上気道は呼吸器系の入口部分であり、鼻腔から喉頭までの範囲を指します。具体的には鼻腔、咽頭、喉頭の3つの主要部位から構成されており、それぞれが独自の機能を持っています。
参考)https://www.kango-roo.com/learning/8188/
鼻腔は外界への開口である鼻孔から始まり、内部には渦巻き形の骨である鼻甲介が突き出しています。この構造により、空気が渦巻き状に通過し、肺に入る前に空気を湿らせ、温めて清浄するのに十分な時間を確保しています。鼻腔は中央の鼻中隔によって左右に分かれており、空気の通り道としての役割を果たします。
参考)https://www.visiblebody.com/ja/learn/respiratory/upper-respiratory-system
咽頭は鼻の奥から食道に至るまでの部分で、上咽頭・中咽頭・下咽頭の3つに分類されます。咽頭は空気の通り道である以外にも、耳管咽頭口から中耳、耳介へとつながる重要な解剖学的位置にあります。
参考)https://www.tsubasazaitaku.com/column/column297.html
喉頭はのどぼとけのところにある器官で、気管と咽頭をつなぐ部分です。喉頭は空気の通り道としての役割以外にも、嚥下時に下気道と肺の保護をする役割と、発声の機能を持っています。
上気道の最も重要な生理機能は、入ってきた空気を加湿、加温し、微細な塵埃を除去することです。この機能は生命維持において極めて重要な役割を果たしています。
参考)https://www.kango-roo.com/learning/2760/
低温の空気が入ってくると、鼻腔粘膜の血液から熱が放出されて加温されます。同様に、乾燥した空気が入ってくると、鼻腔粘膜の血液から水分が蒸発し、加湿機能が働きます。この温度・湿度調節機能により、肺に到達する空気は体温に近い温度で適切な湿度を保った状態になります。
微細なゴミや異物の除去は、鼻粘膜、鼻毛、咽頭のリンパ組織の輪(ワルダイエル咽頭輪)、喉頭の咳反射などが担当しています。鼻腔内の毛様体上皮(一般に鼻毛と呼ばれる)および腔の内側を覆っている粘膜が、繊毛と共に粘液中の漿粘液性腺および他の腺によって産生され、不必要な粒子を捕獲します。
上気道の防御システムにおいて、線毛運動と粘液分泌は中核的な役割を担っています。気道上皮は線毛細胞、杯細胞、中間細胞、神経内分泌細胞、未分類の分泌細胞および基底細胞より構成されています。
参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/fpj/120/1/120_1_13/_pdf
線毛細胞は線毛運動による中枢側への粘液移動を担当し、杯細胞は粘液分泌により加湿と細胞環境の形成を行います。正常人では線毛上皮細胞が主体となり、その10分の1が杯細胞で構成されています。
下気道においても同様のメカニズムが働いており、線毛運動による異物の捕捉と喀出が重要な役割を果たしています。気道の内側は多列線毛上皮でできており、この細胞が持つ線毛は40μm以下の微粒子を捕捉し、線毛運動によって上部へと押し出します。これらの微粒子は杯細胞から分泌された粘液と混ざり合い、痰として喀出されます。
気管支に入ってきた異物は、粘膜の粘液産生細胞から分泌される粘液がキャッチし、線毛が働いて粘液と異物を喉の方へ押し出します。この防御システムにより、体にとって有害な物質が肺の深部に到達することを防いでいます。
参考)https://www.seihaito.jp/sp/structure/
上気道感染症の原因となる病原体は多岐にわたりますが、80~90%以上はウイルス感染によるものです。主な原因ウイルスには、小児ではRSウイルス、成人ではライノウイルス、コロナウイルス、アデノウイルス、インフルエンザウイルスなどがあります。
参考)https://michikaze-cl.com/acuteupperrespiratoryinflammation
感染経路は主に鼻やのどからウイルスが侵入することによって起こります。ウイルスは手から鼻や口に侵入することもあり、接触感染も重要な感染経路となっています。細菌感染も一部で認められ、インフルエンザ菌、肺炎球菌、A群β溶連菌、肺炎マイコプラズマ、肺炎クラミジアなどが原因となる場合があります。
参考)https://www.clinicfor.life/lp/online-insurance/treatment/oi-033/
上気道感染の初期症状は、くしゃみ、鼻閉、鼻汁から始まり、その後に咽頭痛、咳嗽、嗄声、犬吠様咳嗽などが併発する場合があります。感染する上気道の部位によって症状や原因微生物が異なり、ウイルスは多領域に感染し多症状を呈するのに対し、細菌は原則として一つの細菌が単一臓器に感染し症状を呈します。
参考)https://www.cn-pen.org/homecare/doc/file02.pdf
上気道感染症の治療において、抗菌薬の適正使用は極めて重要な課題です。急性上気道炎の原因はウイルスであり、細菌ではないため抗生剤は効果がありません。基本的に上気道炎は自然に治るため、特別な治療は必要なく、対症療法が中心となります。
参考)https://fastdoctor.jp/columns/upper-respiratory-tract-inflammation
「抗微生物薬適正使用の手引き」では、成人例・小児例のいずれにおいても、軽症例に対しては抗菌薬投与を行わないことを推奨しています。中等症例または重症例に対してのみ抗菌薬治療を検討し、第一選択薬としてはアモキシシリン水和物内服5~7日間が推奨されています。
参考)https://www.kansensho.or.jp/uploads/files/guidelines/2211_teigen.pdf
小児においては、経口抗菌薬の第一選択はアモキシシリンとし、60mg/kg/日の5日間投与が標準的な治療法とされています。投与開始後48時間までに症状の軽快がなければ、90mg/kg/日への増量を検討します。
参考)http://nishimura-syounika.com/GL1.htm
対症療法としては、痛み・発熱の場合はアセトアミノフェン(カロナール、アルピニー、コカール、アンヒバ)、咳の場合はチペピジン(アスベリン)、デキストロメトルファン(メジコン)などが使用されます。鼻水の場合は抗ヒスタミン薬を使用することがあり、小児にはシプロヘプタジン(ペリアクチン)、授乳婦や妊婦にはクロルフェニラミンマレイン酸塩(ポララミン)などが選択されます。