筋力トレーニング10回3セットを続けても、患者さんの歩行能力がほぼ改善しないことがあります。
リハビリの現場で「筋力を鍛える」と一口に言っても、実際には筋収縮のタイプが異なります。等尺性・短縮性・伸張性の3種類があり、それぞれ異なる動作場面で活用されます。 co-medical.mynavi(https://co-medical.mynavi.jp/contents/therapistplus/career/useful/1010/)
等尺性収縮は関節を動かさずに筋を緊張させる収縮で、壁を押し続ける動作がイメージしやすいでしょう。
短縮性収縮は筋が縮みながら力を出す動的な収縮で、ダンベルを持ち上げる局面が典型例です。 co-medical.mynavi(https://co-medical.mynavi.jp/contents/therapistplus/career/useful/1010/)
伸張性収縮は筋が引き伸ばされながら力を発揮するもので、ダンベルをゆっくり下ろす局面に相当します。伸張性収縮は同じ負荷でも筋への刺激が最も強く、筋肥大効果が高いとされています。これが基本です。 co-medical.mynavi(https://co-medical.mynavi.jp/contents/therapistplus/career/useful/1010/)
一般的に5〜12週間のトレーニングを継続した場合、15〜30%程度の筋力向上が期待できるとされています。ただし個人差が大きく、年齢・性別・生活環境によっても変化します。 臨床では「目の前の患者さんを診る」姿勢が原則です。 co-medical.mynavi(https://co-medical.mynavi.jp/contents/therapistplus/career/useful/1010/)
強度設定こそが訓練効果を分ける最重要因子です。これは使えそうです。
筋力向上を目的にする場合、%1RM(最大筋力に対する負荷割合)をもとに設定することが推奨されています。1RMとは「1回だけ全可動域で動かせる最大重量」のことで、この値を基準に負荷量を決めます。 yodosha.co(https://www.yodosha.co.jp/jikkenigaku/keyword/1RM/id/89617)
| 目的 | 負荷強度 | 反復回数 |
|---|---|---|
| 神経系の賦活・最大筋力向上 | 80%1RM以上 | 1〜5回 |
| 筋肥大の促進 | 60〜70%1RM | 15〜20回 |
| 筋持久力の向上 | 30%1RM程度 | 20回以上 |
yamanopt(https://yamanopt.com/resistance-training-intensity-repetitive-test-rpe/)
脳卒中リハビリの具体例では、レッグプレスは70%1RMで8〜10回3セット、レッグエクステンションは80%1RMで6〜8回2セットという強度が有効性の報告に基づいています。 「とりあえず10回3セット」では強度設定になっていません。 brain-lab(https://brain-lab.net/evidence/upper-limb/strength-training-for-stroke-2021/)
1RM測定が困難な高齢患者には、ボルグスケール(RPE)が代替手段として有用です。ボルグスケール13〜17程度が、筋力向上に推奨される60〜80%1RM相当とされています。 測定方法に合わせて選択するのが原則です。 yamanopt(https://yamanopt.com/resistance-training-intensity-repetitive-test-rpe/)
参考:%1RMと運動強度設定について詳しく解説されています。
【運動強度】高齢者の筋力トレーニング強度を推定する方法【反復回数テスト・RPE活用法】
筋力が上がれば歩行も改善する、と考えていませんか。意外ですね。
脳卒中患者を対象とした複数のシステマティックレビューでは、筋力トレーニングは筋力を向上させるものの、歩行能力の改善には直結しないと報告されています(Wist S, 2016; Dorsch S, 2018)。 バランス能力(Berg Balance Scaleスコア)についても同様の結果が示されています。 brain-lab(https://brain-lab.net/evidence/upper-limb/strength-training-for-stroke-2021/)
歩行動作は筋力だけでなく、感覚・バランス・神経系の協調など複合的な要素で成立しています。筋力のみを上げても、これらの要素が伴わなければ歩行の質は変わりません。つまり、筋力強化は「歩行改善の一部」に過ぎないということです。 brain-lab(https://brain-lab.net/evidence/upper-limb/strength-training-for-stroke-2021/)
