カテーテルアブレーションの適応と治療効果の評価

心房細動を始めとする不整脈の根治治療として注目されるカテーテルアブレーション。その適応条件、治療効果、合併症リスクについて詳しく解説し、患者が治療を検討する際に必要な情報を網羅的に紹介します。自分は手術の候補者となるのでしょうか?

カテーテルアブレーションの基本原理と適応

カテーテルアブレーション治療の概要
治療原理

心臓の異常な電気回路を高周波や冷凍で遮断し不整脈を根治する治療法

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主な対象疾患

心房細動、発作性上室性頻拍、心室頻拍などの頻脈性不整脈

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薬物療法との違い

症状抑制ではなく不整脈の原因そのものを治療する根治療法

カテーテルアブレーションの治療原理

カテーテルアブレーションは、心臓の異常な電気信号の発生源や伝導路を物理的に遮断することで不整脈を根治する治療法です。足の付け根や首の血管から直径2mm程度のカテーテルを挿入し、心臓内部まで進めて治療を行います。
参考)https://www.hmedc.or.jp/department/cardiology/catheter-ablation/

 

治療では主に2つの方法が使用されます。高周波電流による焼灼では、カテーテル先端から500KHzの高周波を流し、先端温度を45-60℃(一般的には50-70℃)まで上昇させて心筋組織を凝固壊死させます。一方、冷凍アブレーションでは亜酸化窒素ガスを用いてバルーン形状のカテーテルで標的部位を円周状に冷凍し、電気的隔離を形成します。
参考)https://plaza.umin.ac.jp/~arrhythm/treatment/catheter/index.html

 

カテーテルアブレーションの主な適応疾患

カテーテルアブレーションの適応となる主な疾患には、心房細動、発作性上室性頻拍、通常型心房粗動、心房頻拍、特発性心室頻拍があります。これらの中でも特に成功率が高いのは発作性上室性頻拍、通常型心房粗動、心房頻拍、特発性心室頻拍で、成功率は90%程度と報告されています。
参考)https://cardiovasc.m.u-tokyo.ac.jp/consultation/diseases/catheter_ablation

 

心房細動のアブレーションでは「肺静脈隔離」が最も一般的な治療法となります。心房細動の起源となる異常な電気興奮のうち9割が肺静脈から発生するため、肺静脈を左心房から電気的に隔離することで心房細動の根治を目指します。現在のガイドラインでは、抗不整脈薬治療が効果不十分または副作用で継続困難な患者に対してクラスI適応として推奨されています。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC10875204/

 

カテーテルアブレーションの治療適応基準

治療適応の決定では年齢、症状、進行度の3つの要素を総合的に評価します。特に20-40歳代の患者には非常に良い適応とされている一方、70-80歳代の患者では手術適応はやや低くなります。高齢者では心房細動を根治することよりも、薬物療法で上手く付き合っていくことも重要な選択肢となります。
参考)https://doctorbook.jp/contents/321

 

基礎心疾患のある心室頻拍や心臓手術後に出現した各種頻拍では、成功率は50%前後と高くありませんが、薬物治療が困難であることが多いため、カテーテルアブレーションを試みる価値があると考えられています。患者の希望をきちんと聞き取ることが何よりも重要であり、十分な説明とインフォームドコンセントが必要です。

カテーテルアブレーションの治療成功率

発作性心房細動に対するカテーテルアブレーションの成功率は、1回の治療で85%、2回の治療で90%以上とされています。一方、慢性・持続性心房細動では1回の治療で60-70%、2回の治療で80%の成功率が報告されています。長期持続性心房細動でも、持続期間が比較的短い(1-3年程度)ケースでは5-6割が根治するとされています。
参考)https://kompas.hosp.keio.ac.jp/disease/000399/

 

心房細動以外の不整脈では、発作性上室性頻拍、通常型心房粗動、心房頻拍、特発性心室頻拍の成功率が90%程度と非常に高く、薬物治療より効果的で安全性にも優れています。副伝導路が複数ある場合や中隔副伝導路では成功率が低下し、根治に至らない場合もあります。
冷凍バルーンアブレーションでは、従来の高周波アブレーションと比較して手技時間が短縮され、1-2回の冷却で肺静脈の全周性隔離が可能となります。発作性心房細動では初回アブレーションで50-80%、2回目のアブレーションを含めると約95%の成功率が期待できます。
参考)https://www.atrial-fibrillation.toray/ja/public/about.html

 

カテーテルアブレーション特有の合併症リスク

カテーテルアブレーションにおける重大な合併症として、脳梗塞、心タンポナーデ、食道関連合併症の3つが挙げられます。脳梗塞の発生率は心房細動アブレーションで0.3-0.5%程度とまれですが、カテーテル先端に形成された血栓が脳血管に飛散することで発生します。
参考)https://www.kansaih.johas.go.jp/junkankinaika/treatment/atr/atr_07/ablation_complications

 

心タンポナーデは心臓の穿孔により血液が心膜腔に貯留する合併症で、血圧低下を引き起こします。コンタクトフォースカテーテルを用いることで、カテーテル先端の接触圧をモニタリングし、過度な圧迫を避けることで予防可能です。
参考)https://makuhari-afcl.com/blog/%E3%82%AB%E3%83%86%E3%83%BC%E3%83%86%E3%83%AB%E3%82%A2%E3%83%96%E3%83%AC%E3%83%BC%E3%82%B7%E3%83%A7%E3%83%B3%E3%80%80%E5%90%88%E4%BD%B5%E7%97%87%E3%80%802021-2023%E5%B9%B4%E5%AE%9F%E7%B8%BE/

 

食道関連の合併症には、食道迷走神経麻痺と左房食道瘻があります。食道迷走神経麻痺では腹部膨満や腹痛が生じますが、通常は時間経過とともに改善します。左房食道瘻は発生頻度は極めて低いものの、致死率70%と報告される重篤な合併症です。予防のため、術前CTで食道位置を把握し、術中は食道に温度センサーを挿入して39℃を超えた場合は通電を中止します。
その他の合併症として、肺静脈狭窄・閉塞、横隔神経麻痺、空気塞栓症、鼠径部血管損傷などがありますが、後遺症を残すような重篤な合併症の発生確率は1%未満とされています。