2型糖尿病の症状は、病状の進行段階によって大きく異なります。初期段階では自覚症状がほとんどなく、多少血糖値が高い程度では全く症状のない患者がほとんどです。しかし、この無症状の状態でも合併症は着実に発症・進行していることが重要なポイントです。
症状が現れる段階では、既に血糖値がかなり高くなっていることを意味します。典型的な症状として以下があります。
初期から中期の症状
進行期の症状
血糖値が極めて高い状態(通常400mg/dl以上)では、意識障害や昏睡状態に陥る可能性もあります。これらの症状は、高血糖による脱水や電解質異常、ケトアシドーシスなどの急性合併症のサインでもあるため、緊急対応が必要です。
2型糖尿病の薬物療法では、経口血糖降下薬が中心的な役割を果たします。現在使用されている経口血糖降下薬は、その作用機序により大きく3つのカテゴリーに分類されます。
インスリン分泌促進系薬剤
スルホニル尿素(SU)薬は、膵臓のβ細胞に直接作用してインスリン分泌を促進します。確実な血糖降下効果がありますが、長期使用により膵臓の疲弊を招き、二次無効(薬剤を増量しても効果が見られなくなる状態)を起こす可能性があります。
速効型インスリン分泌促進薬(グリニド薬)は、食直前5~10分前の服用が必要で、即座にインスリン分泌を促します。食事からの糖吸収に合わせてインスリンを分泌させるため、食後高血糖の改善に効果的です。
DPP-4阻害薬は、インクレチンホルモンの分解を抑制し、血糖依存性にインスリン分泌を促進します。単独使用では低血糖リスクが低く、体重増加も起こしにくいという特徴があります。
インスリン抵抗性改善系薬剤
ビグアナイド薬(メトホルミン)は、肝臓での糖新生を抑制し、筋肉でのグルコース取り込みを促進します。第一選択薬として世界的に推奨されており、心血管イベントの抑制効果も報告されています。ただし、腎機能低下患者や高齢者では乳酸アシドーシスのリスクがあるため注意が必要です。
チアゾリジン薬は、脂肪組織や骨格筋のインスリン感受性を改善することで血糖降下作用を示します。特に肥満患者において効果が大きいとされています。
糖吸収・排泄調節系薬剤
αグルコシダーゼ阻害薬は、小腸での糖の吸収を遅延させ、食後高血糖を改善します。食直前の服用が必須で、低血糖時にはブドウ糖での対応が必要という特徴があります。
SGLT2阻害薬は、腎臓の尿細管でのグルコース再吸収を阻害し、尿中への糖排泄を促進します。体重減少効果があり、心不全や腎疾患の進行抑制効果も報告されています。ただし、脱水のリスクがあるため、十分な水分摂取が必要です。
経口薬で十分な血糖コントロールが得られない場合、注射薬による治療が導入されます。注射薬には、インスリン製剤とGLP-1受容体作動薬の2つの主要なカテゴリーがあります。
インスリン製剤の種類と特徴
インスリン製剤は、効果発現時間と作用持続時間により以下のように分類されます。
インスリン療法は、体内でのインスリン分泌が不足した場合に、外部からインスリンを補充する治療法です。患者の病態、合併症の有無、ライフスタイルを考慮して、使用する製剤や投与量・投与回数が決定されます。
GLP-1受容体作動薬の特徴
GLP-1受容体作動薬は、膵臓への負担を抑えながら血糖値を下げる作用があり、単独使用では低血糖のリスクが低い注射薬です。血糖依存性にインスリン分泌を促進し、グルカゴン分泌を抑制することで血糖コントロールを改善します。
さらに、体重減少効果や心血管イベント抑制効果も報告されており、肥満を合併する2型糖尿病患者において特に有用とされています。週1回投与の製剤も利用可能で、患者の利便性向上にも寄与しています。
最新のガイドラインでは、注射薬を導入する場合、インスリンよりもGLP-1受容体作動薬を優先することが推奨されています。これは、同等の血糖降下効果がありながら、体重増加や低血糖のリスクが低いことに基づいています。
