リベルサスの「縦切り」が話題になる背景には、PTPシートが“1錠単位で切り離しにくい”設計であることと、薬剤が吸湿の影響を受けやすいという製剤特性が重なっている点があります。
MSDの案内文では、リベルサスは吸湿性が強く、PTPポケット周囲を「5mm以上シール」して防湿性を維持し、有効期間36か月の安定性を確保しているため、原則としてミシン目以外で切り離さないよう明記されています。
一方で同文書は、ミシン目以外で切り離すことを“推奨するものではない”としつつ、やむを得ず切り離す場合にはポケット部分を破損しないよう求めています。
参考)302 Found
つまり「縦切り=即NG」と単純化するより、①原則は避ける、②例外は“ポケット破損の回避”が最重要、という二層の理解が実務に合います。
臨床現場では、患者が「持ち運びたい」「一包化したい」「日数調整で奇数錠になった」などの理由で小分けを求めることがありますが、製剤側の前提は“PTPで防湿しながら保管”です。
縦切りが必要そうな相談が来た時点で、まず「縦切りを前提に工夫」ではなく、「縦切りを避ける処方・調剤設計は可能か」を検討するのが安全側の整理です。
このテーマで見落とされやすいのが、「切る行為そのもの」よりも「ポケット部の破損(密封性の破綻)」がリスクの中核になり得る点です。
MSDの改訂連絡は、ミシン目以外で切り離す場合の注意点として“ポケット部分を破損しない”ことを明示しており、逆に言えば破損が品質に関わる可能性を強く示唆します。
患者が自宅でハサミを使って縦切りを試みると、切断線がポケットに近づき、シール部や成形部を傷つけるリスクが上がります。
その結果、目視上は変化がなくても、保管中に湿気を取り込みやすくなり、製剤の意図した安定性から外れる可能性が出ます。
さらに服薬指導資料では、リベルサスは「湿気と光の影響を受けやすいため、服用直前にPTPシートから取り出す」よう記載されています。
参考)https://www.semanticscholar.org/paper/72714affd48dcea119071e93768806af04416233
縦切りを伴う小分けは、しばしば「早めに取り出す」「裸錠に近い状態で保管する」行動とセットになりやすいので、縦切り相談は実質的に“保管と取り出しタイミング”の再教育の契機として扱うと、指導がぶれにくくなります。
「縦切り」という言葉は、PTPシートを縦に切る話と、錠剤そのものを割る(分割)話が混線しやすいのが厄介です。
服薬指導資料では、用法関連の注意として「分割・粉砕及びかみ砕いて服用してはならない」と明記されており、錠剤自体は“そのまま”が原則です。
このため、指導場面では次のように言い換えると誤解が減ります。
また、リベルサスは服用条件が薬物曝露に大きく影響することが示されており、服用前の絶食の有無で曝露が確認できない例が増える旨が紹介されています。
「縦切りできるか」だけに会話が寄ると、より重要な“空腹・水量・30分ルール”が抜け落ちやすいので、縦切り相談はむしろ服用条件の復習に接続するのが現実的です。
縦切りが現場で発生しやすいのは、①処方日数が奇数で最終日に1錠だけ必要、②旅行や勤務で1回分だけ持参したい、③服薬カレンダーや一包化に入れたい、などの場面です。
ただし、製剤側は「PTPで防湿」「服用直前に取り出す」という前提を明示しており、これと相反する運用は、患者の“便利”と引き換えに品質面の不確実性を増やします。
実務上の選択肢は、患者の生活背景を聴取したうえで次の順で検討すると整理しやすいです。
「縦切りをしたPTPが患者に渡る」ケースがゼロではない以上、現場では“禁止の連呼”よりも、患者がやりがちな二次被害(裸錠保管、ピルケース移し替え、前日夜に取り出す等)を止める方が、実益が大きいことがあります。
この観点では、「縦切りした片側から先に飲み、残りは早めに使い切る」など、曝露時間を短くする発想が指導の軸になります(ただし推奨ではなく、例外時のリスク低減として位置づけます)。
参考:PTPシートをミシン目以外で切らない原則、やむを得ない場合の「ポケット部を破損しない」、防湿性(5mm以上シール)と安定性(有効期間36か月)の考え方
MSD:リベルサス®錠 PTPシートの取扱いについて(2024年2月)
縦切り問題の根っこには、「1錠だけ持ちたい」以前に、「朝の服用手順が生活に刺さらない」ことが隠れている場合があります。
服薬指導資料では、リベルサスの服用は①1日の最初の食事/飲水の前、②水は約120mL以下、③服用後30分は飲食・他薬の経口摂取を避ける、という3点がポイントとして整理されています。
ここに適応できない患者ほど、「出勤途中に飲みたい」「職場で飲みたい」「朝食と一緒に飲みたい」→「だから1錠だけ切って持つ」→「縦切りしたい」という流れになりがちです。
このため、縦切りの可否に答える前に、患者の生活導線に合わせて“朝の30分”をどこに置くかを一緒に設計すると、そもそも小分け需要が減り、結果として縦切りリスクも下がります。
たとえば、服用後30分の過ごし方として、ニュース確認、散歩や体操、家事など生活パターンに合った時間の使い方を提案できる旨が紹介されています。
この「30分の使い方」提案は一見遠回りですが、患者の自己判断(縦切り・裸錠化・自己調整)を減らす作用が期待でき、医療者にとっては再指導の手戻りを減らす“意外に効く”介入になります。
参考:服用方法3ポイント(空腹、水量、30分ルール)と「分割・粉砕・かみ砕き禁止」、湿気と光の影響を受けやすいので服用直前にPTPから取り出す、などの服薬指導の要点
MSD:リベルサス®錠の服用方法の設定根拠と服薬指導のポイント