歩行能力の改善を目標にするのであれば、筋力強化訓練と歩行練習(トレッドミルトレーニング等)を組み合わせることが推奨されます。 筋力強化と課題指向型訓練の組み合わせが条件です。 brain-lab(https://brain-lab.net/evidence/upper-limb/strength-training-for-stroke-2021/)
参考:脳卒中リハビリにおける筋力トレーニングのエビデンスを詳しく解説しています。
【2023年版】脳卒中リハビリにおける筋力トレーニングの有効性と限界(BRAIN)
「筋トレをすると痙縮が悪化する」という説、リハビリ現場では今でも耳にします。厳しいところですね。
しかし現時点では、筋力トレーニングによって痙縮が悪化するというエビデンスは存在しません。Veldema J (2020)、Ada L (2006)、Morris SL (2004)によるシステマティックレビューのいずれにおいても、筋トレにより Modified Ashworth Scale(MAS)スコアや pendulum test の結果が悪化したというデータは示されていません。 brain-lab(https://brain-lab.net/evidence/upper-limb/strength-training-for-stroke-2021/)
この誤解が臨床の場で根強く残ることで、筋力向上の機会が失われるリスクがあります。「痙縮が悪化するから筋トレはやめましょう」と患者さんの自主訓練を中断させてしまうのは、エビデンスに基づかない対応です。 痙縮悪化を理由にした禁止は適切ではありません。 brain-lab(https://brain-lab.net/evidence/upper-limb/strength-training-for-stroke-2021/)
ただし「筋電図による細かい評価では変化がある可能性もある」という留保は存在します。 一方で、少なくとも臨床評価レベルでは悪化を示すデータがないため、痙縮を理由に一律に筋トレを禁止する根拠はありません。個別の状態を観察しながら進めることが大切です。 brain-lab(https://brain-lab.net/evidence/upper-limb/strength-training-for-stroke-2021/)
| よくある誤解 | エビデンスに基づく事実 |
|---|---|
| 筋トレすると痙縮が悪化する | MAS・pendulum testで悪化を示すデータなし |
| 脳卒中後は筋トレを避けるべき | 適切な強度設定で筋力は向上する |
| 筋力が上がれば歩けるようになる | 歩行練習の同時実施が必要 |
「一律に10回3セット」は、患者さんによっては過負荷にも過少負荷にもなり得ます。これが原則です。
高齢者では易疲労に注意しながら、既往歴・服薬情報・認知機能を事前に評価した上で実施する必要があります。 特に骨粗鬆症を合併している女性高齢者では、転倒による骨折リスクが極めて高く、筋力強化と並行して転倒予防トレーニングを組み込むことが推奨されます。 骨折リスクの高さを把握しておくことが重要です。 a-seikei(https://www.a-seikei.com/column/1078/)
小児に対しては、骨の成長段階において必要以上の高負荷は禁忌となることがあります。 成長板(骨端線)への過度な圧迫は成長障害を招く恐れがあります。また、%1RMの測定自体が小児には困難な場合も多く、RPEや主観的疲労感をうまく活用する必要があります。 co-medical.mynavi(https://co-medical.mynavi.jp/contents/therapistplus/career/useful/1010/)
さらに注意が必要なのが、脊椎圧迫骨折後の体幹運動の禁忌です。骨折部位の安定性が確認されていない時期に体幹の前屈・回旋運動を行うと、再骨折や症状の悪化リスクがあります。 この局面では筋力強化訓練の内容を慎重に絞り込む必要があります。 rehab(https://rehab.cloud/mag/3323/)
mhlw.go(https://www.mhlw.go.jp/content/001195869.pdf)
rehab(https://rehab.cloud/mag/3323/)
brain-lab(https://brain-lab.net/evidence/upper-limb/strength-training-for-stroke-2021/)
リスク管理において見落とされがちな視点として、「その日の体調(Daily Readiness)」があります。%1RMベースで負荷を固定すると、体調不良の日には過負荷になるリスクがあります。 RPEや2-for-2ルールなど、その日の状態を反映できる柔軟な負荷調整法を組み合わせることで、安全性と効果を両立できます。 note(https://note.com/rehab_logica/n/n963f79e7de0a)
参考:筋力トレーニングの負荷設定と最新ガイドライン(2023年版厚生労働省)について確認できます。
参考:負荷調整の包括的レビュー論文の解説。臨床で役立つ負荷設定法が詳しく紹介されています。
脱「なんとなく3セット」!筋力トレーニングの負荷設定・調整を科学する(Rehab Logica)