心室頻拍の心電図では、QRS波の幅が0.12秒(3mm)以上と幅広くなることが最も特徴的な所見です。これは心室から異常に電気が発生しているため、通常の電気伝導路(ヒス束-プルキンエ線維系)を通らないことが原因です。QRS幅の広い頻拍(QRS≥0.12秒)は、心室頻拍でないことが証明されるまでは、全て心室頻拍とみなすべきとされています。shigoto-retriever+1
心室頻拍では先行するP波がない幅広いQRS波が連続して発生します。心拍数は通常100~250回/分と非常に速く、モニター上で波形がギュッと詰まって見えることが多いです。ただし、徐脈性心室頻拍という、あまり速くないタイプも存在するため注意が必要です。knowledge.nurse-senka+1
QRS波形の規則性も重要な観察ポイントです。V誘導における均一なQRSベクトル(一致)とそれに伴うT波ベクトルの不一致(QRSベクトルと反対)、前額面QRS軸の極端な右軸偏位なども心室頻拍を示唆する所見となります。msdmanuals
房室解離は心室頻拍の診断において最も重要な心電図所見の一つです。房室解離とは、心房と心室がそれぞれ独自のリズムで無関係に興奮している状態を指します。心電図上では、P波とQRS波が無関係に発生している様子が観察されます。new.jhrs+1
心室頻拍では、解離したP波活動、融合収縮または心室捕捉収縮の存在が診断を裏付ける重要な所見となります。心室頻拍中の心電図でP波が確認できれば、房室解離と判断可能です。しかし、心室のリエントリーが逆行し、心房へ伝わる場合では、P′波を認めることがあり、必ずしも「心室頻拍=P波が確認できない」わけではないことも理解しておく必要があります。miyake-naika+2
房室解離の存在は、心室頻拍であることを示す明確な所見となり、上室頻拍との鑑別において決定的な診断根拠となります。心室頻拍中に小さな尖った波として規則的に出現するP波を注意深く観察することが診断の鍵となります。new.jhrs
心室頻拍は心電図波形の形状によって単形性心室頻拍と多形性心室頻拍の2つに分類されます。この分類は発生機序や治療方針の決定において重要な意味を持ちます。oogaki
単形性心室頻拍は、頻拍中のQRS波形が一定の形状を示すことが特徴です。幅の広いQRS波形が規則的に連続してみられます。単形性心室頻拍は心筋の限局した部位から発生し、心拍数140回/分前後の幅広いQRS波の頻拍が持続します。jstage.jst+3
多形性心室頻拍では、QRS波形が拍動ごとに変化する特徴があります。心室頻拍中の波形が単一ではなく変化していく様子が観察されます。多形性心室頻拍は複数の部位から発生したり、興奮伝播経路が拍動ごとに変化したりすることによって生じます。wakisaka-heart+1
多形性心室頻拍はさらにQT延長を伴わない多形性心室頻拍とQT延長を伴うtorsades de pointes(トルサード・ド・ポアンツ)に細分類されます。トルサード・ド・ポアンツは尖った部分がねじれている波形を示し、自然停止することもありますが、多くは突然死に直結する最も危険な致死性不整脈です。medical-term.nurse-senka+2
心室頻拍の発生機序には局所タイプとリエントリータイプの2つがあります。局所タイプでは心室のどこかから電気信号が連続的に発生された状態となります。異常自動能の亢進が原因と考えられ、流出路起源心室頻拍などがこのタイプに該当します。cardiovasc-med-kagoshima+1
リエントリータイプでは心室の中で電気信号が旋回する回路があり、その回路を電気信号が旋回し続けている状態です。心筋梗塞や心筋症などの基礎心疾患によって心室筋がダメージを受け、傷んだ心筋の中に心室頻拍の回路が形成されることがほとんどです。nms+1
基礎心疾患としては心筋梗塞、心筋症、各種の器質的心疾患や心不全、電解質異常(低カリウム血症、低マグネシウム血症)、ジギタリス中毒などがあります。しかし、明らかな原因がない特発性心室頻拍も認められます。tokyo-heart-rhythm+1
心室頻拍の予後は基礎心疾患の有無により大きく異なります。基礎心疾患がない人は命に関わる可能性は低くなりますが、基礎心疾患があり心機能が著しく低下していると突然死する可能性が高くなります。基礎心疾患(心筋梗塞や心筋症)によって心室筋がダメージを受けて発症する場合は、厳重な経過観察が必要です。phd-achd+1
心室頻拍の症状は基礎心疾患の有無や心拍数の速さにより様々です。軽度の場合は動悸を自覚するだけの人もいますが、重症例では失神を起こして倒れてしまったり、場合によっては亡くなってしまう人もいます。tokyo-heart-rhythm
心拍数が速くなりすぎると、心臓の収縮・拡張がついていけないために血液が送り出せなくなります。その結果、血圧が下がり、脳にも血液が供給されなくなり、失神(意識消失)してしまいます。また、心臓の筋肉にも酸素が供給されなくなるため、さらに心臓が疲れるという悪循環に陥ります。kango-roo
心室頻拍のもう一つの危険性は、心室細動というさらに恐ろしい不整脈に移行しやすいことです。不整脈が原因となる失神には、洞性徐脈、房室ブロック、心室頻拍、心室細動があり、脳に血液が十分行かなくなり、意識が消失します。tokyo-heart-rhythm+1
緊急時の対応として、心室頻拍中に意識がない、脈が触れないなど血行動態が維持できない状況であれば、まず電気ショックによる速やかな心室頻拍の停止が必要です。周囲の協力を求め、AED(自動体外式除細動器)の準備を依頼します。jmedj
無脈性心室頻拍には100ジュール以上での除細動が必要です。安定した持続性心室頻拍は、100ジュール以上でのカルディオバージョンで治療できます。発作が止まらない場合、抗不整脈薬(リドカインやアミオダロンなど)の点滴を行います。phd-achd+1
心室頻拍の診断は心電図検査によって行われます。通常の心電図検査で診断されることもありますが、受診した時には症状も特になく、通常の検査では診断できないこともあります。その場合は、長時間の記録が可能なホルター心電図検査を行います。asada-heart+1
ホルター心電図では、日中に活動している時だけでなく、睡眠中にも心室頻拍や心室細動が出ていないかを確認します。また期外収縮から心室頻拍を生じることもあるので、期外収縮の頻度や形状も確認します。asada-heart
心電図検査などで心室頻拍が認められた場合、その悪性度を診断し、治療の必要性を決定しなくてはなりません。24時間ホルター心電図、運動負荷心電図、加算平均心電図、心エコー検査などが実施されます。arrhythm.umin
長期的な治療・再発予防として、以下の選択肢があります:phd-achd
カテーテルアブレーションの対象となる疾患には、流出路起源心室頻拍・心室性期外収縮、特発性心室頻拍(ベラパミル感受性心室頻拍)などがあります。心室流出路起源の心室頻拍や心室期外収縮は、半数以上が右室からのアプローチで治療でき、治療成功率は85%程度です。左室プルキンエ線維起源の心室頻拍は、アブレーションの治療効果も高く90%程度の成功率が期待できます。cardiovasc-med-kagoshima+1
治療や管理が適切に行われれば、学校や社会生活にも復帰できるケースが増えています。基礎疾患(心筋症や心筋炎など)がある場合は、その治療も合わせて行うことが重要です。phd-achd