ビタミンAは脂溶性ビタミンの一種で、人間の健康維持に欠かせない多様な生理機能を担っています。主要な役割として、視覚の維持が最も広く知られており、網膜の光受容細胞にあるロドプシン(視覚色素)の構成要素として機能しています。ロドプシンは暗闇での視覚に不可欠で、光を受けると分解され視神経に信号を送り、その後再合成されることで暗順応が可能になります。
参考)https://lino-clinic.co.jp/column/%E3%83%A1%E3%83%B3%E3%82%BF%E3%83%AB%E3%82%B1%E3%82%A2%E3%81%A8%E3%83%93%E3%82%BF%E3%83%9F%E3%83%B3a%E3%81%AE%E9%96%A2%E4%BF%82%E3%81%AB%E3%81%A4%E3%81%84%E3%81%A6/
免疫機能の強化においても、ビタミンAは重要な役割を果たしています。細胞の成長や修復を助け、上皮細胞の分化を促進することで皮膚や粘膜を健康に保ち、病原体の侵入を防ぎます。特に、目、鼻、口粘膜での「IgA抗体」という免疫物質の維持に重要な働きをしており、外から侵入した異物にIgA抗体がくっつくことで細胞への侵入を防いでくれています。
参考)https://health.kirin.co.jp/column/vol25/
抗酸化作用も注目すべき機能の一つです。活性酸素による細胞の損傷を抑え、肌や内臓の老化を防ぎます。特にβ-カロテン(プロビタミンA)は強力な抗酸化作用を持ち、紫外線や環境ストレスから細胞を守る働きがあり、シワやシミの予防、動脈硬化やがんリスクの低減にもつながります。
ビタミンAの供給源は、動物性食品と植物性食品の2つのカテゴリに分けられます。動物性食品には既成ビタミンA(レチノール)が含まれており、レバー、魚、卵、乳製品が主要な供給源となっています。特に牛レバーには6,582μgという高濃度のビタミンAが含まれており、1回の摂取で1日の必要量を大きく超えてしまう可能性があります。
参考)https://www.fsc.go.jp/sonota/factsheet-vitamin-a.pdf
植物性食品では、プロビタミンAカロテノイドとして体内でビタミンAに変換される成分が含まれています。主要なカロテノイドにはβ-カロテン、α-カロテン、β-クリプトキサンチンがあり、これらは緑黄色野菜、黄色やオレンジ色の果物に豊富に含まれています。サツマイモ、ホウレンソウ、ニンジン、カンタロープメロンなどが代表的な供給源です。
参考)https://www.ejim.mhlw.go.jp/public/overseas/c03/06.html
摂取効率に関しては、レチノールは最大75~100%、食品中のβ-カロテンはほとんどの場合10~30%が体内に吸収される可能性があります。カロテノイドは、加熱調理するか細かく砕いた野菜を多少の油脂とともに摂取した場合に最もよく吸収されるため、調理方法によって生物学的利用能が大きく変わることも重要なポイントです。
参考)https://www.msdmanuals.com/ja-jp/home/11-%E6%A0%84%E9%A4%8A%E9%9A%9C%E5%AE%B3/%E3%83%93%E3%82%BF%E3%83%9F%E3%83%B3/%E3%83%93%E3%82%BF%E3%83%9F%E3%83%B3a%E6%AC%A0%E4%B9%8F%E7%97%87
ビタミンA欠乏症の最も特徴的な初期症状は**夜盲症(とり目)**です。この症状は暗い場所での視力低下として現れ、進行すると最終的に失明に至ることもあります。夜盲症は、網膜の視覚色素であるロドプシンの合成に必要なビタミンAが不足することで起こる症状で、現代の栄養状況では珍しくなっていますが、栄養摂取が不十分な地域では深刻な問題となっています。
参考)https://www.acuvue.com/ja-jp/memamori/eye-health/49/
