医療従事者が「サンホワイトとプロペト、結局なにが違うのか」を説明する際、いちばん誤解が少ない出発点は「白色ワセリンという物質の規格」を押さえることです。白色ワセリンは、日本薬局方では「石油から得られる炭化水素類の半固形混合物を精製し、完全に又は大部分を脱色したもの」と定義されています。さらに、抗酸化剤としてジブチルヒドロキシトルエン(BHT)または適切な型のトコフェロールを加えることができ、添加した場合は名称と配合量を表示する、とされています。これだけで「白色ワセリン=絶対に無添加」とは限らない点がまず重要です。
また局方は、性状(白色〜微黄色、におい・味なし、加温で澄明化)や融点(38〜60℃)に加え、純度試験として色、酸・アルカリ、重金属、ヒ素、多環芳香族炭化水素(PAH)などの評価を規定しています。つまり医薬品グレードの白色ワセリンは「なんとなく白くて匂いがない油脂」ではなく、複数の不純物リスクを見据えた管理項目を通ったものです。
参考)https://www.pmda.go.jp/files/000243657.pdf
ここから臨床的な「違い」を言語化すると、プロペトは“医療用として流通し、眼科領域でも基剤として使うことがある”という文脈に強く、サンホワイトは“高精製(高純度)を前面に出し、敏感部位の保湿用途で選ばれやすい”という文脈に強い、という整理になります。両者は患者の皮膚状態・使用部位・処方設計(混合の有無)・衛生管理で評価軸が変わるため、「同じ白色ワセリンだから同じ」も「高純度だから絶対に優れる」も、どちらも説明としては単純化しすぎです。
参考)高精製ワセリン
医療現場で説明を間違えやすいのが、「プロペト(や白色ワセリン)を目の周りに塗ってよいか」「眼に入ってもよいか」という質問です。ここでは“眼軟膏用基剤”という言葉が一人歩きしやすいので、添付文書的な注意の形に落として伝えるのが安全です。
例えば白色ワセリンの製品資料には、「本品は、眼軟膏用基剤としても適当な物性を有する」と書かれる一方で、「本剤は無菌製剤ではないので、眼軟膏用基剤として用いる場合は、滅菌処理すること」と明記されています。つまり“目に使える=そのまま眼内に入れてよい”ではなく、眼科用途の調剤は無菌性・滅菌工程まで含めて成立する、ということです。
この点を患者説明に落とすなら、次のような言い方が現実的です(院内ルールに合わせて調整してください)。
サンホワイトについても、全成分が白色ワセリンである、と臨床側の説明資料で示されているケースがありますが、用途はあくまで保湿・皮膚保護としての位置づけで、眼科用の無菌製剤であることを意味しません。粘膜・口唇周りに使う患者が多い製品ほど、“どこまでを想定した品質か(医薬品の無菌性か、化粧品の使用想定か)”を言い分けることで、事故予防につながります。
参考)サンホワイト(ピュアワセリン)
「サンホワイトは不純物が少ないから安心」「プロペトは高純度」などの表現は検索上位でもよく見かけますが、医療従事者の説明としては“何の不純物が、どの枠組みで管理されているか”まで踏み込むと説得力が上がります。局方では白色ワセリンの純度試験として、重金属(鉛換算30 ppm以下)、ヒ素(2 ppm以下)、多環芳香族炭化水素(吸光度による規定)などが明確に規定されています。
ここで意外と見落とされるのが、局方定義の段階で「抗酸化剤を加えることができる」とされている点です。つまり“白色ワセリン=必ず抗酸化剤ゼロ”ではなく、必要に応じてBHTやトコフェロールが許容され得る枠組みになっています(表示が必要)。患者が「添加物が不安」と言ったとき、製品ラベル・添付文書・院内採用品目情報を確認して説明するのが、最もトラブルが少ない対応です。
一方、サンホワイトについては、メーカー側の事業ページで「水素化反応技術により精製」「不飽和化合物、芳香環含有化合物などの不純物がほぼ完全に除去」「紫外線吸収の影響をほとんど受けない」といった“精製技術・不純物低減・安定性”が語られています。これは局方の枠組み(規格適合)とは別に、原料・工程・用途ターゲットをより高品質側に振った設計思想の説明と捉えると理解しやすいです。
現場での実務的なまとめは次の通りです。
同じ「白色ワセリン」でも、患者満足度を左右するのは“使用感”と“塗り方の指導”です。特に乾燥肌・アトピー素因・刺激に敏感な患者では、薬理学的な差よりも「塗る量」「塗るタイミング」「擦り込み方」「二次感染を招かない取り扱い」のほうがアウトカムに効くことが珍しくありません。
塗り方は、いわゆる“擦り込む”より“置く”が基本です。ワセリンは閉塞性が主役で、皮膚表面に膜を作って水分蒸散を減らす方向に働くため、強く擦るほど刺激・痒み誘発・バリア破綻のリスクが上がります。患者には「米粒大を指先で溶かして、テカる薄膜を作る」など具体的に伝えると再現性が上がります。
また、医療用の白色ワセリン製品情報には、眼軟膏用基剤として使う場合の注意(無菌ではないので滅菌処理)や、過敏症状(発赤、発疹、瘙痒感等)が起こり得る旨が書かれています。ワセリンは一般にアレルギーが少ないと説明されがちですが、“ゼロではない”を前提に、悪化時中止と受診の導線をセットにするのが医療従事者向けの記事として誠実です。
混合(例:ステロイド外用薬+基剤、保湿剤+ワセリン)は現場で頻用ですが、ここにも落とし穴があります。ワセリン自体は安定でも、混合すると物性(硬さ、伸び、分離のしやすさ)が変わり、患者が「塗りにくい→塗布量が減る→治療効果が落ちる」というループに入ります。院内製剤や在宅での混合指示では、混合比・保存期間・保存環境・スパチュラ管理まで具体化すると、同じ処方でも成績が変わります。
使い分けを一文で言うなら、次のように整理できます。
検索上位の多くは「純度」「値段」「使用感」に寄りますが、医療従事者向けに価値が出る独自視点は“誤使用をどう減らすか”です。ワセリン系は「安全そう」という印象が強い分、患者が自己判断で適用部位を広げやすく、結果としてトラブル(例:感染部位の閉塞、びらん部の刺激、眼内使用)が起こります。ここを先回りして説明できると、製品比較記事が単なるレビューではなく臨床ツールになります。
誤使用予防として、外来・薬局で実装しやすいフレーズを用意しておくと便利です。
さらに一歩踏み込むと、局方には多環芳香族炭化水素などの規格があることを、医療者自身が理解しておくのは有用です。患者に細かい試験法まで説明する必要はありませんが、「医薬品として規格で管理されているもの」「高精製を特徴にした製品」のどちらを選ぶかを“安心感”だけで決めない姿勢は、説明の質を確実に上げます。
参考リンク(白色ワセリンの定義、不純物(多環芳香族炭化水素等)の規格、抗酸化剤の扱いが確認できる)
https://www.pmda.go.jp/files/000243657.pdf
参考リンク(白色ワセリンの用途、眼軟膏用基剤として使う場合は滅菌処理が必要であることが確認できる)
https://www.kenei-pharm.com/cms/wp-content/uploads/2020/05/fd12b7db9a7f23eca1640ccf398874a9.pdf
参考リンク(サンホワイトの高精製、不純物低減、紫外線影響を受けにくい等の設計思想が確認できる)
高精製ワセリン