2型糖尿病の治療薬選択においては、患者個々の病態や背景因子を総合的に評価した個別化アプローチが重要です。米国糖尿病学会の2022年ガイドラインでは、患者中心のアプローチがより重視されています。
第一選択薬の考え方
従来はメトホルミンが単独で第一選択薬とされていましたが、現在では以下の3剤が第一選択薬の候補となっています。
特に、心血管疾患、心不全、慢性腎臓病を合併している患者や、これらのリスクが高い患者では、HbA1c値やメトホルミンの使用とは関係なく、SGLT2阻害薬やGLP-1受容体作動薬が第一選択薬として推奨されています。
病態に応じた薬剤選択
非肥満の2型糖尿病患者の多くは、インスリン分泌不全が病態の主体であるため、インスリン分泌促進系薬剤を中心とした治療が選択されます。一方、肥満を伴う患者では、インスリン抵抗性改善系薬剤やSGLT2阻害薬、GLP-1受容体作動薬が有効です。
患者の優先事項に基づく選択
日本の診療マニュアルでは、第1選択薬はメトホルミンであり、SGLT2阻害薬はDPP-4阻害薬とともに第2選択薬として位置づけられています。これは、日本人糖尿病患者の心血管疾患罹患率が欧米人より低く、絶対的なベネフィットが欧米ほど大きくないことを考慮したものです。
2型糖尿病の薬物療法において、各薬剤の副作用と注意点を理解することは安全な治療を行う上で不可欠です。特に重篤な副作用や、特別な注意を要する薬剤について詳しく解説します。
低血糖とその対処法
低血糖は糖尿病の薬物療法中、最も高頻度に見られる急性合併症です。血糖値が60-70mg/dl以下になると、冷や汗、顔面蒼白、動悸などの症状が現れ、さらに進行すると意識障害やけいれんを起こします。
低血糖を起こしやすい薬剤。
低血糖時の対処では、ブドウ糖10g程度の速やかな摂取が基本です。ただし、αグルコシダーゼ阻害薬を服用している患者では、砂糖やお菓子では効果が期待できないため、必ずブドウ糖またはブドウ糖を含む飲料を摂取する必要があります。
重篤な副作用への注意
ビグアナイド薬では、高齢者や心・肝・腎機能低下患者において乳酸アシドーシスのリスクがあります。この合併症は意識障害を伴う重篤な状態で、シックデイ(発熱や下痢などで血糖コントロールが乱れる状態)時には休薬を考慮する必要があります。
SGLT2阻害薬では、脱水による脳梗塞や血栓・塞栓症のリスクがあります。特に高齢者、腎機能低下患者、利尿剤使用中の患者では注意が必要で、1日1リットル以上の水分摂取が推奨されています。
服薬タイミングの重要性
αグルコシダーゼ阻害薬と速効型インスリン分泌促進薬は、服薬タイミングが治療効果に直結します。これらは食直前(食事の5-10分前)の服用が必須で、食事中や食後の服用では期待される効果が得られません。
飲み忘れに気づいた場合、食事中や食直後を除いて、すぐに服用してはいけないという特別な注意点があります。これは薬剤の作用機序と関連しており、適切なタイミングでの服用が安全で効果的な治療につながります。
参考:日本糖尿病学会の最新治療ガイドライン
https://www.jds.or.jp/
薬剤の長期効果の低下
スルホニル尿素薬は、長期使用により膵臓のβ細胞を疲弊させ、二次無効と呼ばれる状態を起こすことがあります。この場合、薬剤を増量しても効果が見られなくなるため、医師による総合的な判断に基づいた治療方針の変更が必要となります。
経口血糖降下薬が効かなくなる原因には、薬剤の問題だけでなく、食事療法・運動療法の乱れ、服薬アドヒアランスの低下、ストレス、感染症、他薬剤との相互作用なども含まれます。そのため、薬効の低下が認められた場合は、生活習慣も含めた包括的な評価が重要です。