酒さ様皮膚炎は、顔面に生じる慢性炎症性疾患で、酒さに類似した症状を呈します。主要症状は以下の通りです。
診断において重要なのは、症状の出現部位です。酒さ様皮膚炎は主に口周り(鼻下やアゴ)に症状が現れ、「口囲皮膚炎」と呼ばれることもあります。一方、純粋な酒さでは顔の中心部(鼻や頬の内側、眉間)に症状が集中します。
この部位の違いは、診断の重要な手がかりとなり、適切な治療選択に直結します。患者の症状出現部位を詳細に観察し、既往歴とともに総合的に判断することが求められます。
酒さ様皮膚炎の最も多い原因は、ステロイド外用薬の長期使用による副作用です。発症メカニズムは以下のように考えられています。
ステロイドによる免疫抑制作用
長期間のステロイド外用により、皮膚の免疫機能が抑制され、常在菌のバランスが崩れます。特に顔面の細菌叢に変化が生じ、炎症反応が持続的に起こります。
皮膚バリア機能の低下
ステロイドの継続使用により、皮膚の角質層が薄くなり、バリア機能が著しく低下します。これにより外部刺激に対する過敏性が増し、炎症が慢性化します。
血管拡張作用
ステロイドの血管拡張作用により、顔面の毛細血管が拡張し、特徴的な紅斑や血管拡張症状が現れます。
その他の原因薬剤
ステロイド以外にも、タクロリムス軟膏(プロトピック軟膏)の長期使用や、意外なことに保湿剤(化粧水)の過度な使用も酒さ様皮膚炎の原因となることが報告されています。
体用に処方された強いステロイド軟膏を自己判断で顔面に使用するケースも多く、医療従事者による適切な指導が重要です。
酒さ様皮膚炎の治療は、原因薬剤の中止と適切な抗菌薬の使用が基本となります。
保険適応の治療薬
2022年5月に酒さに対して保険適応となった抗菌外用薬です。1日2回、患部に薄く塗布します。抗菌作用と抗炎症作用を併せ持ち、酒さ様皮膚炎の第一選択薬として位置づけられています。
毛穴の炎症を抑制する目的で使用されます。通常2-3ヵ月間の内服により、赤いブツブツや膿疱に効果が期待できます。
自費診療による治療薬
本来は寄生虫治療薬ですが、酒さ・酒さ様皮膚炎に高い効果を示します。ロゼックスゲルで改善しない症例や接触皮膚炎を起こした患者に対して処方されます。
抗菌作用と角質溶解作用を持つ外用薬で、化粧品として分類されています。皮膚のピリピリ感やかゆみなどの副作用が報告されています。
治療薬選択のポイント
患者の症状の重症度、既往歴、薬剤アレルギーの有無を総合的に判断し、段階的な治療を行います。軽症例では外用薬のみで、中等症以上では内服薬との併用が推奨されます。
酒さ様皮膚炎の治療において最も注意すべきは、ステロイド外用薬中止後に生じるリバウンド現象です。
リバウンド現象の特徴
リバウンド期間の予測
一般的に、ステロイド外用薬を使用した期間の2倍以上の時間がかかるとされています。長期使用例では、完全な改善まで6ヵ月から1年以上を要することもあります。
管理戦略
リバウンド現象の管理には、段階的な減量と並行治療が重要です。
注意すべき合併症
リバウンド期間中は皮膚バリア機能が著しく低下するため、細菌感染や接触皮膚炎のリスクが高まります。適切なスキンケア指導と感染予防策が必要です。
従来の皮膚科診療では保湿が基本とされてきましたが、酒さ様皮膚炎においては「肌断食」という新しいアプローチが注目されています。
従来の保湿療法の問題点
多くの皮膚科では「酒さなので保湿をするように」と指導されることが一般的でした。しかし、以下の問題が指摘されています。
肌断食療法の理論的根拠
実施上の注意点
完全な肌断食は現実的ではないため、以下の点に注意して実施します。
治療成績
軽症例においては、化粧水の中止のみで症状改善を認める患者が多数報告されており、従来の治療概念を見直す重要な知見となっています。
この治療法は、患者の生活の質向上と医療費削減の両面で意義があり、今後さらなる検証が期待されます。