気道確保の種類と方法、器具と合併症

気道確保には用手的方法から高度な器具を使用する方法まで複数の種類があります。医療従事者として各方法の特徴と適応、合併症を理解していますか?

気道確保の種類

気道確保の主な分類
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用手的気道確保

器具を使用せずに気道を開通させる基本的な方法で、頭部後屈あご先挙上法と下顎挙上法が含まれます

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器具を用いる気道確保

エアウェイや声門上器具、気管挿管チューブなどを使用して気道を維持する方法です

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外科的気道確保

輪状甲状靱帯切開や気管切開など、他の方法が困難な場合に行う侵襲的な方法です

気道確保は患者の生命を守るために最も重要な医療処置の一つです。気道が閉塞すると数分以内に脳への酸素供給が途絶え、不可逆的な脳損傷や心停止に至ります。医療従事者は患者の状態や状況に応じて、適切な気道確保の種類と方法を選択する必要があります。kango-roo+3
気道確保の適応となるのは、意識障害による舌根沈下、呼吸抑制薬剤の使用、嚥下反射や咳嗽反射の低下による誤嚥リスク、出血や異物による気道閉塞などの状況です。これらの状況では迅速かつ確実な気道確保が求められ、患者の状態に合わせた方法の選択が重要となります。msdmanuals+3

気道確保の用手的方法の種類

 

 

用手的気道確保は器具を使用せずに行う最も基本的な気道確保方法で、緊急時に最初に実施されます。頭部後屈あご先挙上法は、片手を額に当てて頭を後ろに反らせ、もう一方の手の指であご先の骨部分を持ち上げることで舌根沈下を解除し気道を開通させる方法です。この方法は意識のない患者で最も一般的に使用され、外耳道が胸骨切痕と同一平面上になるように調整することで上気道が最も開通しやすくなります。knowledge.nurse-senka+5
下顎挙上法は頸椎損傷が疑われる患者に適用される方法で、頭部を動かさずに両手で下顎を持ち上げることで気道を確保します。この方法では患者の頭側に立ち、手掌を側頭部に置き、指を下顎枝の下に置いて下切歯が上切歯を超える高さまで下顎を持ち上げます。頸椎損傷が疑われる状況としては、交通事故、高所からの転落、浅い水への飛び込みなどがあり、これらの場合には頸椎の伸展を避けることが最優先となります。msdmanuals+3
用手的気道確保を行う際の注意点として、下顎の軟部組織を強く圧迫しないことが重要です。軟部組織への圧迫は気道を閉塞させる可能性があるため、必ず下顎の骨性部分のみを持ち上げるようにします。また、下顎挙上法で気道確保が困難な場合には、気道を確保することが最優先であるため、速やかに頭部後屈あご先挙上法へ切り替える必要があります。shigoto-retriever+5

気道確保におけるエアウェイの種類

エアウェイは用手的気道確保だけでは不十分な場合に使用される補助器具で、複数の種類があります。経口エアウェイ(口咽頭エアウェイ)は口から挿入し、舌根の沈下を防ぐことで気道を維持する器具です。この器具は意識がない患者や咽頭反射が消失している患者に使用され、挿入時には舌を奥に押し込まないよう注意が必要です。kango-roo+3
経鼻エアウェイ(鼻咽頭エアウェイ)は鼻から挿入する柔軟なチューブで、経口エアウェイに比べて嘔吐反射を引き起こしにくい特徴があります。この器具は半意識状態の患者や咽頭反射が残存している患者にも使用できるため、経口エアウェイよりも適応範囲が広いとされています。挿入の際には適切なサイズを選択し、鼻腔粘膜を損傷しないよう注意深く挿入する必要があります。jstage.jst+4
ラリンジアルマスクは声門上エアウェイの一種で、喉頭入口部を低圧カフで密閉することで気道を確保する器具です。この器具は気管挿管よりも技術的に容易であり、以前であれば気管挿管が必要であった多くの状況で使用されるようになっています。ラリンジアルマスクは経口気管挿管や経鼻気管挿管が不成功に終わり、他の方法では酸素化や換気を達成できない場合にも有用です。wikipedia+2

気道確保における高度な方法の種類

気管挿管は気道確保のゴールドスタンダードとされ、声門下に気管チューブを挿入することで確実な気道管理を可能にします。経口挿管と経鼻挿管の2種類があり、通常の全身麻酔下手術では経口または経鼻からの気管挿管が一般的に行われます。気管挿管により血液や分泌物の気道への流入を防ぐことができ、長期的な人工呼吸管理が可能となります。jstage.jst+5
ビデオ喉頭鏡は従来の直視型喉頭鏡と比較して、気道確保の初回成功率を向上させる器具です。この器具は画面を見ながら声門を確認できるため、挿管困難症例でも視認性が向上し、挿管時間の短縮や血行動態反応の軽減が証明されています。また、ビデオ喉頭鏡を使用することで術者と患者の距離を約35.6センチまで拡大でき、エアロゾルへの曝露を最小限に抑えることができます。medtronic+2
日本集中治療医学会「気管挿管から声門上気道確保器具へ」
気管挿管の歴史と声門上気道確保器具の状況について詳しく解説されています。

 

気道管理の方法は専門領域によって目的と方法が異なり、救急医療では確実で迅速な気道確保が求められる一方、集中治療では長期に安定した気道管理が必要となります。手術や侵襲的な処置を行う際には、鎮静深度と全身麻酔の必要性によってより広い幅の気道管理が必要となり、状況に応じた適切な器具の選択が重要です。square.umin+2

