フルボキサミンの精神神経系副作用は、SSRI特有のセロトニン系への影響により発現します。最も頻度の高い副作用として眠気があり、5%以上の患者で認められています。この眠気は投与初期に特に顕著で、通常は継続投与により軽減する傾向があります。
錐体外路障害として振戦・アカシジア様症状・顎不随意運動・開口障害・頬筋痙攣などが報告されており、これらはドパミン系への間接的な影響によるものと考えられています。頻度は0.1~5%未満と比較的稀ですが、高齢者や併用薬によってはリスクが上昇する可能性があります。
その他の精神神経系副作用として以下が報告されています。
これらの症状は特に治療開始2-3週間以内に出現しやすく、脳内セロトニン濃度の変化に対する神経系の適応過程で生じると考えられています。
フルボキサミンの消化器副作用は、消化管に分布するセロトニン受容体(5-HT3受容体)への作用により発現します。最も一般的な副作用は嘔気・悪心で、約8%の患者に認められており、これはフルボキサミンの代表的な副作用とされています。
主な消化器副作用の頻度と特徴。
これらの副作用は服用開始初期に最も強く現れ、通常2-4週間程度で軽減することが多いとされています。消化器副作用への対策として、以下のアプローチが効果的です:
段階的増量:初回用量を最小限にして、副作用の発現を最小化しながら徐々に治療用量まで増量する方法です。
服薬タイミングの調整:食後服用により胃腸への直接刺激を軽減できます。
対症療法:制吐剤や整腸剤の併用による症状緩和が有効な場合があります。
フルボキサミンの循環器副作用は、セロトニンの心血管系への影響により発現します。主な副作用として頻脈、動悸、血圧変動が報告されており、頻度は0.1~5%未満とされています。
具体的な循環器副作用。
これらの副作用は特に高齢者や心血管疾患の既往がある患者で注意が必要です。起立性低血圧は転倒リスクと関連するため、患者への十分な説明と注意喚起が重要です。
心血管系副作用のモニタリングとして、定期的な血圧測定、脈拍チェック、心電図検査(必要時)が推奨されます。特に治療開始初期や用量変更時には、より頻繁な観察が必要です。
併用薬物との相互作用により循環器副作用が増悪する可能性があるため、他の心血管作用薬との併用には慎重な検討が必要です。
セロトニン症候群は、フルボキサミン使用時に最も注意すべき重篤な副作用です。脳内セロトニン濃度の過剰により発現し、生命に関わる緊急事態となる可能性があります。
セロトニン症候群の三大症候群。
精神症状:錯乱、興奮、激越、意識レベルの変化
自律神経症状:発熱(38℃以上)、発汗過多、頻脈、血圧変動
神経・筋症状:ミオクロヌス(ぴくつき)、振戦、反射亢進、筋硬直
診断には「Hunterの基準」が用いられ、セロトニン作用薬の服用歴がある患者で、以下のいずれかが認められる場合にセロトニン症候群と診断されます。
高リスク要因として、他のセロトニン作用薬との併用があります。
早期診断と迅速な対応が予後を大きく左右するため、医療従事者は症状の早期発見に努める必要があります。
フルボキサミンによる性機能障害は、国内外で報告頻度に大きな差がある副作用です。日本国内の添付文書では「性欲障害」として頻度不明に分類されていますが、海外では積極的な質問により5割以上で認められたとする報告があります。
性機能障害の種類と特徴。
男性。
女性。
この副作用は、セロトニンの性機能中枢への影響により発現すると考えられています。特に5-HT2受容体への作用が性機能抑制に関与するとされており、SSRIクラス共通の副作用として知られています。
性機能障害の対策。
用量調整:可能な限り最小有効用量での維持
休薬日の設定:週末などに一時的な休薬(医師と相談の上)
他剤への変更:ミルタザピンやブプロピオンなど性機能への影響が少ない薬剤への変更検討
併用療法:PDE5阻害薬の併用(男性の場合)
患者からの自発的な報告は少ないため、医療従事者側からの積極的な聞き取りが重要です。QOLに大きく影響する副作用であり、治療継続の阻害要因となりやすいため、十分な配慮と対策が必要です。