ビリルビン代謝異常症患者では、薬物代謝酵素の機能低下により通常の薬物療法では予期しない副作用や薬効増強が生じる可能性があります。特にUGT1A1酵素の遺伝子多型や変異により発症するGilbert症候群やCrigler-Najjar症候群では、薬物のグルクロン酸抱合反応が著しく低下します。
ビリルビンは薬物の主要なphase 2代謝であるグルクロン酸抱合酵素(UGT1A1)、およびphase 3代謝とも称される肝細胞から胆汁中への能動輸送蛋白(MRP2)と代謝経路を共有しており、その異常は薬物の代謝に直接的な影響を与えています。
この代謝異常により以下のような変化が生じます。
これらの変化を理解し、適切な薬物選択を行うことが安全な薬物療法の基盤となります。
ビリルビン代謝異常症患者において特に注意が必要な禁忌薬について、具体的な薬剤名と禁忌理由を整理します。
スタチン系薬剤
抗生物質
その他の重要な禁忌薬
これらの薬剤は肝臓での代謝が主であり、ビリルビン代謝異常症患者では薬効増強や肝毒性のリスクが高まるため、代替薬の検討が必要です。
Gilbert症候群は最も頻度の高い体質性黄疸であり、UGT1A1酵素活性の低下により間接ビリルビンが軽度上昇する疾患です。一般的には無症状で予後良好ですが、薬物療法においては特別な配慮が必要となります。
Gilbert症候群での薬物選択指針
Gilbert症候群患者では以下の点を考慮した薬物選択を行います。
Crigler-Najjar症候群での特別な注意点
より重篤なCrigler-Najjar症候群では、UGT1A1酵素がほぼ完全に欠損しているため、グルクロン酸抱合を受ける薬物の使用は原則として避けるべきです。代替薬としては以下が推奨されます。
体質性黄疸患者では薬物代謝能力に個人差があるため、薬物療法開始前の詳細な病歴聴取と遺伝子検査の検討が重要です。
ビリルビン代謝異常症患者では、肝機能の程度に応じた段階的な薬物投与量調整が必要です。Child-Pugh分類やModel for End-stage Liver Disease(MELD)スコアを参考に、以下のような調整を行います。
軽度肝機能障害(Child-Pugh A)
中等度肝機能障害(Child-Pugh B)
重度肝機能障害(Child-Pugh C)
ビリルビン値が5mg/dL以上の場合は、薬物代謝能力が著しく低下している可能性が高く、特に慎重な投与量調整が求められます。薬物血中濃度測定が可能な薬剤では、治療域モニタリング(TDM)の積極的な活用が推奨されます。
ビリルビン代謝異常症患者における安全で効果的な薬物療法には、包括的なモニタリング戦略の確立が不可欠です。従来の肝機能評価に加え、ビリルビン分画や薬物特異的なバイオマーカーの活用が重要となります。
基本的なモニタリング項目
先進的なモニタリング手法
近年注目されているのは、UGT1A1酵素活性の直接測定や遺伝子多型解析を用いた個別化医療アプローチです。これにより患者個人の薬物代謝能力をより正確に評価し、最適な薬物選択と投与量設定が可能となります。
また、Rotor症候群患者では、リガンディン欠損に伴う有機アニオン系薬物の輸送障害が報告されており、セファロスポリン系抗生物質などの胆汁排泄に注意が必要です。
薬物相互作用への配慮
ビリルビン代謝異常症患者では、薬物相互作用のリスクも健常者より高くなります。特に以下の組み合わせには注意が必要です。
定期的な薬剤師による処方監査と、多職種連携による包括的な薬物療法管理により、ビリルビン代謝異常症患者の安全性と治療効果の両立を図ることができます。
日本肝臓学会による肝機能障害時の薬物投与ガイドライン
https://www.jsh.or.jp/medical/guidelines/jsh_guidlines/hepatic_encephalopathy