イノラスで下痢(軟便含む)が話題になりやすい最大の理由は、「高濃度ゆえの浸透圧」と「投与のしかた」が絡みやすい点です。イノラスは高濃度(1.6kcal/mL)で、浸透圧が670mOsm/Lと高めであり、急速に投与すると下痢の原因になり得ると解説されています。加えて、水分量が少なめになりやすい設計で、900kcal投与しても水分投与量が限られるため、追加水の設計がないと“脱水ぎみ→腸管負荷が上がる”流れを助長しやすい点も現場では見逃せません。
「浸透圧性下痢」の臨床像としては、投与開始・増量のタイミングで急に便が水様化し、発熱や炎症所見に乏しい一方、速度を落とすと改善するパターンが典型です。福岡県薬剤師会のQ&Aでも、経腸栄養剤の下痢は“高浸透圧”“脂質量”“乳糖不耐症やアレルギー”等の組成要因に加え、「投与速度が速いほど起こりやすい」と整理されています。つまり、イノラスが合わないと決めつける前に、速度・希釈・追加水・投与方法(ボーラス/間歇/持続)を一度「設計し直す」だけで改善する症例は少なくありません。
実務上のコツは、下痢が出た瞬間に“中止一択”にせず、次の順で再現性を潰していくことです。
参考:経腸栄養剤の下痢の原因(浸透圧、投与速度、細菌汚染、温度管理など)と対策が表で整理されています。
「イノラスとエンシュアの違い」を下痢の観点でみると、カロリー密度と浸透圧が臨床挙動を変えます。エンシュア(エンシュア・リキッド等)は“従来からある医薬品経腸栄養剤”として扱われ、対してイノラスは高濃度で必要量を少ない容量で満たす方向に振られています。ヘルスケア・レストランの解説では、イノラスは1.6kcal/mLで、浸透圧も670mOsm/Lと通常の栄養剤の約2倍であり、急速投与で下痢の原因になり得るとされています。
一方で、下痢は「成分の優劣」ではなく「患者背景×投与設計×運用」で決まることが多いです。たとえば、嚥下は保たれているが摂取量が上がらない高齢者では、少量でカロリーを稼げるイノラスが有利になり得ます。しかし、腹部症状が出やすい・速度管理が難しい・在宅で手技が統一しにくい場合は、濃度が高いこと自体がリスクにもなり得ます。
ここで重要なのが「水分設計」です。ヘルスケア・レストラン記事では、イノラスは水分量が少なめで、900kcal投与しても水分投与量が限られるため、追加の水分投与が必要になると述べられています。下痢が出る症例でも、実は“腸が敏感”というより、前提としての水分・電解質が追いつかず、腸管の蠕動が乱れているケースがあり、便性状だけ見ていると見誤ります。
参考:イノラスの濃度・水分量・浸透圧(下痢の起点になり得る点)が具体的に解説されています。
ヘルスケア・レストラン:医薬品経腸栄養剤に仲間入りした新規2製剤の特徴とは?
下痢対策で一番効果が出やすいのは、投与速度と漸増プロトコルの標準化です。福岡県薬剤師会のQ&Aでは、投与速度が速いほど下痢が起こりやすく、開始は20~40mL/時から、12時間ごとに20mL/時ずつ徐々に上げる、と具体的な考え方が提示されています。病棟・在宅で「担当者が変わるたび速度が変わる」運用だと、同じ製剤でも下痢の頻度が跳ね上がります。
次に見直すべきは衛生管理です。経腸栄養は“腸に入れるから無菌じゃなくていい”と誤解されがちですが、開封・溶解状態で室温保存すると12時間以降に細菌数が急速に増殖するとされ、作り置きは厳禁、開封・溶解後は8時間以内に使い切る、という注意が示されています。下痢が続く患者で、速度も薬も変えていないのに改善しない場合、実は「作り置き」「注入セット交換」「手指衛生」「容器の再使用」など運用要因が残っていることがあります。
さらに“意外と効く”のが温度管理です。福岡県薬剤師会のQ&Aでは、市販の経腸栄養剤は室温保存であり、加温による変性・失活や細菌増殖の可能性があるので、加温せず室温で投与する、とされています。患者・家族が「冷たいとかわいそう」で温める文化がある現場では、温め方(湯煎、レンジ、放置)で衛生リスクと成分変化が混ざり、下痢の原因がぼやけます。
現場で共有しやすいチェック項目(例)です。
「イノラスで下痢が出た=イノラスが原因」と短絡しないために、下痢のタイプを切り分けます。経腸栄養剤関連で多いのは、(1)浸透圧や速度に起因する下痢、(2)細菌汚染、(3)薬剤性(抗菌薬、Mg製剤、下剤、PPI等)、(4)腸管機能低下(長期絶食後、術後、腸内細菌叢の変化)です。福岡県薬剤師会のQ&Aは、原因として「組成(高浸透圧、脂質量、乳糖不耐症やアレルギー)」「不適切な投与速度」「細菌汚染」「不適切な温度管理」「腸内細菌叢の変化」まで体系的に挙げています。
鑑別の実務的なヒントを、医療者向けに“行動へ落ちる”形にします。
エンシュアでもイノラスでも、下痢が続けば栄養が入らず、結果的に筋肉量・創傷治癒・ADLに跳ね返ります。だからこそ「製剤変更」より先に、速度・衛生・温度・薬剤併用・水分の順で“原因の層”をはがす方が、再現性のある対策になります。
検索上位の一般的な対策(速度を落とす、清潔にする)に加え、在宅・療養病棟で効きやすい独自視点は「追加水を、感覚ではなくルールで運用する」ことです。ヘルスケア・レストラン記事では、イノラスは高濃度で水分量が少なめになりやすく、追加水が必要になると述べられています。ここを“気づいた人が足す”運用にすると、ケア者の交代や忙しさで水分がぶれ、便性状もぶれます。
そこで、あらかじめルール化します。例として、患者ごとに「1日総投与カロリー」「経腸栄養から入る水分」「追加水の目標量」「実施タイミング(投与前後・間)」を1枚にまとめ、誰が見ても同じ行動になる形にします。下痢が出た時も、追加水をただ増やすのではなく、(1)脱水徴候、(2)尿量・尿比重、(3)Na/K、(4)便秘併存(オーバーフローの可能性)をセットで見ると、介入が過不足になりにくいです。
この“追加水の標準化”は、下痢の予防だけでなく、チューブ閉塞や薬剤投与トラブル(粉砕薬の残渣)も減らし、結果として現場負担を下げます。速度調整や製剤変更は医師・薬剤師の判断が絡みますが、追加水のルール化と記録様式の統一は、看護・訪看・家族を含むチームで今日から始められる介入です。

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