パトリックテストで陽性が出ても、仙腸関節障害だけが原因とは限りません。
パトリックテスト(FABER test:Flexion, ABduction, External Rotation)は、股関節を屈曲・外転・外旋位に置いた状態で、検者が対側の腸骨稜と同側の膝部を下方に押圧する徒手検査です。この肢位によって仙腸関節・股関節・梨状筋など複数の構造体に同時にストレスが加わります。
「陽性」の判定基準は、施行中に鼠径部・殿部・仙腸関節部に疼痛が再現された場合とされています。ただし、疼痛の出現部位によって示唆される病態が異なるため、単に「痛みがあった=陽性」で止まらず、どこに痛みが出たかを必ず記録することが重要です。これが基本です。
鼠径部に痛みが誘発された場合は股関節疾患(変形性股関節症・大腿骨頭壊死・関節唇損傷など)の関与を疑います。一方、殿部から仙腸関節領域にかけての疼痛再現は仙腸関節障害を示唆します。梨状筋部位への放散痛は梨状筋症候群の可能性を高めます。
つまり陽性の「場所」が診断の鍵です。
検査の信頼性に関しては、施行時の患者体位の安定性や検者の押圧力の均一性が再現性に影響します。特に肥満患者では対側腸骨稜の固定が不十分になりやすく、偽陰性が生じやすいため注意が必要です。また股関節可動域制限がある患者では、FABER肢位自体が取れないケースもあります。その場合は無理な誘導を避け、代替テストを選択することが安全です。
パトリックテストが陽性を示す病態は大きく3つのカテゴリーに整理できます。「仙腸関節由来」「股関節由来」「その他の軟部組織由来」です。これを混同したまま評価を進めると、治療介入の方向性が根本から誤ります。意外ですね。
① 仙腸関節障害
仙腸関節障害は産後女性や長距離ランナーに多く見られ、殿部から大腿後面にかけての鈍痛・疼痛が特徴です。仙腸関節は可動域が平均約2〜4°と非常に小さく(名刺1枚の厚み程度の動き)、この微細な関節のストレスが大きな疼痛を引き起こします。仙腸関節障害では、パトリックテスト陽性に加えてGaenslenテスト・後方剪断テスト(Posterior Shear Test)も陽性になるケースが多いため、複数テストの重複陽性が確認の根拠になります。
② 変形性股関節症・関節唇損傷
変形性股関節症の初期では仙腸関節障害と症状が酷似することが多く、パトリックテストでの鼠径部痛の有無が鑑別の第一歩です。関節唇損傷は特に20〜40代の活動量の高い患者に多く、深い屈曲や回旋動作での引っかかり感・クリック音を伴うことがあります。FABERテスト陽性に加えてFADIR(屈曲・内転・内旋)テストも陽性であれば、関節唇損傷の可能性が高まります。これは使えそうです。
③ 梨状筋症候群
梨状筋は大坐骨孔を通過する坐骨神経と隣接しており、梨状筋の過緊張・肥大によって坐骨神経が絞扼されると殿部痛・坐骨神経痛様の放散痛が出現します。パトリックテストのFABER肢位は梨状筋をストレッチする体位でもあるため、梨状筋症候群でも陽性反応が出やすいです。Pace徴候(座位での股関節外転・外旋抵抗運動での疼痛)との組み合わせで鑑別精度が上がります。
参考:仙腸関節障害の評価・治療に関する日本整形外科学会の情報は以下が有用です。
日本整形外科学会|仙腸関節障害について(一般・専門家向け情報)
パトリックテストの診断精度を数字で把握することは、過信・過小評価を防ぐために不可欠です。感度と特異度を知らずに使うのはダメです。
文献によって数値にばらつきはありますが、仙腸関節障害に対するパトリックテストの感度は約57〜77%、特異度は約69〜75%程度とされています(Laslett M, 2005など)。感度が100%でないということは、陰性であっても仙腸関節障害を否定できないことを意味します。逆に特異度が100%でないということは、陽性でも他の病態が原因である可能性が3割近くあるということです。
つまり1テストだけでは不十分です。
陽性尤度比(LR+)は約1.5〜2.5程度とされており、これはテスト前確率をそれほど大きく変化させない数値です。比較すると、複数の仙腸関節プロボケーションテストを組み合わせた場合(3テスト以上で陽性)のLR+は約4〜6程度まで上昇するという報告があります。つまり単独使用よりも、複数テストのバッテリーとして使う意義が大きいです。
