「寝る前に目薬をさしてはいけない」は、一般向けには強い表現ですが、臨床的には“就寝直前の点眼で不利益が出やすい条件がある”と捉えるのが安全です。就寝中は涙液の動きが起きている時より停滞しやすく、点眼成分が眼表面にとどまる時間が延びることで、成分によっては刺激が長引く可能性が指摘されています。
この「停滞」は、患者が感じる症状としては、しみる、ゴロゴロする、起床時の充血、涙目(反射性流涙)、乾いた感じの増悪などに現れやすいです。特に“就寝直前にさした直後から閉眼してしまう”と、違和感が出ても洗い流されにくく、翌朝まで引きずるケースが起こり得ます。
一方で、点眼は治療上「就寝前1回」が最適な処方設計になっていることもあります。したがって現場の説明としては、患者の誤解を助長する「夜はダメ」ではなく、次のような形が誤解が少ないです。
この整理は、涙液停滞で刺激が長引き得ること、一般に点眼後5〜10分で眼表面からほとんど消えるという臨床的な説明とも整合します。
「寝る前NG」になりやすい代表が、いわゆる収斂薬(目の粘膜を収縮させ、炎症を抑える方向に働く成分)を含むタイプです。就寝中は涙液分泌が低下するため、収斂成分が入った点眼薬を寝る前に使用すると、目の中が乾きやすくなり、結膜や角膜を傷つけることがあると説明されています。
OTCの“充血を取る系”“すっきり系”を寝る前に使ってトラブルを起こす相談は、医療側が想定するより多い印象があります。患者は「夜にケアしたい」動機で選びやすい一方、就寝中の乾燥環境(暖房、口呼吸、いびき、加齢、睡眠薬使用など)と重なると、刺激や乾燥の悪循環が成立しやすいからです。収斂成分の有無は一般の人には分かりにくく、成分表示だけで自己判断させるのは危険なので、医師・薬剤師への確認が望ましいとされています。
参考)サルコペニア発症メカニズムと創薬の可能性
臨床での説明は「寝る前に目薬が全部ダメ」ではなく、次の線引きが現実的です。
この「製剤選び」まで踏み込むと、単なる時間の話から一段上の指導になります。
収斂成分が入っていない点眼薬でも、就寝前点眼で問題が起こり得る要素として「保存剤」が挙げられます。就寝中は涙液分泌が低下するため、就寝前に点眼すると、成分が眼球全体に広がるのに時間がかかったり、点眼薬に配合されている保存剤が結膜に蓄積して刺激症状を起こすことがあるとされています。
この説明は、患者にとって「しみるのは薬が効いている証拠」などの誤解を正す材料にもなります。刺激を我慢して継続し、角結膜障害を助長するケースがあるため、「刺激が続くなら続けず相談」のトリガーを明示するのが安全です。
また、例外が存在する点も重要です。例えば、サンチンク点眼液は添付文書に「就寝前には用いないこと」と明記されているとされ、硫酸亜鉛を含み刺激が強いため、寝る前の点眼で刺激が持続し得るという説明があります。
患者への指導では、商品名をむやみに列挙するより、次のように“例外があるからこそ指示確認”へ誘導すると運用が安定します。
例外の存在を伝えるだけで、夜間自己判断の誤用をかなり抑えられます。
参考:就寝前点眼が問題になる機序(涙の停滞、刺激の持続、就寝前禁忌の例)がまとまっている
https://hata-eyeclinic.jp/blog/faq/986/
運用上いちばん効果が高いのは、「何分前ならいいのか」を具体化することです。就寝直前を避け、寝る10分前までに点眼する、一般に点眼後5〜10分経過すれば眼の表面からほとんど消える、という目安は患者指導に落とし込みやすい情報です。
さらに、点眼量は「1回1滴」が原則です。角膜・結膜表面を潤す液量には上限があり、1滴以上入れても溢れてしまい、目に対する薬効が増強しないと説明されています。
就寝前は「つい多めに入れて安心したい」心理が働くため、ここを正すだけで副作用(刺激・流涙・皮膚かぶれ・全身移行の不安など)のリスクを下げられます。
医療従事者向けの実装として、外来や薬局で使える声かけ例を置きます。
患者の行動に変換できる“数字”を入れると、自己流アレンジが減ります。
参考:収斂成分、保存剤、1滴、開封後期限など点眼の基本指導がまとまっている
https://www.miyayaku.or.jp/modules/pico1/index.php/content0083.html
検索上位は「涙が停滞するから」「刺激が続くから」で終わりがちですが、医療従事者が一歩踏み込むなら“夜間に患者が誤用しやすい設計”まで見ると実務的です。就寝前は、入浴後・スキンケア後・暗い寝室など、点眼手技の精度が下がる条件が重なり、ボトル先端の汚染や眼周囲への付着増加が起きやすい時間帯です(特に高齢者、手指振戦、裸眼視力低下、コンタクト使用者)。そのため「時間」だけでなく、「安全にできる環境」をセットで指導すると事故が減ります。
例えば次のように、夜のルーティンへ落とし込むと再現性が上がります。
また、患者が「寝る前にさしてはいけない」を過剰に信じると、処方のアドヒアランス低下(夜の1回が抜ける)につながり得ます。そこで、最後に必ず「あなたの目薬が“就寝前禁忌”かどうかは薬で違う」ことを伝え、医師の用法用量が優先であると明確化するのが安全策です。