待機的治療群(黄色タグ)は、トリアージシステムにおける第2順位の患者群であり、多少の治療遅延があっても生命に危険が及ばない状態の患者を指します。この分類は、災害医療現場で限られた医療資源を効率的に配分するための重要な判断基準となっています。
🟨 分類の基準
待機的治療群に該当する具体的な病態として、脊髄損傷(胸髄以下)、四肢長管骨骨折、脱臼、気道熱傷を伴わない全身熱傷、中等度熱傷などが挙げられます。これらの患者は、赤色タグの最優先治療群の処置が完了した後に、適切な医療介入を受けることになります。
効果的な待機的治療群の運用には、組織的なアプローチと継続的な監視が不可欠です。START法(Simple Triage and Rapid Treatment)では、まず歩行可能性を確認し、その後にABCD(気道、呼吸、循環、中枢神経機能)の評価を行って黄色タグを決定します。
📋 運用の実践的手順
運用上重要なのは、待機的治療群の患者を単純に放置するのではなく、一か所に集積して継続的な観察を行うことです。容態の変化や初回評価の見直しが必要な場合もあり、トリアージは一度限りではなく繰り返し実施される動的なプロセスとして理解する必要があります。
アンダートリアージの防止は、待機的治療群運用における最重要課題の一つです。JTAS(Japan Triage and Acuity Scale)を用いた研究では、バイタルサインの異常を重視することでアンダートリアージを減少できる可能性が示されています。
🔍 判定精度を高める要因
特に成人においては、感染症の兆候や隠れた重篤な病態の見逃しを防ぐため、初期のバイタルサイン測定が極めて重要です。また、体幹部の挟圧や高所墜落など特定の受傷機転がある場合は、見た目以上に重篤な状態である可能性を考慮し、待機的治療群以上の分類を検討する必要があります。
災害医療における医療資源の効率的配分は、待機的治療群の適切な管理に直結します。限られた医療従事者、医療機器、病床を最大限活用するためには、戦略的な資源配置が求められます。
⚕️ 資源配分の最適化戦略
待機的治療群の患者には、基本的な生命維持に必要な処置(静脈路確保、鎮痛剤投与、創傷の初期処置など)を提供しつつ、より重篤な患者への医療資源の集中を図ります。この際、6~12時間以内に手術を要する患者については、適切なタイミングでの手術室への搬送計画を立てることが重要です。
待機的治療群に分類された患者やその家族に対する心理的ケアは、しばしば見過ごされがちな重要な側面です。治療の待機という状況は、患者に不安や恐怖を与える可能性があり、適切な情報提供と精神的支援が必要です。
🧠 心理的サポートの要素
災害という非日常的状況下では、患者の心理状態が身体症状に大きな影響を与えることがあります。過換気症候群や急性ストレス反応など、心理的要因による症状悪化を防ぐためには、医療スタッフによる継続的なコミュニケーションと安心感の提供が不可欠です。また、待機エリアの環境整備(適切な温度管理、プライバシーの確保、騒音の軽減)も重要な要素となります。
東京都保健医療局が提供する災害時トリアージの詳細ガイドライン
日本赤十字社による実践的なトリアージ手順書
JTASを用いた院内トリアージの精度向上に関する学術論文