カルモチン(Calmotin)は、鎮静催眠作用をもつ化合物「ブロムワレリル尿素(ブロモバレリル尿素、bromovalerylurea)」の商標名として言及されることが多い名称です。
医療現場では「カルモチン=成分名」ではなく、「カルモチンという呼称で知られた薬の中身がブロムワレリル尿素」という整理をまず共有すると、患者・家族との会話で齟齬が減ります。
同成分は、医療用として処方される場合がある一方、一般用医薬品(OTC)にも配合されてきた経緯があり、「入手しやすさ」が中毒・乱用の背景になる点が臨床的に重要です。
参考)https://www.semanticscholar.org/paper/c72be0fa3d6f987b1e649b509f1fac9a9c5c82ac
また、ブロムワレリル尿素は古い世代の鎮静催眠薬として位置づけられ、より安全域が意識される薬剤が普及した後も、配合剤などの形で残ってきたことが、現代でも“遭遇しうるレガシー成分”になっています。
患者から「カルモチン飲んだことがある」「昔の睡眠薬」として語られる場合、実際には別名・別製品(配合剤)を指していることもあるため、薬歴聴取では“販売名”と“成分”を分けて確認するのが実務的です。
ブロムワレリル尿素は、連用により薬物依存を生じうること、また急な減量・中止で禁断症状(例:振戦、不安、痙攣発作など)が出うることが、添付文書上の「重大な副作用」として注意喚起されています。
医療者が押さえるべきは、「常用量でも漫然投与が続くと依存の土台ができる」ことと、「やめ方」が症状に直結する点です。
外来でありがちな誤解は、患者側が“古い薬=マイルド”と受け取りやすいことです。実際には、連用により依存が形成される可能性があるため、睡眠・不安の訴えに対して「頓用」「短期」「定期的な必要性の再評価」をセットで説明する必要があります。
参考)https://www.data-index.co.jp/drugdata/pdf/1/730869_1121001X1107_3_04.pdf
服薬指導では、🚗「眠気が出るため運転など危険作業を避ける」こと、💬「自己判断で中止しない」こと、📆「使用期間の目安を共有する」ことが、最低限の安全策として役立ちます。
加えて、OTC配合剤経由での摂取が絡む場合、本人が「睡眠薬を飲んでいる自覚がない」ケースがあり得ます。これは依存評価・減薬計画を難しくするので、薬剤名だけでなく成分確認をルーチン化すると実務上の取りこぼしが減ります。
急性中毒の重症例では、意識障害が高度になると舌根沈下や呼吸抑制が起こり得て、死亡リスクに直結するため、まずABCDEと気道確保を優先するという原則が当てはまります。
血中濃度と意識レベルの関係について、重篤な症状(昏睡)が出現する血中濃度の目安として「>50μg/ml」が示されています。
また、経口摂取後の効果発現は20〜30分程度とされ、短時間で状態が変化し得ます。
一方で“意外な落とし穴”として、大量服用時に酸性胃液中で不溶性の塊を形成し、結果として吸収が持続して遷延することがある、とされています。
この点は、初療でいったん落ち着いて見えても、再鎮静・再増悪が起こり得る理由として、チーム内で共有しておく価値があります。
慢性の問題としては、ブロムワレリル尿素が代謝されて臭素(ブロム)を遊離し、長期服用で臭素が体内に分布・蓄積して“臭素中毒(慢性ブロム中毒)”の症状が出ることが重要です。
急性中毒では臭素が問題になることは少ない一方、連用・多剤併用・腎機能低下などが絡むと「原因がはっきりしない神経症状」「ふらつき」などとして遷延化しやすく、薬剤性を疑うアンテナが必要になります。
現場で「何を測れるか」「どの検体か」を押さえると、中毒診療のスピードが上がります。ブロムワレリル尿素は、尿や胃内容液を用いた呈色反応による簡易検出(検出下限10μg/ml)や、血液を用いたHPLCによる測定(血液1mlで検出下限0.05μg/ml)が紹介されています。
また、GC法は熱に不安定で分析が難しいため、HPLCが一般的に用いられる、という整理は検査室との会話で役立ちます。
中毒の重症度評価の観点では、血中濃度と意識レベルの関係が報告されており、例えば100μg/g以上でJCS300、50〜100μg/g前後でJCS100〜200といった目安が示されています。
ただし「代謝が早い」ため、中毒死が強く疑われても血中濃度が高くないことがある、という注意点も明記されており、数字だけで否定しない姿勢が必要です。
さらに、腹部単純X線で薬剤の塊が写ることがある(X線不透過)という点は、救急外来で“薬剤残留の推定”に使える、やや意外で実用的な知識です。
画像に頼りすぎるのは禁物ですが、胃内残留が疑わしいのに病歴が曖昧なケースでは、検討材料の一つになります。
医療従事者の独自視点として重要なのは、「処方」だけでなく「OTC購入制限」と臨床がつながっている点です。厚生労働省資料では、一般用医薬品の“濫用等のおそれのある医薬品”に関して、販売時の数量制限は原則として“一人一包装単位”とされ、複数購入希望がある場合は理由や使用状況の確認等を行う趣旨が示されています。
同資料の指定成分として、ブロムワレリル尿素が挙げられています。
ここから実務に落とすなら、救急搬送後や依存疑いの外来で、患者に「どこで、何を、どの頻度で買っているか」を具体的に聞き、薬局側の購入制限(1包装ルール)が守られない状況(複数店舗での購入、家族名義など)がないかを確認する、という介入が有効です。
参考)https://www.mhlw.go.jp/content/11121000/001062520.pdf
医師・薬剤師・看護師が共有したいのは、「薬物依存の評価は処方歴だけでは不十分」になり得る点で、OTCの購入行動まで含めると、再発予防の解像度が上がります。
また、減薬や代替療法へ切り替える際は、患者が“市販薬のほうが安全”という信念を持っていることがあるため、「依存性があり得る」「急な中止で離脱が出る」という事実を、添付文書ベースの言葉で丁寧に説明することが、合意形成に直結します。
そのうえで、不眠・不安の背景(うつ、アルコール、生活リズム、疼痛など)を同定し、薬だけで解決しない設計に組み替えることが、結局は再購入・再過量摂取の抑止になります。
参考:ブロムワレリル尿素の中毒量・致死量、血中濃度と重症度、治療(胃洗浄、強制利尿、血液浄化など)の整理
一般社団法人日本中毒学会「ブロムワレリル尿素」
参考:濫用等のおそれのある医薬品(原則1人1包装、購入理由確認、対象成分にブロムワレリル尿素を含む)の行政資料
厚生労働省「濫用等のおそれのある医薬品について」
参考:ブロモバレリル尿素の重大な副作用として「依存性」、中止時の禁断症状等の注意(添付文書相当PDF)
日本薬局方 ブロモバレリル尿素(添付文書情報)