気道確保における外科的方法の種類

外科的気道確保は、マスク換気で酸素化が保てず気管挿管も困難な場合に行われる観血的手技です。輪状甲状靱帯切開は緊急時に最も迅速に行える外科的気道確保法で、気管切開よりも速く簡単に実施できます。この方法では輪状甲状靱帯を切開して気管チューブを挿入し、出血が少なく頭部後屈も不要という利点があります。msdmanuals+4
輪状甲状靱帯切開の手順として、まず患者の右側に立ち、左手で甲状軟骨を固定して示指で靱帯を確認します。次に皮膚を横切開し、靱帯を約1.5cm切開した後、ペアンを使用して切開孔を開大し、気管切開チューブを挿入します。ただし、12歳以下の患者では気管内腔開存に甲状軟骨が大きく関与しているため、輪状甲状靱帯切開後に声門下狭窄をきたす危険があり施行すべきではありません。square.umin+4
気管切開は長期人工呼吸管理が必要な場合や上気道閉塞、気道分泌物除去が必要な場合に用いられます。最近の傾向では、経口・経鼻気管挿管中の患者で長期人工呼吸管理が必要な場合に、患者の負担軽減やケアの簡便さなどの理由から比較的早期に気管切開を施行します。外科的気管切開に加え、各種キットを使用した経皮的気管切開が普及しており、簡便で迅速に施行できる点で広く使用されています。jaam+3
MSDマニュアル「外科的気道確保」
外科的気道確保の適応と具体的な手技について詳細に解説されています。

 

気道確保の種類による合併症と挿管困難

気道確保における合併症として、挿管困難と換気困難は最も重要な問題です。挿管困難の定義は「トレーニングを積んだ麻酔科医がマスク換気か気管挿管、あるいは両者の困難をきたす臨床状況」とされ、マスク換気困難は約5%の頻度で発生します。挿管困難の予測因子として、Mallampatiスコアの増加、甲状間距離6cm未満、切歯間距離4cm未満、首の可動性低下などがあります。nysora+3
繰り返しの挿管試行は喉頭浮腫や出血などの合併症を引き起こし、さらに気道確保を困難にします。導入時の気道確保操作が不適切であったり換気が不適切であると、低酸素血症からチアノーゼ、最悪の場合は心停止に至る可能性があります。熟練した医師が2回試みても気管挿管できない場合には、直ちに輪状甲状靱帯穿刺あるいは切開を行うべきとされています。wakayama-med+3
気道確保困難の原因となる合併症として、強直性脊椎炎、変形性関節症、トレチャー・コリンズ症候群、クリッペル・ファイル症候群、ダウン症候群などの先天性・後天性疾患があります。また、肥満、大きな舌、顎髭、歯のない口、顔面の解剖学的歪みなどもフェイスマスク換気を困難にする要因となります。これらの予測因子を術前に評価し、困難が予想される場合には声門上器具やビデオ喉頭鏡の準備、外科的気道確保のスタンバイなど、適切な対策を講じることが重要です。apsf+3
日本麻酔科学会「気道管理ガイドライン2014」
気道管理困難例への対処法と各種器具の使用方法について詳しく記載されています。

 

さらに、巨大縦隔腫瘍などの特殊な状況では、気管挿管しても換気できない可能性や、最初は換気可能でも換気困難・換気不能になることがあります。成人の気管内径が半分以下(男性9mm、女性7.5mm以下)に狭窄すると呼吸困難が出現し、気管支径が50%未満の場合には麻酔導入前に局所麻酔下で補助循環をスタンバイすることが推奨されています。square.umin+2

気道確保の種類選択における独自視点

気道確保の種類を選択する際には、患者の解剖学的特徴だけでなく、医療従事者の熟練度や利用可能な器具、医療環境も考慮する必要があります。近年、声門上器具の普及により気道確保の方法が多様化し、気管挿管が唯一のゴールドスタンダードではなくなってきています。特に病院外救急医療では、気管挿管の技術習得に時間がかかるのに対し、声門上器具は比較的短期間の訓練で習得可能という利点があります。jstage.jst+2
麻酔導入時の気道確保方法の選択において、挿管前から「挿管できない、換気できない(CICV)」状況を予測し、段階的なアプローチを計画することが重要です。このアプローチでは、まず意識下気道確保法(気管支ファイバー、ビデオ喉頭鏡、声門上器具など)の選択肢を検討し、それでも困難な場合には外科的気道確保への移行を躊躇しないことが求められます。jstage.jst+2
患者の状態変化に応じた気道確保方法の変更も重要な視点です。例えば、声門上器具で換気を維持しながら意識と自発呼吸の回復を待つ、声門上器具を通して気管挿管を試みる、声門上器具のサイズや種類を変更するなど、状況を改善できる複数の選択肢を常に念頭に置く必要があります。予定外に外科的気道確保が必要となる状況は最も避けるべきであり、早期の判断と適切な方法の選択が患者の生命予後を左右します。anesth+3

気道確保の種類 主な方法・器具 適応 特徴
用手的気道確保 頭部後屈あご先挙上法、下顎挙上法 意識障害、舌根沈下、頸椎損傷疑い 器具不要で迅速、基本的手技
エアウェイ 経口エアウェイ、経鼻エアウェイ、ラリンジアルマスク 用手的方法で不十分な場合、半意識状態 挿入が比較的容易、短期使用
気管挿管 経口挿管、経鼻挿管、ビデオ喉頭鏡 長期人工呼吸管理、全身麻酔 最も確実、誤嚥防止可能
外科的気道確保 輪状甲状靱帯切開、気管切開 挿管困難、換気困難、上気道閉塞 緊急時最終手段、侵襲的

気道確保は患者の生命に直結する重要な医療行為であり、複数の種類の方法を理解し、状況に応じて適切に選択・実施することが医療従事者に求められます。

 

 




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