トランスサイレチン型家族性アミロイドポリニューロパチー治療薬の種類と一覧

トランスサイレチン型家族性アミロイドポリニューロパチーの治療選択肢が大幅に拡大した現在、各治療薬の特徴と適応を理解していますか?

トランスサイレチン型家族性アミロイドポリニューロパチー治療薬の種類と一覧

治療薬の主要カテゴリ
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siRNA製剤

TTR産生を根本的に抑制する革新的治療

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TTR安定化剤

四量体構造を保持してアミロイド化を防止

🏥
肝移植・対症療法

根治的治療と症状緩和のアプローチ

トランスサイレチン型家族性アミロイドポリニューロパチーのsiRNA治療薬

siRNA製剤は、トランスサイレチン型家族性アミロイドポリニューロパチー(ATTRv-PN)治療において革命的な変化をもたらした治療選択肢です。これらの薬剤は、TTRメッセンジャーRNAを特異的に標的として、変異型および野生型両方のTTRタンパク質産生を肝臓レベルで抑制します。

 

パチシラン(オンパットロ®)
2019年に日本で承認された世界初のsiRNA製剤で、3週間に1回の静脈内投与により実施されます。脂質ナノ粒子(LNP)製剤として設計され、肝細胞への効率的な薬物送達を実現しています。APOLLO試験では、mNIS+7スコアの改善において有意な効果が確認されており、複合的な神経障害の進行抑制効果が実証されています。

 

ブトリシラン(アムヴトラ®)
2022年に承認された第二世代siRNA製剤で、3ヶ月に1回の皮下投与という利便性の高い投与方法が特徴です。N-アセチルガラクトサミン(GalNAc)結合により肝細胞への選択的送達を可能とし、より頻度の少ない投与で持続的なTTR抑制効果を発揮します。

 

エプロンテルセン(Wainzua®)
2024年に欧州で承認勧告を受けた月1回投与のアンチセンスオリゴヌクレオチド薬です。患者の自己投与が可能なオートインジェクターシステムを採用しており、在宅治療の選択肢を拡大する革新的な治療薬として注目されています。

 

トランスサイレチン型家族性アミロイドポリニューロパチーのTTR安定化剤

TTR四量体安定化剤は、変異したトランスサイレチンの構造的不安定性に着目した治療アプローチです。これらの薬剤は、TTRの四量体構造を物理的に安定化することで、単量体への解離とそれに続くアミロイド線維形成を防止します。

 

タファミジス(ビンダケル®)
2013年に日本で承認された経口TTR安定化剤で、1日1回20mgの投与により実施されます。TTRの変異に関係なく四量体構造を安定化し、アミロイド化のカスケードを上流で阻害します。国内第III相試験では、全症例でTTR安定化率32%以上を達成し、その安定化効果が確認されています。

 

Val30Met変異を有する患者を対象とした海外第III相試験では、18ヶ月時点でNIS-LL反応率45.3%(プラセボ群29.5%)、TQOLスコア変化量の改善傾向が認められており、疾患進行抑制効果が示されています。

 

ジフルニサル
研究段階で有効性が示されているNSAID系のTTR安定化剤です。タファミジスと同様の作用機序を有していますが、日本では未承認の状況が続いています。海外の臨床試験では一定の効果が報告されており、将来的な治療選択肢として研究が継続されています。

 

トランスサイレチン型家族性アミロイドポリニューロパチーの肝移植治療

肝移植は、変異型TTRを産生する肝臓を健常な肝臓に置換する根治的治療法として位置づけられています。変異型TTR産生の完全な停止が期待できる唯一の治療選択肢ですが、適応には厳格な条件が設定されています。

 

適応基準と限界
肝移植の適応は、一般的に50歳未満の若年発症例、特にVal30Met変異を有する患者で、罹患期間が短い症例に限定されます。しかし、ATTRv-PN患者の約3分の2は移植適応外とされており、ドナー不足や手術リスクなどの制約も存在します。

 

移植後の課題
移植後も野生型TTRの産生は継続するため、野生型TTRによるアミロイド沈着のリスクが残存します。このため、移植後の長期フォローアップと追加治療の検討が重要となります。

 

トランスサイレチン型家族性アミロイドポリニューロパチーの対症療法

対症療法は、ATTRv-PNに伴う多様な症状に対する包括的なアプローチとして不可欠な治療要素です。神経症状、自律神経症状、心血管症状など、各臓器系統の症状に応じた個別化された治療戦略が求められます。

 

神経症状への対応

  • 手足のしびれ・疼痛:プレガバリン、ガバペンチンなどの神経障害性疼痛治療薬
  • 運動機能低下:理学療法、作業療法による機能維持・改善
  • 感覚障害:感覚代償訓練、安全対策の指導

自律神経症状への対応

  • 消化管症状:下痢に対する止痢剤、便秘に対する緩下剤、食事指導
  • 循環器症状:徐脈に対するペースメーカー植込み、起立性低血圧の管理
  • 泌尿器症状:神経因性膀胱に対する薬物療法、導尿指導

その他の合併症への対応
心アミロイドーシス、腎アミロイドーシス、眼症状など、全身性アミロイド沈着に起因する臓器障害に対する専門科連携による集学的治療が重要です。

 

トランスサイレチン型家族性アミロイドポリニューロパチー治療薬選択の臨床判断基準

治療薬選択における臨床判断は、患者の病期、年齢、遺伝子変異型、合併症、生活環境など多面的な要素を総合的に評価する必要があります。

 

病期別治療戦略
早期病期(PND I期)では、疾患修飾療法(siRNA製剤、TTR安定化剤)による積極的な進行抑制が推奨されます。中等度進行期(PND II期)では、残存機能の保持と症状緩和のバランスを考慮した治療選択が重要です。進行期(PND III期以降)では、QOL向上を主眼とした対症療法が中心となります。

 

患者背景による選択指針

  • 若年患者:肝移植適応の検討、長期的な疾患コントロールを重視
  • 高齢患者:侵襲性の低い治療選択肢を優先、安全性重視
  • 心アミロイドーシス合併例:心機能評価と並行した治療計画立案
  • 通院困難例:投与間隔の長い治療薬、在宅治療対応薬の選択

薬剤特性を踏まえた選択基準
siRNA製剤は強力なTTR抑制効果を有する一方、注射による投与が必要です。TTR安定化剤は経口投与の利便性があるものの、効果発現には時間を要します。これらの特性を患者の病状と生活環境に合わせて最適化することが、治療成功の鍵となります。

 

日本神経治療学会のガイドラインでは、これらの治療選択肢を病期と患者背景に応じて体系化しており、エビデンスに基づいた治療指針として重要な役割を果たしています。