菌血症は重篤な感染症の一つであり、その死亡率は病原菌の種類や患者背景によって大きく異なります。グラム陰性桿菌菌血症の死亡率は特に高く、きわめて危険な状態とされています。
日本における薬剤耐性菌による菌血症死亡の実態調査によると、2017年には年間8,000例以上が死亡していることが明らかになっています。特に注目すべきは以下の点です:
この統計データから、MRSA菌血症による死亡は減少傾向にある一方で、FQREC菌血症による死亡が増加していることが読み取れます。
菌血症の最も恐ろしい特徴は、その急激な病状の進行です。実際の症例では、診断から死亡まで極めて短時間で進行することがあります。
クロストリジウム・パーフリンジェンス敗血症の急性例では、80歳の糖尿病患者が消化器症状と発熱で入院後、わずか2.5時間で突然死亡した事例が報告されています。剖検では肝膿瘍と大量の血管内溶血が確認されました。
血液疾患患者における菌血症の特徴として、以下の点が挙げられます:
Lemierre症候群では、適切な抗菌薬投与の遅れが重症化の原因となり、脳膿瘍や敗血症性肺塞栓症などの重篤な合併症により死亡例も報告されています。
菌血症による死亡リスクを予測する要因として、複数の研究で検討されています。主要な危険因子には以下があります:
患者背景に関する要因
病原菌に関する要因
Pseudomonas aeruginosa菌血症では93%の症例が3日以内に死亡し、平均生存期間は1.7±1.6日と極めて予後不良です。
検査データによる予後予測
菌血症の診断と治療における課題は、早期発見と適切な抗菌薬選択にあります。7日・30日死亡率の指標が医療機関で監視されており、治療成績の向上が求められています。
血液培養検査の重要性
血液培養は菌血症診断の金標準ですが、結果判明まで数日を要するため、empiric therapyの選択が重要となります。PCR-焦磷酸測序法などの迅速診断法の導入により、早期の病原体同定が可能になってきています。
抗菌薬治療期間の最適化
最近の研究では、血流感染症の抗菌薬治療について7日間と14日間の比較が行われており、治療期間の最適化が検討されています。血流感染症診断後90日以内の死亡率は、7日群で14.5%、14日群で16.1%と報告されています。
薬剤耐性菌への対策
薬剤感受性試験に基づく抗菌薬選択が死亡率低下の鍵となります。特に気単胞菌血流感染では、カルバペネム系の耐性率が高いため(68.3~70.7%)、セファロスポリン系やキノロン系の選択が推奨されます。
菌血症による死亡を予防するため、意外な観点からの注意点があります。
プロバイオティクス関連菌血症のリスク
大阪大学の研究により、プロバイオティクスが原因となる菌血症が報告されています。2011~2023年の調査では、6,576例の血液培養陽性例中5例(0.08%)でClostridium butyricum菌血症が発生し、1名が死亡しています。
このうち4名はMIYAIRI 588株含有製剤(ミヤBM®)を摂取しており、全ゲノム解析でプロバイオティクス由来であることが確認されました。特に免疫抑制状態の患者では、不必要なプロバイオティクス処方は避けるべきです。
口腔内細菌による周術期菌血症
周術期における口腔ケア不良が原因となる菌血症死亡例も報告されています。手術前の口腔内環境改善が、予期しない菌血症による死亡を防ぐ重要な予防策となります。
COVID-19患者における重複感染
COVID-19パンデミック下では、ウイルス感染に合併する細菌・真菌感染による死亡例が増加しています。特にhypervirulent Klebsiella pneumoniaeによる重複感染では、急速な呼吸不全により死亡に至るケースが報告されており、COVID-19患者の菌血症スクリーニングの重要性が指摘されています。
菌血症による死亡を防ぐためには、病原菌の特性を理解し、患者の危険因子を適切に評価し、迅速で的確な診断・治療を行うことが不可欠です。また、予期しない感染源にも注意を払い、包括的な感染管理対策を実施することが求められます。