人工呼吸器の種類と用途

人工呼吸器は生命を支える重要な医療機器で、IPPV、NPPV、HFOVなど多様な種類があります。それぞれの特徴や適応、合併症について詳しく解説していきます。どの種類を選択すべきでしょうか?

人工呼吸器の種類と用途

人工呼吸器の基礎知識
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呼吸補助の重要性

呼吸不全時に酸素供給と二酸化炭素除去を人工的に行い、肺機能回復を支援

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多様な種類

IPPV、NPPV、HFOV等、患者状態に応じて最適な換気方式を選択

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設定パラメータ

酸素濃度、換気量、呼吸回数、PEEPなど細かな調整で個別化治療

人工呼吸器の基本原理と分類

人工呼吸器は呼吸不全状態において、肺への酸素供給と二酸化炭素の除去を機械的に行う医療機器です。呼吸の仕組みと人工呼吸器の目的は、ガス交換を改善することと呼吸仕事量を減らすことにあります。
参考)https://www.kango-roo.com/learning/3187/

 

人工呼吸器は大きく分けて、手動式と機械式、陽圧式と陰圧式、侵襲的と非侵襲的に分類されます。機械式人工呼吸器には、気管挿管を必要とするIPPV(invasive positive pressure ventilation:侵襲的陽圧換気)と、マスクを使用するNPPV(non-invasive positive pressure ventilation:非侵襲的陽圧換気)があります。
参考)https://caring.co.jp/blog/319

 

人工呼吸器は「マスク用」と「挿管用」の大きく2つに分けられ、使用用途により様々な種類の呼吸器に分かれます。病院用と在宅用でも特徴が異なり、病院用は酸素配管との連携が可能で安定した管理ができる一方、在宅用は小型でバッテリー搭載により移動や停電時にも対応可能です。
参考)https://www.hiroshima-med.jrc.or.jp/blog/blog-column/blog-3332/

 

人工呼吸器の主要なモードと設定

人工呼吸器の基本的なモードには、A/C(assist control)、SIMV(同期式間欠的強制換気)、CPAP(持続的気道陽圧)の3つがあります。人工呼吸器の設定で必要な項目は、モードの設定、酸素濃度(FIO2)、1回換気量・1回吸気圧・圧支持、吸気時間・呼吸回数、PEEPの5つです。
参考)https://www.igaku-shoin.co.jp/paper/archive/y2010/PA02903_10

 

FIO2の設定では、低酸素は原則として避けなければいけないため100%で開始し、持続的な高濃度酸素暴露による肺障害を予防するため48-72時間以内に50%以下を目指します。1回換気量は6-10mL/kgになるように予想体重で計算して設定する必要があります。
換気モードの選択では、自発呼吸が足りない人にはSIMVを、自発呼吸がある人にはCPAP(PS)、CPAP(PA)、CPAP(TC)を使用します。これらのモードにより患者の状態に応じた適切な呼吸支援が可能となります。
参考)https://www.wakayama-med.ac.jp/med/eccm/assets/images/library/bed_side/03.pdf

 

人工呼吸器の特殊な種類

高頻度振動換気法(HFO:High Frequency Oscillation)は、通常の人工呼吸器とは異なる特殊な換気方法です。HFOVは一定の気道圧を中心に少量のガスを高頻度(15~20Hz程度)に出し入れすることによって換気を行う方法で、同じ平均気道内圧でも従来型の人工呼吸法より最高気道内圧が低く抑えられます。
参考)https://www.shizuoka-pho.jp/kodomo/sp/department/pediatric-surgery/features/hfo/index.html

 

ECMO(Extra Corporeal Membrane Oxygenation)は人工肺を用いた長期体外循環による呼吸補助を行い、生体肺を休ませ肺の回復を待つ治療法です。新生児専用ECMOの開発が進められており、血液充填量100mL(人工肺を除く)を目指し、新生児の全血液量約250mLに配慮した設計が検討されています。
参考)https://www.re.dendai.ac.jp/lab/honmalab/h-research-02.html

 

小児・新生児における人工呼吸器は成人用とは異なる特別な配慮が必要で、体重や循環血液量の違いを考慮した設定が重要です。新生児呼吸障害では呼吸窮迫症候群や気胸、IRDS合併例などでHFOVが従来型の人工呼吸器での換気が不十分な症例に有効とされています。
参考)https://confit.atlas.jp/guide/event/jspccs51/subject/III-P-156/detail?lang=ja

 

人工呼吸器のPEEP機能

PEEP(positive end-expiratory pressure:呼気終末陽圧)は人工呼吸器のあらゆるモードで利用できる重要な機能です。PEEPは呼気の終了時に一定の陽圧をかけたままにし、気道内圧の上昇による肺胞容量の増加効果と虚脱した肺胞の再拡張をサポートする役割があります。
PEEPの主なメリットは4つあります。まず酸素化向上として、常に肺胞に一定の圧をかけるため肺胞虚脱を防ぎ、血液への酸素の取り込みが向上します。次に肺損傷の予防として、虚脱した肺胞の摩擦による肺損傷(VALI)を防ぎます。
参考)https://www.mera.co.jp/column/9068/

 

5cmH2OのPEEPを加えることで機械的人工換気を受ける患者の大半が便益を得られ、気管挿管、鎮静、麻痺、仰臥位にしばしば伴う無気肺の発生が抑えられます。心原性肺水腫やARDSなどの疾患では、PEEP値をより高い値にすることで酸素化が改善されます。
参考)https://www.msdmanuals.com/ja-jp/professional/21-%E6%95%91%E5%91%BD%E5%8C%BB%E7%99%82/%E5%91%BC%E5%90%B8%E4%B8%8D%E5%85%A8%E3%81%8A%E3%82%88%E3%81%B3%E6%A9%9F%E6%A2%B0%E7%9A%84%E4%BA%BA%E5%B7%A5%E6%8F%9B%E6%B0%97/%E6%A9%9F%E6%A2%B0%E7%9A%84%E4%BA%BA%E5%B7%A5%E6%8F%9B%E6%B0%97%E3%81%AE%E6%A6%82%E8%A6%81

 

呼吸仕事量の省エネ効果として、常に一定の圧がかかっているため最高気道内圧までの駆動圧が少なくて済み、患者自身の呼吸仕事量が軽減されます。また、各呼吸器モードとの併用が可能で、規則的な肺胞への加圧が実現できます。

人工呼吸器の主要な合併症と対策

人工呼吸器装着による主な合併症は3つのカテゴリーに分類されます。人工気道によるものには人工呼吸器関連肺炎(VAP)があり、これは最も重要な感染性合併症です。陽圧換気によるものには人工呼吸器関連肺損傷(VALI)があり、肺胞の過伸展や虚脱再開通により惹起されます。
参考)https://kango-oshigoto.jp/media/article/51252/

 

高濃度酸素による合併症には高酸素血症、CO2ナルコーシス、気道粘膜浄化の低下があります。その他の合併症として、人工気道による声帯損傷・咽頭浮腫・気道粘膜損傷、陽圧換気による前負荷の減少・後負荷の減少・気胸などがあります。
人工呼吸中に発生する肺障害である人工呼吸惹起性肺損傷(VILI:ventilator-induced lung injury)は、肺胞の過伸展あるいは虚脱再開通により惹起され、虚脱肺胞と再開通した肺胞の境界での擦れ合い(ずり応力)も要因となります。鎮静剤の影響により自覚症状を訴えることができない場合が多いため、合併症の早期発見のための全身状態の把握が重要です。
参考)https://knowledge.nurse-senka.jp/3114/