皮膚と粘膜の健康にも深刻な影響が現れます。ビタミンA欠乏症では、眼や皮膚、その他の組織が乾燥して損傷を受けやすくなり、感染症が生じる頻度が高まります。上皮細胞の分化・増殖の障害、皮膚の乾燥・肥厚・角質化、粘膜上皮の乾燥などが起こり、身体のバリア機能が低下して感染症にかかりやすくなります。
免疫機能の低下も重要な問題です。ビタミンA欠乏症は、細菌やウィルスの侵入を防ぐ皮膚や粘膜の正常な機能を損なうだけでなく、白血球やT細胞の働きを阻害し、感染症に対する抵抗力を大幅に低下させます。この状態は、特に発展途上国の小児において死亡率の増加と密接に関連しており、ビタミンA補充により12~24%の死亡率減少効果が報告されています。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC9738822/
ビタミンAの過剰摂取は、急性中毒と慢性中毒の2つの形態で現れます。急性ビタミンA中毒は短時間に大量のレチノールを摂取した場合に起こり、吐き気、嘔吐、激しい頭痛、めまい、眼圧亢進、皮膚の剥離(特に唇)、眠気、易刺激性などの症状が現れます。これらの症状は原因となる摂取を中止すれば比較的短時間で回復することが多いとされています。
参考)https://utu-yobo.com/column/40153
慢性ビタミンA中毒は、長期間(数ヶ月〜数年)にわたり、耐容上限量を超える量のレチノールを習慣的に摂取した場合に発生します。主な症状として、皮膚症状では乾燥、かゆみ、落屑(ふけのように剥がれること)、脱毛(特に頭髪や眉毛)が現れます。骨・関節への影響では関節痛、骨の痛み、骨密度の低下による骨折リスクの上昇が報告されています。
肝機能障害は特に深刻な副作用の一つです。肝臓が腫れる(肝腫大)、肝機能の異常、重篤な場合は肝硬変に至ることもあります。神経症状として頭痛、吐き気、めまい、眼圧亢進による視覚障害(偽脳腫瘍の症状)も現れ、疲労感、食欲不振、体重減少といった全身症状も伴います。日本の成人女性における耐容上限量は1日2,700μgRAEと設定されており、この値を継続的に超える摂取は避けるべきです。
参考)https://www.msdmanuals.com/ja-jp/home/11-%E6%A0%84%E9%A4%8A%E9%9A%9C%E5%AE%B3/%E3%83%93%E3%82%BF%E3%83%9F%E3%83%B3/%E3%83%93%E3%82%BF%E3%83%9F%E3%83%B3a%E9%81%8E%E5%89%B0
妊娠中のビタミンA摂取は、母体と胎児の両方にとって重要でありながら、過剰摂取による胎児奇形リスクという深刻な問題も抱えています。特に妊娠初期(3か月ごろまで)の間にビタミンAを摂り過ぎると胎児の先天奇形リスクが上昇することが多数の研究で報告されています。ビタミンAは細胞の分化に関わる栄養素ですが、胎児の身体に過剰な量が供給されると、目・耳(顔周り)の形成不全が起こり、結果として先天奇形に繋がると考えられています。
参考)https://www.kai-ten.com/media/ninsincyuuki-vitamin-a/
妊娠期間別の推奨摂取量は慎重に設定されています。「日本人の食事摂取基準(2025年版)」によると、妊娠初期・中期の推奨摂取量は650〜700μgRAE、妊娠後期は730〜780μgRAE、授乳期は1,100〜1,150μgRAEとなっています。しかし、耐容上限量は妊娠の全期間を通して2,700μgRAEと設定されており、この値を超えない範囲での摂取が重要です。
参考)https://belta.co.jp/expert/dietitian/vitamin_a/
妊活中から妊娠期の管理が特に重要です。ビタミンAは脂溶性のビタミンで体内に蓄積しやすい性質を持っているため、妊娠を計画している段階(妊活中)からビタミンAの摂取量には注意が必要です。妊活中の摂取目安量は450μgRAE~500μgRAEとされており、普段の食生活によってはサプリメントを利用しなくても1日の目安量を満たすことがあるため、食事内容の見直しとサプリメント使用の慎重な検討が推奨されています。