クロルフェニラミンの薬理作用と臨床応用

クロルフェニラミンはヒスタミンH1受容体を遮断する第一世代抗ヒスタミン薬で、アレルギー性鼻炎や蕁麻疹に効果を示します。その薬理学的機序と臨床適用、副作用について詳しく解説しますが、緑内障や前立腺肥大症など特定の疾患では使用制限があることをご存じでしょうか?

クロルフェニラミンの薬理作用と臨床応用

クロルフェニラミンの基本情報
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第一世代抗ヒスタミン薬

ヒスタミンH1受容体を選択的に遮断し、アレルギー反応を抑制

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抗コリン作用による注意点

眠気、口渇、排尿困難など中枢・末梢神経系への影響

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幅広い臨床応用

アレルギー性鼻炎、蕁麻疹、皮膚疾患のほか感冒症状にも使用

クロルフェニラミンの薬理学的作用機序

クロルフェニラミンは、ヒスタミンH1受容体に対して選択的な拮抗作用を示すアルキルアミン系の第一世代抗ヒスタミン薬です 。この薬剤の薬理学的作用は、組織内でのヒスタミンとH1受容体の結合を競合的に阻害することにより発現します 。
参考)https://pins.japic.or.jp/pdf/newPINS/00054006.pdf

 

ヒスタミンが肥満細胞や好塩基球から放出されると、H1受容体を介して毛細血管の拡張と透過性亢進、気管支平滑筋の収縮、知覚神経終末の刺激によるそう痒などのアレルギー性反応を引き起こします 。クロルフェニラミンはこれらの反応を効果的に抑制することで、くしゃみ、鼻水、皮膚のかゆみなどの症状を改善します 。
参考)https://www.yoshijibika.com/archives/37536

 

クロルフェニラミンには光学異性体が存在し、d体(デキストロ体)がほぼ全ての抗ヒスタミン作用を担っているため、dl体と比較して約2倍の効力を有します 。この特性により、より少ない投与量で効果的な治療が可能となっています。
参考)https://pins.japic.or.jp/pdf/medical_interview/IF00001431.pdf

 

クロルフェニラミンの薬物動態特性

クロルフェニラミンは経口投与後、良好な生体内利用率を示します 。健康成人に12mgを経口投与した場合、投与30分後に血漿中に出現し、2時間後に最高血中濃度(17.05ng/mL相当)に達します 。
参考)https://www.fuso-pharm.co.jp/med/wp-content/uploads/sites/2/2025/04/%E3%83%93%E3%82%B9%E3%83%9F%E3%83%A9%E3%83%BC%E6%95%A3%E3%83%BBIF8%E7%89%88-202505.pdf

 

この薬剤の血漿蛋白結合率は濃度依存的で、0.28μg/mLおよび1.24μg/mLの濃度において、それぞれ72%および69%となっています 。半減期は12~15時間と比較的長く、1日2~4回の投与で安定した血中濃度を維持できます 。
クロルフェニラミンは血液脳関門を通過するため、中枢神経系に影響を与えやすい特徴があります 。主要な代謝産物として、monodesmethyl chlorpheniramineおよびdidesmethyl chlorpheniramineが同定されており、肝代謝を受けた後、投与後48時間までに尿中に約36%が排泄されます 。

クロルフェニラミンの副作用と注意すべき症状

クロルフェニラミンの副作用は、主に抗ヒスタミン作用と抗コリン作用に起因します 。最も頻繁に報告される副作用は眠気であり、これは薬剤が血液脳関門を通過し、中枢神経系のヒスタミンH1受容体を遮断することによって生じます 。
精神神経系の副作用として、鎮静、神経過敏、頭痛、焦燥感、複視、めまい、耳鳴、前庭障害、多幸症、情緒不安などが報告されています 。これらの症状は特に高齢者や小児で出現しやすく、注意深い観察が必要です。
参考)https://www.kegg.jp/medicus-bin/japic_med?japic_code=00062319

 

抗コリン作用による副作用には、口渇、排尿困難、尿閉、便秘、下痢などがあります 。循環器系では低血圧、動悸、頻脈が報告されており、心疾患を有する患者では特に注意が必要です 。
皮膚への影響として発疹や光線過敏症が報告されており、日光曝露時には適切な防護対策が推奨されます 。重篤な副作用として、ショック、痙攣、錯乱、再生不良性貧血の可能性もあるため、異常な症状が現れた場合は直ちに医療機関への相談が必要です 。
参考)https://www.rad-ar.or.jp/siori/search/result?n=51055

 

クロルフェニラミンの禁忌と使用制限

クロルフェニラミンには重要な禁忌事項があり、特に閉塞隅角緑内障患者への投与は厳禁とされています 。これは抗コリン作用により眼圧が上昇し、緑内障の症状を著しく悪化させる可能性があるためです 。なお、2019年の規制変更により、開放隅角緑内障では使用可能となりましたが、患者の緑内障タイプの正確な診断が不可欠です 。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC11792375/

 

前立腺肥大等の下部尿路閉塞性疾患を有する患者も禁忌対象です 。抗コリン作用による膀胱平滑筋の弛緩と膀胱括約筋の緊張により、尿の貯留や排尿障害が悪化する危険性があります。
参考)https://medical.kowa.co.jp/asset/item/32/4-pt_084.pdf

 

低出生体重児および新生児に対しても投与禁忌とされています 。これらの患者群では中枢神経系興奮などの抗コリン作用に対する感受性が極めて高く、痙攣などの重篤な反応を引き起こす可能性があります 。
参考)https://med.nipro.co.jp/servlet/servlet.FileDownload?file=01510000002iBAdAAM

 

過敏症の既往歴がある患者や類似化合物に対してアレルギー反応を示したことがある患者への投与も避けるべきです 。

クロルフェニラミンと他薬剤との相互作用

クロルフェニラミンは多くの薬剤との相互作用が報告されており、併用時には特別な注意が必要です 。中枢神経抑制剤やアルコールとの併用では、相互に作用が増強され、過度の鎮静や呼吸抑制のリスクが高まります 。
参考)https://vet.cygni.co.jp/include_html/drug_pdf/arerugi/JY-15001.pdf

 

MAO阻害剤との併用は特に危険であり、クロルフェニラミンの解毒機構に干渉して作用を遷延化・増強する可能性があります 。このため、併用する場合には減量など慎重な投与調整が不可欠です。
抗コリン作用を有する薬剤(抗精神病薬三環系抗うつ薬、抗パーキンソン病薬など)との併用では、抗コリン作用が相加的に増強され、口渇、便秘、排尿困難、認知機能障害などの副作用が強く現れる可能性があります 。
ドロキシドパとの併用では血圧の異常上昇を来すおそれがあります 。これはクロルフェニラミンがヒスタミンによる毛細血管拡張を抑制するためです。
授乳中の女性では、第一世代抗ヒスタミン薬は母乳に移行しやすく、乳児を眠くさせたり母乳分泌を抑制する可能性があるため、使用を避けることが推奨されています 。
参考)https://www.hiro-clinic.or.jp/gynecology/breastfeeding-medicine-safety/