向精神薬種類一覧と分類基準解説

向精神薬は第1種から第3種まで分類され、それぞれ異なる投与制限や保管規制があります。医療従事者が知るべき各分類の特徴や取り扱い方法とは?

向精神薬種類一覧と分類

向精神薬の3つの分類
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第1種向精神薬

最も厳格な管理が必要で乱用リスクが高い薬剤群

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第2種向精神薬

中等度の管理が必要で注射剤は特に厳重管理

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第3種向精神薬

比較的管理が緩やかだが投与制限は存在

向精神薬第1種の特徴と代表薬剤

第1種向精神薬は、中枢神経系に作用する薬剤の中でも最も厳格な管理が求められる分類です。この分類には、乱用の危険性が特に高く、治療上の有用性と比較して慎重な取り扱いが必要な薬剤が含まれています。

 

第1種向精神薬の代表的な薬剤は以下の通りです。

  • メチルフェニデート(商品名:リタリン、コンサータ)- 中枢興奮作用
  • モダフィニル(商品名:モディオダール)- 覚醒促進作用

これらの薬剤は投与制限が30日間に設定されており、特にモダフィニルについては、あらかじめ登録された医師・薬剤師のいる登録医療機関・薬局でのみ取り扱いが可能となっています。調剤前には当該医師・医療機関の確認が必須であり、適正使用推進策について十分な理解が求められます。

 

メチルフェニデートは注意欠陥多動性障害(ADHD)やナルコレプシーの治療に使用されますが、覚醒作用や依存性の問題から、処方には特別な注意が必要です。これらの薬剤の不適切な使用は、重篤な副作用や依存症を引き起こす可能性があるため、医療従事者は患者の状態を継続的に監視する必要があります。

 

向精神薬第2種の投与制限と管理

第2種向精神薬は、第1種に次いで厳格な管理が求められる分類で、特に注射剤については乱用・盗難のおそれが高いため、保管管理を厳重にする必要があります。

 

主な第2種向精神薬と投与制限は以下の通りです。

  • フルニトラゼパム(商品名:サイレース、ロヒプノール)- 投与制限30日
  • ペンタゾシン(商品名:ソセゴン、ペルタゾン)- 投与制限14日
  • ブプレノルフィン(商品名:レペタン、ノルスパン)- 坐薬・テープ14日
  • ペントバルビタール(商品名:ラボナ)- 投与制限14日

注目すべき点として、ペンタゾシンにはナロキソンが配合されており、これは薬物乱用防止の工夫です。ナロキソンは経口投与では初回通過効果により代謝されるため作用は拮抗しませんが、粉砕して静脈内投与する際のみ拮抗作用を示し、不適切な使用を防ぐ仕組みとなっています。

 

第2種向精神薬の保管については、特に注射剤において厳重な管理が求められます。病棟の看護師詰め所に保管する場合でも、常時看護師等が注意している場合以外は、向精神薬を保管するロッカーや引き出しに鍵をかけることが義務付けられています。

 

向精神薬第3種の多様な薬理作用

第3種向精神薬は最も種類が多く、日常的に処方される向精神薬の大部分を占めています。ベンゾジアゼピン系薬剤を中心として、様々な薬理作用を持つ薬剤が含まれています。

 

主な第3種向精神薬の分類。
中枢抑制作用(30日制限)

  • アルプラゾラム(ソラナックス、コンスタン)
  • エスタゾラム(ユーロジン)
  • エチゾラム(デパス)
  • ゾルピデム(マイスリー)
  • トリアゾラム(ハルシオン)

長期投与可能薬剤(90日制限)

  • ジアゼパム(ホリゾン、セルシン)- 精神安定作用
  • クロナゼパム(ランドセン、リボトリール)- 抗てんかん作用
  • ニトラゼパム(ベンザリン、ネルボン)- 催眠鎮静作用

特殊用途薬剤

  • マジンドール(サノレックス)- 食欲抑制作用(14日制限)
  • ペモリン(ベタナミン)- 中枢興奮作用(30日制限)

これらの薬剤は比較的管理が緩やかですが、記録義務はありませんが、譲受けについて記録や伝票整理による管理が推奨されています。投与制限については薬剤によって14日から90日まで幅があり、治療上の必要性に応じて設定されています。

 

向精神薬取扱い時の保管と記録義務

向精神薬の適切な取り扱いには、保管と記録の両面で厳格な規制が設けられています。麻薬及び向精神薬取締法に基づき、医療機関や薬局では以下の義務を遵守する必要があります。

 

保管義務の詳細
第1種・第2種向精神薬については以下の保管方法が義務付けられています。

  • 他の医薬品と区別して保管
  • 盗難・紛失防止のため鍵のかかる場所での保管
  • 病棟での保管時は看護師の常時監視か施錠管理
  • 特に注射剤は厳重な保管管理が必要

記録義務の内容
第1種・第2種向精神薬を取り扱った際は、以下の事項を記録し2年間保存する必要があります。

  • 譲受け時の記録(薬剤名、数量、日時、相手方等)
  • 譲渡し時の記録
  • 廃棄時の記録

第3種向精神薬については記録義務はありませんが、譲受けについて記録や伝票の整理による管理が推奨されています。これにより、薬剤の流通経路を明確にし、不正使用や横流しを防ぐ仕組みが構築されています。

 

廃棄については許可や届出は不要ですが、第1種・第2種向精神薬を廃棄した場合は記録が必要となります。適切な廃棄方法と記録保管により、環境への影響と不正使用の両方を防ぐことができます。

 

向精神薬服薬指導における独自の注意点

向精神薬を処方された患者への服薬指導では、一般的な薬剤指導に加えて特別な配慮が必要です。特に精神疾患を抱える患者の心理的状況を理解し、適切なサポートを提供することが重要です。

 

効果発現までの期間説明
抗うつ薬の効果発現には数週間を要し、服用期間は半年から1年間が一般的です。患者には即効性を期待せず、継続的な服用の重要性を説明する必要があります。症状が改善しても再発・再燃防止のため、少なくとも数か月間は薬物療法を継続することを伝えることが大切です。

 

家族を含めたサポート体制
向精神薬の治療では、患者だけでなく家族全員が治療の必要性を理解することが重要です。家族による服薬状況の確認や、副作用への早期対応により、治療効果の向上と安全性の確保が期待できます。

 

特有の副作用管理
向精神薬には以下のような特有の副作用があり、これらについて詳細な説明が必要です。

  • 初期悪化現象(治療開始時の一時的な症状悪化)
  • 離脱症状(急激な中断時に起こる症状)
  • 依存性のリスク(特にベンゾジアゼピン系薬剤)
  • 認知機能への影響(記憶や集中力の低下)

服薬中断の防止策
薬剤の副作用が原因で服薬中止につながることが少なくないため、患者の訴えを丁寧に聞き取り、必要に応じて医師との連携により処方調整を提案することが重要です。また、服薬への不安や疑問に対して十分な時間をかけて説明し、患者の理解と協力を得ることが治療成功の鍵となります。

 

現在、社会不安の拡大により心の病が増加し、向精神薬の市場規模は10年で2倍に拡大しています。一方で、インターネットを通じた密売や大量服用による健康被害も報告されており、医療従事者には適正使用の推進と乱用防止の両面での役割が求められています。

 

厚生労働省の向精神薬取扱いガイドライン
向精神薬の適正な取り扱い方法と保管規制について詳細な情報が記載されています。

 

薬剤師向け向精神薬解説サイト
最新の向精神薬一覧と投与制限、服薬指導のポイントが詳しく解説されています。