医療現場で「プラスチベース=ワセリンの仲間」と説明されがちですが、基剤の作り方(内部構造)が異なる点が核心です。
白色ワセリンは、日本薬局方で「石油由来の炭化水素類の混合物を精製したもの」とされ、白色〜微黄色の均質な軟膏様物質、融点は38〜60℃と記載されています。
一方、プラスチベースは“炭化水素ゲル軟膏基剤”として扱われ、一般に「ミネラルオイル(流動パラフィン相当)とポリエチレンのゲル」で説明されます。実際、Plastibaseの調製例として「mineral oil と polyethylene を 95:5 で混合して作る」手順が論文内で明記されています。
ここで重要なのは、プラスチベースが“樹脂(ポリエチレン)で油を三次元的に捕まえたゲル”という点です。白色ワセリンは同じ炭化水素系でも、基本的には半固形の炭化水素混合物としての性格が強く、温度や塗布条件による挙動が変わりやすいことがあります(融点幅が広いのもその裏返しです)。
参考)https://academic.oup.com/jpp/article/37/9/614/6177082
臨床では「塗りやすさ」「ベタつき」「被覆のしやすさ」が選択に直結します。
白色ワセリンは加温すると澄明な液となる、と添付文書レベルで明記されており、手のひらで温めてから伸ばすという基本操作が理にかなっています。
プラスチベースは油(mineral oil)をポリエチレンのネットワークで保持するため、温度の影響を受けても“ゲルとしての形”を保つ方向に働きます(同じ炭化水素系でも「構造体がある」)。この差は、例えば「夏場のだれ」「チューブからの出しやすさ」「均一に薄く伸ばせるか」など、細かい業務上のストレスに効いてきます。
また、少し意外ですが、プラスチベース系の基剤は“配合成分の放出”にも影響します。ミネラルオイルとポリエチレンの比率を上げる(=ゲルネットワークが支配的になる)と、薬物放出が低下しうる、という実験的観察が報告されています(薬物がPEネットワークに取り込まれやすい、という解釈)。
つまり、単に「使用感」だけでなく、基剤が薬の出方(リリース)にも影響し得る点は、医療従事者として押さえておくと説明の質が上がります。
白色ワセリンの添付文書には「水又はエタノール(95)にほとんど溶けない」とあり、水系と相性がよい基剤ではないことが示唆されます。
プラスチベースも、ミネラルオイルとポリエチレンで作る無水系の基剤として調製されており、少なくとも基本設計としては“水に弱い(=水相を抱えにくい)”側の発想です。
この「無水性」は、現場で次のように利点・注意点になります。
また、ワセリン/プラスチベースともに「混ぜれば何でも均一になる」わけではありません。混合したい薬剤の溶解性(油に溶けるか、粉体として分散するか)で、乳鉢操作や軟膏板での展延、粒子感の残り方が変わります。特に粉砕不足は、刺激感・ざらつき・局所濃度ムラに直結するので、処方監査・調剤監査の観点でも“基剤の選択理由”を一言メモできると安全です。
白色ワセリンは「軟膏基剤として調剤に用いる。また皮膚保護剤として用いる」とされ、添付文書上の副作用として接触皮膚炎が頻度不明で記載されています。
つまり「基本的に安全性が高いが、ゼロリスクではない」ため、赤み・かゆみ・悪化が出たら中止して評価する、という当たり前の動線を患者説明で外さないことが重要です。
プラスチベースも炭化水素系で抗原性が低いと言われる文脈で扱われがちですが、臨床では“基剤による閉塞(occlusion)”の影響もセットで考える必要があります。閉塞性が高い塗布は、バリアとして有利な一方で、毛包炎様の悪化、蒸れ、痒みの増悪などを誘発することがあります(特に高温多湿の環境や、厚塗り、被覆を重ねる運用)。
ここは「どちらが優れているか」ではなく、塗布量と頻度、塗布後に衣類で密閉される部位か、という運用設計が副作用を左右する領域です。
検索上位記事は「成分の違い」「使用感の違い」「どっちが保湿に良い?」に寄りがちですが、医療従事者向けに価値が出るのは“処方意図の翻訳”です。ポイントは、基剤を「薬効の器」ではなく「治療プロトコルの部品」として読むことです。
