FADIRテストが陽性でも、実は95%は偽陽性の可能性があります。
FADIRテストは、大腿骨寛骨臼インピンジメント(FAI:Femoroacetabular Impingement)の評価において最も広く使われる徒手検査です。正式名称は「股関節屈曲(Flexion)・内転(ADduction)・内旋(Internal Rotation)テスト」であり、その頭文字を取ってFADIR(またはFADDIR)と呼ばれています。
実施手順は以下のとおりです。
陽性の解釈で大切なのは、「どこが痛いか」を正確に記録することです。鼠径部(前方)に痛みが出る場合はFAI・関節唇損傷の関与が強く示唆されます。外側や殿部に痛みが出る場合は、中殿筋・大転子周囲や仙腸関節(SIJ)由来の疼痛との鑑別が必要になります。単純に「陽性か陰性か」だけを記録すると、次のアプローチが全く変わってくるため注意が必要です。
このテストの感度は高い(80〜100%)と報告されており、陰性なら関節内病変をある程度除外するスクリーニングとして有用です。ただし、特異度が非常に低いという点は臨床上見落とせません。これが基本です。
陽性が確認されたら、引き続きScourテスト(Quadrantテスト)やLog rollテストを追加することで、関節内疾患の関与をより精度高く補強できます。加えて、股関節内旋のROM(関節可動域)を条件を固定して計測し、再評価でも比較できる記録を残しておくと臨床上の判断が安定します。
参考:FADIRテストの診断精度に関するシステマティックレビューはこちら
FADDIRテスト|大腿骨臼蓋インピンジメント評価 - Physiotutors(日本語版)
股関節インピンジメントのテストには、「前方インピンジメントテスト」と「後方インピンジメントテスト」の2種類があります。意外ですね。見落とされがちですが、どちらを使うかで評価できる病変の部位が大きく変わります。
前方インピンジメントテスト(FADIRテスト)は、開始肢位が股関節屈曲90°です。この角度は、骨の形状上、臼蓋の前方と大腿骨頸部が最も近接する角度とされています。そこから内転・内旋を加えることで、大腿骨頸部が臼蓋の前方形状に沿って接触しながら移動し、前方部での衝突(インピンジメント)を再現します。
後方インピンジメントテストは、開始肢位が股関節伸展位である点が前方とは異なります。そこから股関節を外旋・外転方向へ誘導することで、大腿骨頸部が臼蓋の後方形状に沿って接触し、後方インピンジメントを再現します。
| テスト名 | 開始肢位 | 操作方向 | 評価部位 |
|---|---|---|---|
| 前方インピンジメントテスト(FADIR) | 股関節屈曲90° | 内転・内旋 | 臼蓋前方・大腿骨頸部前方 |
| 後方インピンジメントテスト | 股関節伸展位 | 外旋・外転 | 臼蓋後方・大腿骨頸部後方 |
どちらのテストも、テスト時に「大腿骨頸部の位置をイメージしながら下肢を操作する」という視点が評価の精度を左右します。機械的に角度をつけるだけでは、疼痛の再現性が落ちます。また、患者によっては開始肢位の時点ですでに痛みが出る場合があります。その場合は無理に最終域まで押し込まず、段階的に操作することが原則です。
前方・後方の両テストで陽性となる場合は、インピンジメントの所見がより強まると考えられています。反対に、両テストともに陰性であれば、疼痛の原因として軟部組織由来(筋・靭帯・滑液包など)を優先して疑う根拠になります。つまり2つのテストの組み合わせが診断の精度を高める鍵です。
参考:前方・後方インピンジメントテストの実施イラスト解説はこちら
股関節インピンジメントテストによる評価と操作方法 – RehaArt(理学療法士・福山真樹氏)
FADIRテストと並んでFAI評価でよく用いられるのがFABERテスト(パトリックテスト)です。両者は目的が似て見えますが、実際には意味が異なります。混同すると評価が不正確になり、その後のアプローチ選択にも影響が出ます。
FABERテストは「股関節屈曲(Flexion)・外転(ABduction)・外旋(External Rotation)」の略で、患者を仰向けにした状態で患側の足首を反対側の膝上に乗せ、いわゆる「4の字」の姿勢をつくります。そこから膝を外側に向けて押し下げ、痛みの出現場所を確認します。
つまりFABERテストはFAI以外のSIJ由来疼痛との鑑別にも活用できる点が特徴です。一方、FADIRテストは「関節内の病変(FAI・関節唇損傷)を拾う入口」としての役割が強く、両者は補完的な関係にあります。
