蜂窩織炎における**経験的治療(Empiric Therapy)は、培養結果を待つことなく起炎菌を推定して治療を開始する手法です。最も頻度の高い起炎菌である黄色ブドウ球菌とA群β溶血性連鎖球菌(溶連菌)**の両方をカバーできる抗菌薬を第一選択とします。
軽症から中等症の場合、第一世代セフェム系抗菌薬が標準的な選択となります。
点滴治療の場合:
経口治療の場合:
ペニシリンアレルギーがある患者では、クリンダマイシン600mg 8時間ごとを追加選択肢として考慮します。
💡 独自視点:抗菌薬選択の裏技
実際の臨床現場では、患者の職業や生活環境も抗菌薬選択に影響します。例えば、淡水暴露がある患者ではAeromonas hydrophilaも考慮し、動物との接触歴がある場合はパスツレラ菌も想定する必要があります。
抗菌薬治療と同等に重要なのがRICE療法です。これは単なる補助的治療ではなく、治療成績を大幅に改善する必須の療法です。
RICEの具体的内容:
特に下肢の蜂窩織炎では、軽度挙上を継続することで治癒期間が大幅に短縮されることが知られています。入院治療の利点の一つは、このRICE療法を確実に実施できることです。
注意点: 動脈狭窄による下肢の還流不全がある場合は、患部挙上が逆効果になるため慎重な判断が必要です。
治療期間の決定は、従来の経験則からエビデンスに基づいた期間設定へと変化しています。
標準的治療期間:
治療期間延長の適応:
興味深いことに、5日以内に軽快する蜂窩織炎は5日以上の抗菌薬投与は不要という研究結果があります。これは治療の個別化において重要な指標となります。
蜂窩織炎の治療戦略は重症度によって大きく異なります。
軽症例の治療:
中等症例の治療:
重症例の治療:
好中球減少患者への特別対応:
好中球減少がみられる患者では、バンコマイシン+セフェピムまたはメロペネムによる広域抗菌薬治療が必要です。これは通常の蜂窩織炎治療とは大きく異なるアプローチです。
蜂窩織炎の再発率は約半数と非常に高く、再発予防が治療成功の鍵となります。youtube
短期予防戦略(1-2ヶ月):
長期予防戦略:
リスクが回避できない場合(ペットとの同居継続など)は、ドキシサイクリン経口投与を選択します。これは腸内細菌のセファロスポリン耐性化を避けるための戦略的選択です。
根本的予防対策:
蜂窩織炎の基本的な病態と治療に関する看護師向け解説資料
蜂窩織炎の最新ガイドラインに基づいた診断・治療指針
プライマリ・ケア医向けの蜂窩織炎診療実践ガイド