の女性は特にリスクが高く、子宮筋腫や子宮癌などの婦人科疾患が背景にある場合もあります 。
参考)https://hinketsu-zeria.jp/examination-treatment/cause/
男性や閉経後女性では、消化管出血が主要な原因となり、胃潰瘍、十二指腸潰瘍、大腸ポリープ、胃癌、大腸癌などの疾患が関与します 。妊娠・授乳期には胎児への鉄供給や分娩時出血により鉄需要が増加し、鉄欠乏が起こりやすくなります 。
参考)https://www.nakatani-naika.jp/blog/iron-deficiency-anemia/
その他の原因として、過度なダイエットや菜食による鉄摂取不足、胃切除後やピロリ菌感染による鉄吸収障害、思春期や成長期における鉄需要の増加があげられます 。
参考)https://www.aokuli.com/anemia-dizziness-palpitations/
鉄欠乏性貧血では、酸素運搬能力の低下により全身に様々な症状が現れます 。一般的な症状として、疲労感、動悸、息切れ、めまい、立ちくらみ、頭痛、顔面蒼白などがあります 。
参考)https://ebihara-otona-kodomo.com/blog/post-390/
鉄欠乏性貧血に特徴的な症状として、爪が薄くなりスプーン状に反り返る「スプーンネイル」、氷を異常に食べたくなる「氷食症」、味覚障害、口角炎、舌炎、食べ物の飲み込みにくさなどがあります 。また、下まぶたの裏側(眼瞼結膜)が白っぽくなる蒼白も重要な徴候です 。
参考)https://machinaka.clinic/blog/%E6%84%8F%E5%A4%96%E3%81%A8%E7%9F%A5%E3%82%89%E3%81%AA%E3%81%84%E8%B2%A7%E8%A1%80%E3%81%AE%E3%81%AF%E3%81%AA%E3%81%97
重症例では過呼吸、集中力低下、イライラ、抜け毛、肌の乾燥、下肢のむくみ、耳鳴りなどの症状も認められます 。貧血の進行が緩徐な場合は重症でも症状が軽微なことがあり、ヘモグロビン値7-8g/dlを下回る場合は緊急対応が必要とされます 。
参考)http://www.takamiseikei.com/blog/2020/06/post-58-740020.html
鉄欠乏性貧血の治療は、原因に対する治療と鉄補充療法が基本となります 。鉄剤の経口投与が第一選択で、フェロミア®、フェロ・グラデュメット®、フェルムカプセル®、インクレミンシロップ®などが使用されます 。
参考)https://soujinkai.or.jp/himawariNaiHifu/iron-deficiency-anemia/
経口鉄剤は1日1-3回服用し、吐き気や便秘などの副作用対策として食後投与や制酸剤との併用が行われます 。服用後の便の黒色化は正常な反応で心配は不要です 。経口投与が困難な場合や急速な改善が必要な場合は、注射による鉄剤投与が選択されます 。
通常2-3か月で鉄欠乏は改善されますが、基準値回復後も数か月間の継続投与が推奨されています 。重篤な症例では輸血による直接的なヘモグロビン濃度上昇も検討されます 。治療と並行して原因疾患の特定と治療が重要で、消化管出血や婦人科疾患の精査が必要です 。
参考)https://www.med.oita-u.ac.jp/syuyou/ida.html
鉄欠乏性貧血の予防には、バランスの取れた食事による十分な鉄分摂取が重要です 。食品中の鉄分には、肉や魚に含まれる「ヘム鉄」と、野菜や穀物に含まれる「非ヘム鉄」があります 。ヘム鉄の吸収率は15-25%と高く、非ヘム鉄は2-5%と低いため、効率的な摂取にはヘム鉄を中心とした食事が推奨されます 。
参考)https://brand.taisho.co.jp/contents/beauty/531/
鉄分豊富な食品として、レバー、赤身肉、カツオ、マグロ、あさり、しじみなどの動物性食品が挙げられます 。植物性では、ほうれん草、小松菜、大豆製品、ひじき、プルーンなどが有効です 。鉄の吸収を促進するビタミンCを含む食品との組み合わせが効果的で、柑橘類やトマト、ピーマンなどと一緒に摂取すると良いでしょう 。
参考)https://www.ncc.go.jp/jp/ncce/division/nutrition_management/info/seminar/recipe/recipe194.pdf
一方で、緑茶、コーヒー、紅茶に含まれるタンニンは鉄の吸収を阻害するため、食前後の摂取は控えることが推奨されます 。食事中や食事前後は麦茶や水に変更し、濃い茶類は食間に摂取するよう配慮が必要です 。
参考)https://news.yahoo.co.jp/expert/articles/5733e9f0fe14e95cf72bcaaede4d6718c3237e6a