中枢神経系は脳と脊髄から構成される、身体全体の司令塔としての役割を果たす神経系の中核部分です 。脳は大脳、小脳、脳幹の3つの主要部位で構成され、それぞれが異なる重要な機能を担っています 。大脳は思考や記憶、感情、言語などの高次精神機能を制御し、小脳は運動の協調や平衡感覚を担い、脳幹は呼吸や心拍などの生命維持機能を司っています 。
参考)https://kango.mynavi.jp/contents/nurseplus/career_skillup/20250904-2180941/
脊髄は脳から連続して背骨に沿って伸び、31対の脊髄神経が左右に分かれて末梢へとつながることで、脳と全身との情報伝達を担っています 。脊髄には反射機能もあり、熱いものに触れた際に無意識で手を引く反応などは、脊髄レベルで情報処理される代表例です 。中枢神経系は頭蓋骨や脊柱といった骨格構造の中にあり、さらに硬膜・くも膜・軟膜という3層の膜(髄膜)によって外部の衝撃から厳重に保護されています 。
神経細胞(ニューロン)は中枢神経系を構成する基本単位であり、情報の受け取りや伝達に関わる特有の形態を持つ細胞です 。神経細胞は「樹状突起」と呼ばれる多数の突起と、情報を遠くまで伝える「軸索」と呼ばれる長い突起を備えており、電気信号と神経伝達物質によって情報を伝達します 。外部や内部からの刺激は樹状突起によって受け取られ、細胞体を経て軸索へと電気信号として伝わります 。
軸索の末端に達した電気信号は、次の細胞との接合部である「シナプス」で神経伝達物質として放出され、隣接する神経細胞や筋肉細胞などに受け渡されます 。この物質による伝達を「シナプス伝達」と呼び、情報は必ず一方向に流れるのが特徴です 。中枢神経系はほとんどが有髄神経であり、オリゴデンドログリアが髄鞘を作ることで高速な神経伝導を可能にしています 。
参考)https://www.kango-roo.com/learning/2106/
ドーパミンは中枢神経系で働く重要な神経伝達物質の一つで、運動調節、ホルモン調節、快の感情、意欲、学習などに関わっています 。ドーパミンが脳内に放出されると、中枢神経が刺激されて快楽や喜びの感情が湧き、記憶の形成や学習の成立、意欲の構築をもたらします 。ドーパミンは脳内報酬系を活性化し、「ごほうび」を欲する回路が脳内に構築されることで、モチベーションや学習行動の基盤となります 。
参考)https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%89%E3%83%BC%E3%83%91%E3%83%9F%E3%83%B3
ドーパミンの過不足は様々な疾患に影響を与えます 。パーキンソン病では脳内で作られるドーパミンが全体的に少なくなると、運動機能の調節がうまくいかず、手足の震えや筋肉のこわばりなどの症状が出現します 。一方、統合失調症の急性期では、ドーパミンが脳内に過剰に放出されることにより過覚醒状態となり、幻覚・妄想などの陽性症状が出るという説があります 。ドーパミンは「やる気成分」とも呼ばれ、集中力を高める働きがあることが知られています 。
参考)https://alinamin-kenko.jp/kenko-keyword/mental_life_cognitive/dopamine.html
中枢神経系の疾患には多様なものがあり、その中でも神経変性疾患が重要な位置を占めています 。アルツハイマー病は認知機能が徐々に低下する疾患で、記憶や判断力の障害が進行性に悪化します 。パーキンソン病は中脳黒質緻密部のドーパミン神経の脱落により、運動症状(筋肉の硬直、動作緩慢、安静時振戦)が特徴的に現れます 。筋萎縮性側索硬化症(ALS)は運動神経が選択的に変性し、筋力低下が進行する疾患です 。
参考)https://www.ncgg.go.jp/hospital/iryokankei/letter/058.html
これらの神経変性疾患では、α-シヌクレイン凝集体を含むレビー小体の蓄積や、異常タンパク質の沈着が病理学的特徴となっています 。パーキンソン病では黒質線条体ドパミン神経変性があることが、ドパミントランスポーター(DAT)のSPECT画像によって客観的に証明できるようになりました 。正常の50%程度以下に細胞数が減少した時に臨床的にパーキンソニズムが発症すると言われており、早期診断の指標として活用されています 。
参考)https://biospective.com/ja/resources/microglial-senescence-and-neurodegenerative-disease
中枢神経系疾患の治療において、再生医療が新たな希望をもたらしています 。間葉系幹細胞(MSC)を用いた治療が脳梗塞や脊髄損傷の後遺症、筋萎縮性側索硬化症などの神経変性疾患に対して効果があることが明らかになりました 。特に脊髄損傷に対するMSC細胞治療は2019年5月より保険診療として開始されており、実用化された画期的な治療法です 。
参考)https://medical-b.jp/a01-01-037/book039-09/
幹細胞エクソソーム治療も注目されている新しい治療法で、幹細胞から派生するエクソソームが幹細胞と同じ情報を持っているため、損傷した中枢神経細胞の修復・再生を促す効果が期待されています 。エクソソーム中の特定のmicroRNAが脳梗塞によってダメージを受けた脳組織の修復や神経再生を促進する働きがあることが研究結果として報告されています 。現在、脳梗塞、慢性期脳卒中、慢性期頭部外傷、筋委縮性側索硬化症、認知症へと再生医療の対象疾患が拡大し、多くの患者が再生医療の恩恵を受けられるよう治験が進められています 。
参考)https://umeda-neuro.clinic/exosome/