エストロゲンは「女性ホルモン」と思い込んで男性の成長管理で意識しないと、最終身長を数cmロスさせてしまいます。
骨端軟骨板(成長板・成長軟骨板)は、長管骨の骨幹端と骨端の間に位置する軟骨性の組織で、骨の縦方向への成長を担います。 この組織は軟骨細胞(コンドロサイト)が規則的に配列しており、休止層・増殖層・肥大層の3層構造をとっています。 ja.wikipedia(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%AA%A8%E7%AB%AF%E8%BB%9F%E9%AA%A8)
増殖層では軟骨細胞が盛んに分裂し、縦列の柱状構造を形成します。その下の肥大層では細胞が体積を大きく増やし、最終的に石灰化して骨基質へと置き換わります。つまり骨の長さは、この軟骨内骨化の繰り返しによって増していきます。 jp.glico(https://jp.glico.com/boshi/futaba/no73/con02_02.htm)
思春期を経て性ホルモン濃度が上昇すると、増殖層における細胞分裂が次第に鈍化し、軟骨板全体が菲薄化していきます。これが骨端軟骨板の閉鎖の始まりです。 閉鎖が完了すると骨橋(bony bridge)が形成され、それ以降の縦方向への骨成長は不可能になります。骨端軟骨板の閉鎖が重要です。 biologyinsights(https://biologyinsights.com/epiphyseal-growth-plate-how-it-works-and-when-it-closes/)
医療従事者として成長評価を行う際、骨年齢(bone age)のX線評価でこの閉鎖の進行度を確認することが基本的な手技です。手の正面X線像(Greulich-Pyle法やTanner-Whitehouse法)が臨床で広く使われています。 ja.wikipedia(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%AA%A8%E7%AB%AF%E8%BB%9F%E9%AA%A8)
エストロゲンによる骨端軟骨板閉鎖は、以前は単純な「ホルモン濃度の上昇→骨化促進」と理解されていました。しかし現在では、より精緻なメカニズムが明らかになっています。 pnas(https://www.pnas.org/doi/abs/10.1073/pnas.121180498)
エストロゲンは骨端軟骨板の閉鎖を直接的に誘導するわけではありません。 研究によれば、エストロゲンは成長板の「プログラムされた老化(programmed senescence)」を加速させ、増殖層の軟骨前駆細胞の「増殖能枯渇(proliferative exhaustion)」を早めることで、間接的に閉鎖を引き起こします。 これは意外ですね。 pnas(https://www.pnas.org/doi/abs/10.1073/pnas.121180498)
さらにエストロゲン受容体α(ERα)の活性化機能-1(AF-1)の役割も注目されています。 マウスを用いた実験では、ERαAF-1を欠損させると、ERαが過活性化状態になり、軟骨細胞のアポトーシスと増殖のバランスが崩れて骨端軟骨板閉鎖が起こることが示されました。 つまり、エストロゲン受容体の構造的な機能差が骨成長の停止時期を左右するということです。 journals.physiology(https://journals.physiology.org/doi/full/10.1152/ajpendo.00646.2011)
近畿大学の研究では、骨端軟骨板由来の軟骨細胞にエストロゲンを添加すると一酸化窒素(NO)が誘導され、フリーラジカルの産生を経由したアポトーシスが起きることが確認されています。 細胞死の経路は複数あります。また、エストロゲンによって肥大層・休止層のアポトーシス細胞数が増加することも組織化学的に示されており、閉鎖メカニズムの多面的な関与が分かっています。 cir.nii.ac(https://cir.nii.ac.jp/crid/1050297769573396608)
| 作用 | 低濃度エストロゲン | 高濃度エストロゲン |
|---|---|---|
| 成長ホルモン分泌 | 促進 | 抑制(ネガティブフィードバック) |
| 骨芽細胞増殖 | 促進 | 飽和・減弱 |
| 軟骨細胞老化速度 | 緩やか | 加速(増殖能枯渇を早める) |
| 骨端軟骨板閉鎖 | 遅い | 早期閉鎖を誘導 |
骨端線閉鎖に関する分子機序の詳細はCiNii(近畿大学論文)に掲載されています。
「男性の骨成長はテストステロンが止める」と考えている医療従事者は少なくありません。これは不正確です。 answers(https://www.answers.com/healthcare-products/Does_estrogen_cause_epiphyseal_plates_to_close_in_women)
実際には、男性体内のテストステロンの一部がアロマターゼ(CYP19A1)という酵素によってエストラジオール(E₂)に変換され、この変換されたエストロゲンが骨端軟骨板閉鎖の主役を担います。 テストステロン単独では骨端閉鎖への直接作用は限定的です。 momotaro-net(https://www.momotaro-net.com/yakuin/doc/testosterone.html)