例えば、同じステロイド外用でも、基剤が違うと患者の実行率が変わります。
さらに調剤側の視点では、プラスチベースは「mineral oil と polyethylene のゲル」として作られるため、基剤の“網目(ネットワーク)”が薬物放出や硬さに影響し得る、という研究知見がヒントになります。
すなわち、医師がプラスチベースを指定している場合、単に「ワセリンの代わり」ではなく、(1) 稠度を安定させたい、(2) 水に弱い成分を扱いたい、(3) 皮膚上での保持性を狙いたい、などの意図が隠れている可能性があります。
この“意図の仮説”を持ったうえで疑義照会・服薬指導をすると、会話が一段深くなります。患者には「薄く、こすらず、必要なら手で温めてから」といった基本操作(白色ワセリンで特に有効)を具体化し、医師には「基剤指定の狙い(稠度安定/展延性/混合薬の安定性)」を確認すると、チームの意思決定が滑らかになります。
(白色ワセリンの公的規格・性状の根拠)
PMDA:日本薬局方 白色ワセリン(組成・性状、融点、副作用など)
(プラスチベースがmineral oilとpolyethylene 95:5で調製される根拠、基剤比率が放出に影響する知見)
PMC:Plastibase(mineral oil+polyethylene 95:5)の調製法と放出挙動の議論
医療者がまず押さえるべきは、「同じ“湿潤療法っぽい見た目”でも、浸出液の扱いが逆方向」という点です。
プラスモイストは、独自の「独立セル構造」によって“浸出液コントロール機能”を持ち、過剰な浸出液をドレナージし、吸収した液が創面に逆戻りしにくい設計だとされています。さらに浸出液量が少ない創から多い創まで「1枚で幅広く対応」と説明されています。
一方、ハイドロコロイドは「創面に付く粘着部」と「外部のフィルム部」から構成され、粘着部は親水性コロイド+疎水性ポリマーの混合、外側はポリウレタンフィルムで水分や細菌を通しにくい、という“閉鎖性(密閉性)”の設計が基本です。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC12031659/
創からの浸出液を吸収してゼリー状(ゲル状)になり、湿潤環境を作るのが主目的で、浸出液が多い場合は吸収を上回って周囲から漏れ出ることがある、とも記載されています。
ここで臨床的に効いてくるのは「創面は湿らせたいが、周囲皮膚はふやかしたくない」という相反条件です。ハイドロコロイドは“創面には湿潤、周囲皮膚には乾燥”をもたらす、という興味深い説明があり、疎水性ポリマーの接着と親水性コロイドの取り込みで周囲が意外と浸軟しにくい、とされています。
ただし、実運用では浸出液量・貼付期間・密閉度合い・周囲皮膚の状態で浸軟は起こり得るため、「素材の理屈」と「現場の皮膚」は分けて考えるのが安全です(特に高齢者、ステロイド外用中、テープ刺激に弱い人)。
プラスモイスト側は、少なくともメーカーの製品説明では、スタンダードタイプ(例:V)が「熱傷(やけど)、手術創などをはじめとする創傷治療全般に適している」とされ、滅菌タイプ(Wシリーズ)が用意されている点も明記されています。
また、シリーズ全体として「創傷面の浸出液コントロール」を重視して開発されたドレッシング材(医療機器/医療材料)という位置づけです。
ハイドロコロイドは、看護向けの整理として「滲出液を吸収してゲル化することで浸軟を防ぎつつ適度な湿潤環境を保持」「水分や細菌を透過せず、酸素も遮断して低酸素の閉鎖性環境に保てるため血管新生が促進される」など、閉鎖系ドレッシングの特徴がまとめられています。
参考)株式会社瑞光メディカル[商品情報]商品ラインナップ
適する創としては「赤芽形成期以後の滲出液の少ない創」「真皮~皮下組織までの皮膚欠損創」などが挙げられており、貼付サイズは創縁より2.5〜3cm大きめ、しわ・隙間を作らず密着などの要点が示されています。
つまり、ざっくりした使い分けの発想は以下です(※施設プロトコルと医師判断を優先)。
ただし、同じ「褥瘡」でもステージや時期(炎症期か、肉芽期か、上皮化期か)で必要条件が変わります。材料名で固定せず、毎回「いま何を優先する創か(浸出液・感染・デブリ・周囲皮膚)」で選ぶのが医療者向けの安全な思考手順です。