また、パトリックテストは股関節可動域にも依存するため、変形性股関節症の進行例では股関節自体の制限が結果を歪めることがあります。痛みの部位だけでなく、「股関節が動かない」ことの確認も同時に評価してください。これが条件です。
日本理学療法士学会の機関誌にもプロボケーションテストの精度に関する論文が収録されています。
J-STAGE|理学療法学関連論文(仙腸関節・股関節テストの感度・特異度に関する研究を含む)
陽性が出た後に「どう動くか」が臨床家の腕の見せどころです。単なる反射的な「仙腸関節障害疑い」の記載で終わらせることなく、系統的な鑑別フローを持つことが重要です。
ステップ1:疼痛部位の確認
まず「鼠径部痛か、殿部・仙腸関節部痛か」を確認します。鼠径部痛→股関節疾患の優先評価。殿部・仙腸関節部痛→仙腸関節障害・梨状筋症候群の精査、という方向で分岐します。
ステップ2:追加テストの実施
| 疑う病態 | 追加すべきテスト |
|---|---|
| 仙腸関節障害 | Gaenslenテスト、後方剪断テスト、Gillet test |
| 変形性股関節症 | FADIRテスト、Trendelenburg sign |
| 関節唇損傷 | FADIRテスト、Scour test |
| 梨状筋症候群 | Pace test、Beatty test |
ステップ3:レッドフラグの確認
見逃してはいけない重大な病態として、大腿骨頭壊死・骨盤内腫瘍・脊椎転移があります。特に以下のケースでは画像検索を急いでください。
- 安静時痛・夜間痛が強い
- 体重減少・発熱・全身倦怠感を伴う
- 既往にステロイド長期使用・大量飲酒がある(大腿骨頭壊死のリスク因子)
- 悪性腫瘍の既往がある
厳しいところですね。しかしこれを見逃すと患者の予後に直結します。特に大腿骨頭壊死は発症から約2年以内に適切な治療を受けなければ、骨頭の圧潰が進行し人工股関節置換術が必要になる割合が高まるため、早期発見が極めて重要です。
参考として、大腿骨頭壊死の診断基準に関する情報は厚生労働省の難病情報センターで確認できます。
難病情報センター|大腿骨頭壊死症(診断基準・概要・治療方針)
ここはあまり語られない独自視点です。パトリックテスト陽性が、整形外科的病態ではなく内臓由来の関連痛(Referred Pain)によって引き起こされているケースが存在します。
婦人科系疾患(子宮内膜症・卵巣嚢腫)・泌尿器系疾患(尿管結石・前立腺炎)・消化器系疾患(大腸憩室炎・腸腰筋膿瘍)では、殿部・鼠径部・下腹部にかけて疼痛が放散し、パトリックテスト肢位での疼痛増悪が誤って「整形外科的陽性」と判断されることがあります。
これは意外な落とし穴です。
内臓関連痛を示唆するサインとしては以下が挙げられます。
- 月経周期との関連がある(婦人科系)
- 排尿・排便時の疼痛変化がある(泌尿器・消化器系)
- 皮膚の痛覚過敏(Hyperalgesia)が体幹側面〜下腹部に認められる
- 運動負荷よりも安静時・食後に疼痛が増悪する
- 発熱・CRP上昇など炎症所見を伴う
特に腸腰筋膿瘍は整形外科領域では見落とされやすく、発熱・殿部〜大腿前面の疼痛・股関節屈曲拘縮を三主徴として、早急に画像診断(CT・MRI)が必要な緊急度の高い病態です。診断が遅れると敗血症へ移行するリスクがあるため、「単なる仙腸関節障害」と即断することの危険性がよくわかります。
内臓関連痛の評価に際しては、問診での丁寧な全身症状の聴取と、必要に応じた他科へのコンサルト・紹介が最善の対応です。他科連携が原則です。
整形外科的評価と内科・婦人科的評価の橋渡しとして、以下の参考情報も確認しておくと実践に役立ちます。
J-STAGE|日本リハビリテーション医学会誌(内臓関連痛・機能的疼痛の評価に関する論文を含む)
パトリックテストは「陽性か陰性か」で終わるテストではありません。陽性という結果をスタート地点として、疼痛部位・疼痛の性質・全身状態・複数テストの組み合わせによって、丁寧に病態を絞り込んでいくプロセスそのものが、質の高い臨床評価の本質です。単一テストへの過信を捨て、常に「他に何かないか」という問いを持ち続けることが、安全で精度の高い診療につながります。

【サイズ交換送料負担キャンペーン】【防水スプレー吹きかけサービス】パトリック スニーカー メンズ レディース マラソン 国産 ホワイト 23.5cm