この事実を裏付けるのが、アロマターゼ欠損症(aromatase deficiency)やERα不活化変異を持つ男性の症例報告です。 これらの患者は成人後も骨端軟骨板が閉鎖せず、20〜30代になっても身長が伸び続けることが報告されています。エストロゲンがなければ止まらないということですね。 journals.physiology(https://journals.physiology.org/doi/full/10.1152/ajpendo.00646.2011)
臨床的に重要な点は、男性の低身長治療においてもエストロゲン産生量のコントロールが鍵になるということです。 成長ホルモン分泌不全(GHD)の男児を対象にした近年の研究では、アロマターゼ阻害薬(AI)を成長ホルモンと併用することで、エストロゲン依存性の骨格成熟を遅らせ、最終身長の改善が期待されることが示されています。 これは使えそうです。 growthring(https://growthring.healthcare/learning/pubmed/detail/38040920/)
アロマターゼ阻害薬(AI)の代表例として、アナストロゾール(商品名:アリミデックス®)とレトロゾール(商品名:フェマーラ®)が臨床研究で使用されています。 本来は乳がん治療薬として開発されたこれらの薬剤が、低身長治療に応用されている点は見逃せません。 bibgraph.hpcr(https://bibgraph.hpcr.jp/abst/pubmed/11194703?click_by=p_ref)
早期思春期や進行した骨成熟を持つ男児へのアナストロゾール(1 mg/日)投与の症例では、骨端軟骨板閉鎖が遅延し、予測最終身長が158.4 cmから164.4 cmへと約6 cm改善したことが報告されています。 6 cmの差は小さくありません。 bibgraph.hpcr(https://bibgraph.hpcr.jp/abst/pubmed/11194703?click_by=p_ref)
骨年齢13歳以上の特発性低身長症の思春期男子に対して、アロマターゼ阻害薬と成長ホルモンの併用療法が成人身長を有意に増加させることを示した研究も複数報告されています。 ただし、これらの薬剤は本邦では低身長治療に対する保険適用がない点に注意が必要です。適応外使用の倫理的・法的側面は事前確認が条件です。 academia.carenet(https://academia.carenet.com/share/news/bf776784-aa93-4bc6-a1f3-6aaf1fae60a4)
成長ホルモン治療中の男児にAIを追加投与した症例で、脛骨への特異な骨折リスクが報告されたケースもあります。 骨強度への影響を慎重にモニタリングすることが求められます。骨密度測定(DXA法)の定期的な実施が実施すべき対策として推奨されます。 academia.carenet(https://academia.carenet.com/share/news/9136c8bc-99b7-4afd-9ebe-a1108e57378d)
AIの使用に関する最新のエビデンスは下記に掲載されています。
成長ホルモン・アロマターゼ阻害薬治療中の男子に特異な脛骨骨折 | ケアネット
骨端軟骨板閉鎖の確認は、身長の伸び代を評価する際に不可欠な手順です。しかし、骨年齢評価には読影者間のばらつきが生じやすく、特に思春期中期(骨年齢12〜14歳相当)では判定が難しい時期でもあります。 ja.wikipedia(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%AA%A8%E7%AB%AF%E8%BB%9F%E9%AA%A8)
エストロゲンによる閉鎖促進の影響が「四肢の成長板」と「脊椎の成長板」で異なることも医療現場で見落とされがちです。 四肢の骨端軟骨板はエストロゲン高値に対してより敏感であり、身長増加が止まった後も体幹の成長が僅かに続くケースがあります。これは臨床で遭遇することがあります。 journals.physiology(https://journals.physiology.org/doi/full/10.1152/ajpendo.00646.2011)
早熟な女児では、エストロゲン過剰により骨端軟骨板が早期に閉鎖し、最初の数年間に身長の伸びが加速した後、10代前半で成長が止まるパターンが典型的です。 このため、「今は身長が高い」ことと「最終的に高身長になる」ことは直結しません。短期の身長評価だけで安心してはいけません。 sbc-seikeigeka(https://www.sbc-seikeigeka.com/qacolumn/seichouki/1917.html)
思春期を迎えた患者の保護者に対して成長見通しを説明する際は、「現在の骨年齢における予測成人身長(PAH: Predicted Adult Height)」を骨年齢の進行度と合わせて説明することが誤解を防ぎます。 骨年齢と暦年齢の乖離が1.5歳以上ある場合は、専門医への紹介を検討する判断基準として臨床現場で参考にされています。 jp.glico(https://jp.glico.com/boshi/futaba/no73/con02_02.htm)
日本小児内分泌学会による成長ホルモン治療の指針は以下を参照できます。
成長ホルモン | 日本小児内分泌学会(治療の基準と対象疾患の解説)
子どもの成長と骨端線に関する保護者・患者向け解説は以下が参考になります。
子どもの成長 | ノルディケア(成長板・骨端線の役割を分かりやすく解説)