ハイドロコロイドの最大のメリットは“閉鎖環境”ですが、同時に最大のリスクも“閉鎖して見えにくい”ことです。閉鎖で創感染率が下がる可能性がある一方、感染の可能性がある間は「創が閉鎖され観察できないため、1日1回のドレッシング交換が必要」と明記されています。
さらに「炎症が強く浸出液が多い創面での使用も、浸出液がすぐ漏れてくるため適しません」とされ、密閉系が万能ではないことがはっきり述べられています。
看護向けの整理でも、感染徴候が現れた場合は使用を中止する、滲出液が多い創ではゲル漏れに注意、など注意点が列挙されています。
この“ゲル漏れ”は、患者・家族が「膿が出た」「悪化した」と不安になりやすいポイントでもあるため、説明責任が大きい部分です(観察ポイントと連絡基準をセットにする)。
プラスモイストについては、少なくとも公式説明の範囲では「過剰な浸出液をドレナージ」「逆戻りしにくい」とされており、閉鎖してゲル化させるより“排液設計”の色が強いのが特徴です。
ただし、どのドレッシングでも感染創・壊死が多い創・炎症が強い時期は基本的に難易度が上がるため、発赤・熱感・腫脹・疼痛・悪臭・滲出液性状などの変化を「素材のせい」にせず、臨床所見として早期に拾う運用が重要です。
ここで現場的に役立つチェック項目(入れ子なしで簡潔に)。
検索上位でも語られがちですが、医療者が患者説明に転用しやすい“裏付けのある小ネタ”として、ハイドロコロイドの生理学的な利点が具体的に書かれている点は押さえておく価値があります。閉鎖で創面が低酸素になると、マクロファージが血管増殖因子(グロースファクター)を分泌し、毛細血管新生が加速して創傷治癒が促進される、という新知見に触れた記述があります。
また、ハイドロコロイドはpH5前後の弱酸性環境を作り、創面pHが0.6低下するとボーア効果によりヘモグロビンからの酸素供給量が約2倍になる、という説明もあり、肉芽形成促進や静菌的作用にも言及されています。
このあたりは「閉鎖=危険」という単純な印象を修正し、「適応を守れば理にかなった設計」と伝えるときに使えます。
ただし逆に言うと、低酸素・閉鎖・酸性が“効く設計”である以上、感染が成立している状況で密閉すると不利に働く可能性があるため、適応判断が最重要になります。
患者説明の例(医療者が言い換えやすい形)。
検索上位は「どっちが良い?」に寄りがちですが、医療現場で差が出るのは“選択そのもの”より“運用”です。特に在宅や外来では、創の評価者(医師/看護師/家族)が日々変わるため、材料の特性を活かすには「交換のルール化」と「記録の見える化」が効きます。実際、ドレッシング材は貼付した日付を直接記入し、初回は2〜3日目で交換して汚染度や創状態を観察し、最大でも1週間まで、という運用の要点が示されています。
この考え方を「プラスモイスト vs ハイドロコロイド」に当てはめると、失敗しにくい設計はこうなります。
さらに、プラスモイストは滅菌タイプ(Wシリーズ)と未滅菌タイプ(V)が整理されており、手術室や清潔操作の要件に合わせて選べる、という実務上のメリットもあります。
材料学の優劣ではなく、「現場の制約(交換できる頻度、観察の可否、滅菌物品の必要性)」で勝ち筋が変わる、という視点を入れると、上司チェックでも“医療従事者向け”の説得力が上がります。
有用:プラスモイスト公式(シリーズ概要と製品カテゴリの位置づけ)
株式会社瑞光メディカル[商品情報]商品ラインナップ
有用:プラスモイストV/W(独立セル構造・滅菌/未滅菌・サイズ体系の確認)
https://www.zuiko-medical.co.jp/product01.html
有用:ハイドロコロイド(閉鎖環境、感染観察、低酸素・弱酸性など“意外な生理学”)
https://www.ekinan-clinic.com/publication/100
有用:ドレッシング材の使い分け(ハイドロコロイドの適応、貼付サイズ、交換・注意点の整理)
https://knowledge.nurse-senka.jp/2560/