薬物相互作用とは、血中に複数種類の薬物が存在することにより、薬物の作用に対して影響を与える現象を指します 。この現象により薬物の作用が増強する場合や減弱化する場合、新たな副作用が生じる場合があります 。薬物相互作用は一般に薬物動態学的相互作用と薬力学的相互作用に分類され、食品なども薬物の作用に影響を及ぼすこと(合食禁)があり、これらも薬物相互作用の一種とされています 。
参考)https://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%96%AC%E7%89%A9%E7%9B%B8%E4%BA%92%E4%BD%9C%E7%94%A8
薬物相互作用の理解において重要なのは、単に体外で薬物同士を混合した場合にその形状が変化する薬物配合変化とは明確に区別されることです 。薬物相互作用は体内での生理学的なプロセスを通じて起こる現象であり、患者の健康と安全に直接的な影響を与える可能性があります 。
参考)https://www.mdv.co.jp/ebm/column/ebm-topix/article106/
厚生労働省のガイドラインでは、薬物相互作用をDDI(Drug-Drug Interaction)として統一的に扱うことが多いですが、厳密には薬剤同士による薬物相互作用がDDI、食品と医薬品の相互作用はFDI(Food-Drug interactions)と表記される場合もあります 。
薬物相互作用は効果や副作用に大きく影響する可能性があるため、処方する立場としては正確な理解が欠かせません 。効果が増強したり中毒症状が発生したりする場合には、薬剤の併用だけでなく、薬剤と飲食物の組み合わせや、高齢者や妊婦など患者の背景によっても生じます 。
てんかんのように、治療効果が得られないと発作の再発などにつながる疾患の場合は、薬物相互作用によって治療効果が減弱することで、症状悪化のリスクとなります 。過去には、未然に防ぐのが難しい薬物相互作用によって、副作用が強く出てしまい、死亡事例が報告されたこともあります 。
薬物相互作用を理解することで、このような薬効や副作用の増強を防ぐことや、治療効果の減弱による疾患の悪化リスクを下げることが可能です 。最近の研究では、日本国内のDDI情報だけでは重篤なDDIを見逃す可能性があるため、国際的なデータを統合して網羅性を高める必要性が指摘されています 。
参考)https://www.ehime-u.ac.jp/data_relese/pr_20241129_med/
薬物動態学的相互作用は、薬物の吸収、分布、代謝、排泄が他の薬物により影響を受け、血中濃度が変動することによって過剰な効果の発現(中毒)や効果の減弱が起こる現象です 。この相互作用の多くが薬物代謝の阻害あるいは誘導を介するもので、薬物相互作用全体の約40%を占めることが報告されています 。
参考)https://www.jsphcs.jp/wp-content/uploads/2024/10/asc1.pdf
吸収段階での相互作用として、ニューキノロン系抗菌薬は金属カチオンを含む制酸剤の併用で吸収が低下することがあります 。分布段階では、吸収された薬剤が主に血漿中のアルブミンと結合して臓器に運ばれる際、複数の薬剤使用時にアルブミンへの結合競合が生じ、結合力が弱い薬剤の遊離型が増加することで作用が強く現れることがあります 。
代謝段階では、肝臓で薬物を代謝するCYPの働きが阻害または誘導されると、薬物の血中濃度に影響が発生します。CYP3A4、CYP2C9、CYP2D6などが主要な分子種として知られており、特にCYP3A4はCYPにより代謝される薬物のうち約50%に関係するため、臨床上重要です 。
参考)https://medical-tribune.co.jp/rensai/articles?blogid=11amp;entryid=538226
CYP(シトクロムP450)酵素系は薬物代謝において中心的な役割を果たしており、CYP3A4、CYP2D6、CYP2C19、CYP1A2の5分子種が主要な代謝酵素として知られています 。CYPの阻害薬を併用することで一般に基質薬の代謝が抑制されて血中濃度が上昇し、副作用の発現リスクが高まります 。
一方、CYPの誘導によって引き起こされる相互作用では、誘導薬の投与によりCYP等の一群の蛋白質の発現が誘導され、酵素量が増加して基質薬の代謝消失が亢進される結果、薬物血中濃度が低下して薬理効果が減弱します 。
薬物トランスポーターも重要な役割を担っており、肝を主要な消失組織とする薬物の場合には、血管側膜あるいは胆管側膜に発現しているトランスポーターを阻害する薬物が併用されることによって、薬物相互作用が生じる可能性が高くなります 。特にOATP1B1、OATP1B3、P-gp、BCRPなどのトランスポーターが臨床的に重要とされています 。
参考)https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=00tc0233amp;dataType=1amp;pageNo=2
日本では医薬品医療機器総合機構(PMDA)が中心となり、製薬会社やアカデミアからも意見を聞いたうえでまとめられた「医薬品開発と適正な情報提供のための薬物相互作用ガイドライン」が発出されており、薬物相互作用の評価と管理に関する基準が示されています 。
参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjphcs/44/11/44_537/_pdf
愛媛大学の研究グループによる最新の研究では、日本の医薬品コードであるYJコードと国際的な標準医薬品用語であるRxNormを対応させることで、薬物相互作用に関する国際的な情報を統合する研究が行われています 。この研究により、日本と海外のDDI情報を比較し、それぞれのDDI情報に臨床的に重要なデータを追加し、一貫性を持つように調整される必要があることが示されました 。
ICH-M12ガイドラインでは薬物相互作用試験に関する国際的な統一基準が設けられており、グローバルな薬事規制の調和が図られています 。これらの取り組みにより、DDI情報を含めた医療関連のグローバルなデータの共有や分析の促進が期待されています 。
参考)https://www.pmda.go.jp/int-activities/int-harmony/ich/0101.html