ある論文では、インピンジメントテスト(前方)は特異度が高く確定診断の補助に有用であり、一方のパトリックテスト(FABER)は感度が高くスクリーニングに有用だと報告されています。この使い分けが条件です。
FADIRで鼠径部痛が確認された後、FABERでも同部位の痛みが再現されるなら、FAIや関節唇損傷の可能性をより積極的に画像検査へつなぐ判断材料になります。逆にFABERで殿部痛が強い場合は、腰椎・仙腸関節のスクリーニングも並行して進めることが望ましいです。
参考:FABERテスト(パトリックテスト)の診断精度の解説はこちら
股関節OAとSIJの痛みに対するパトリック・テスト/フェイバーズ・テスト - Physiotutors(日本語版)
FADIRテストが陽性だったからといって、そのままFAIや関節唇損傷と決め打ちするのは非常に危険です。これは臨床現場でも起きやすい落とし穴のひとつです。
2015年にReimanらが行った系統的レビューでは、FADDIRテストのプールされた感度は99%であった一方、特異度はわずか5%であることが明らかになりました。特異度5%というのは、FAIではない人にもテストが陽性に出てしまう割合が非常に高いということを意味します。ゴルフコースのグリーンの広さ(約650㎡)で例えるなら、テスト結果の「正確に当たっている領域」はその面積のほんのわずかしかないようなイメージです。陽性が出ても、鑑別が必要な理由はここにあります。
臨床現場でよく起きる誤った運用としては、以下のようなケースが挙げられます。
正しい運用のポイントは、「FADIR陽性を関節内疾患の仮説の入口として扱い、Scourテストやログロールテスト、内旋ROMの計測と組み合わせて仮説を補強する」という段階的な評価の枠組みを持つことです。陽性だけで診断確定するのはダメです。
さらに、FAI様の症状が残っているのにFADIRが陰性のケースも存在します。その場合は、股関節を通常の90°ではなく120°まで屈曲させた状態でFADIRテストを再実施することで、インピンジメントが再現されることがあるとされています。これは臨床的に見落とされやすい応用テクニックです。
参考:FAI診断における身体所見の活用と限界についての解説はこちら
FAIの身体所見評価 - 東京整形外科ひざ・こかんせつクリニック
インピンジメントテストは「評価して終わり」ではありません。テスト結果をリハビリの方向性に活かすことが、臨床上の本当の価値です。これが原則です。
FADIRやFABERで陽性が確認され、FAIが疑われる段階でのリハビリアプローチは主に次の流れで組み立てられます。まず、インピンジメントを再現しやすい動作(深いしゃがみ込み・あぐら・長時間の前傾姿勢)を同定し、日常生活上の負担を軽減するところから始めます。痛みが軽減したら、段階的に股関節周囲筋(特に腸腰筋・殿筋群・深部外旋筋)の筋力強化と体幹安定化訓練を進めていきます。
内旋ROMは、FAIの評価指標として特に重要です。内旋角度が10度未満の場合はFAIを強く疑うとされており、保存療法の経過確認においても内旋角度の変化は客観的な評価指標として活用できます。再評価の際は毎回条件を揃えることが比較の精度を高めます。
また、FADIRテストが陰性化しているかどうかをリハビリの中間評価として活用する方法もあります。前方インピンジメントテストの陰性化を治療のひとつのマイルストーンとして設定することで、アプローチの効果を客観的に追いかけることが可能になります。
歩行評価も見落とせません。特にトレンデレンブルグ徴候(歩行時に骨盤が健側に傾く)がある場合は、股関節外転筋(中殿筋)の機能低下を示唆しており、FAIとの併存として評価・介入の対象になります。片脚スクワットで左右差が出る場合も、動作制限の程度を確認するうえで有用です。これは使えそうです。
なお、保存療法で症状が改善しない場合や、画像検査で骨形態異常(カム変形・ピンサー変形)が確認されている場合は、股関節鏡手術の適応が検討されます。手術前後の評価においても、インピンジメントテストは術前の症状再現・術後の回復指標として継続的に使用されます。
参考:FAIの保存療法とリハビリアプローチについての詳しい解説はこちら
大腿骨寛骨臼インピンジメント(FAI)の手術とリハビリ - 新宿ヒップジョイントクリニック
参考:FAIの概要・症状・治療法についての包括的な解説はこちら
大腿骨寛骨臼インピンジメント(FAI) - 社会福祉法人 恩賜財団 済生会