カロテン カロチン 違いと呼称変更の理由、医療従事者が知るべき体内変換の仕組み

カロテンとカロチンは同じ物質ですが、2000年の食品標準成分表改訂で表記が統一されました。医療現場で重要なこの栄養素の名称変更の背景や、プロビタミンAとしての体内での働き、β-カロテンの変換効率について、医療従事者として正確に理解していますか?

カロテン カロチン 違い

📋 カロテンとカロチンの基本
🔤
名称の由来

英語「carotene」とドイツ語「Carotin」の読み方の違いで、同一物質を指す

📅
表記統一の時期

2000年11月の五訂日本食品標準成分表改訂で「カロテン」に統一

🥕
語源

ニンジンの英語名「carrot」が由来で、ラテン語の「carota」に遡る

カロテンとカロチンは同一物質

 

カロテンとカロチンは全く同じ物質を指す言葉で、呼び方が異なるだけです。英語表記の「carotene」を「カロテン」と読むのに対し、ドイツ語表記の「Carotin」を「カロチン」と読んでいたことが、この二つの呼称が存在する理由です。
参考)「カロチン」「カロテン」?

従来、日本では「カロチン」という呼び方が一般的で、学校給食などでも「ニンジンには体に大切な『カロチン』がたっぷり含まれている」と教えられてきました。しかし専門家の間では以前から「カロテン」という呼称が使われており、学術用語集の化学編でも「カロテン」が正式な表記とされ、「カロチン」は「古い用語として文献などに見られるが、その使用は望ましくない」と位置づけられていました。​
「カロテン」という名称の語源は、ニンジンの英語名である「キャロット(carrot)」に由来し、さらに遡るとラテン語で人参を意味する「carota」に行き着きます。ニンジンの橙色の色素成分として初めて発見されたことから、この名称がつけられました。
参考)人参とキャロットの語源や由来!カロテン(カロチン)との関係は…

カロテン表記への統一経緯

2000年11月に改訂された「五訂日本食品標準成分表」において、政府は表記を「カロチン」から「カロテン」に正式に変更しました。この改訂により、専門家の間で既に使われていた「カロテン」という呼称が、公的な基準として採用されることになりました。
参考)カロテン - Wikipedia

この変更を受けて、辞書の中にも見出し語を従来の「カロチン」から「カロテン」に替えるものが出始めました。ただし、表記統一直後の2003年時点では、インターネット上での使用頻度は「カロチン」が38,900件、「カロテン」が2,920件と、まだ「カロチン」が圧倒的に多く使われている状況でした。​
五訂日本食品標準成分表では、「カロチン」から「カロテン」への名称変更だけでなく、「A効力」が「レチノール当量」に変更されるなど、ビタミンに関する表記が国際基準に合わせて見直されました。また、測定方法も改善され、α-カロテン、β-カロテン、クリプトキサンチンを高速液体クロマトグラフ法で個別に定量し、生理活性を考慮した「β-カロテン当量」として表示されるようになりました。
参考)Redirecting to https://www.jfr…

カロテンの化学構造と異性体の種類

カロテンは炭素数40(C40)のイソプレノイド化合物で、5個の炭素(C5)からなるイソプレン単位が8個、直鎖状に結合した基本構造を持っています。カロテノイドは炭素と水素だけで構成される炭化水素化合物である「カロテン類」と、カロテン骨格に酸素原子がエポキシ基、カルボニル基、水酸基などの形で結合した含酸素化合物の「キサントフィル類」に分類されます。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC7253555/

主要なカロテンの異性体には、α-カロテン、β-カロテン、γ-カロテン、δ-カロテン、ε-カロテン、ζ-カロテンなど約60種類があります。これらの異性体は、分子末端の環構造の違いによって区別されます。β-カロテンは両末端が同一のβ環構造を持つため「β,β-カロテン」と呼ばれ、α-カロテンは片方にβ環、もう片方にε環を持つため「β,ε-カロテン」と呼ばれます。
参考)Redirecting to https://www.jfr…

β-カロテンはα-カロテンよりも一般的で、黄色、橙色、緑葉の果物と野菜に広く分布しており、量的にも最も多く存在します。橙色がより鮮やかな果物および野菜ほど、より多くのβ-カロテンが含まれている傾向があります。カロテン分子内には共役二重結合(ポリエン鎖)が存在し、この構造により赤、橙、黄色などの色を発現しています。
参考)https://seiken-site.or.jp/files/libs/622/202103291111459230.pdf

カロテンからビタミンAへの体内変換メカニズム

カロテンは体内でビタミンA(レチノール)に変換される特性を持つため、「プロビタミンA」または「ビタミンA前駆体」と呼ばれます。ヒトを含む動物はカロテノイドを体内で合成できないため、植物や微生物が生成したカロテノイドを食物から摂取する必要があります。
参考)https://www.kenkotai.jp/shop/pages/interview_vol63.aspx

プロビタミンAとして機能するカロテノイドは、α-カロテン、β-カロテン、γ-カロテン、β-クリプトキサンチンの4種類です。この中で最も効率よくビタミンAに変換されるのはβ-カロテンです。α-カロテンとβ-クリプトキサンチンの変換効率は、β-カロテンの約半分程度とされています。
参考)https://www.morinaga.co.jp/protein/columns/detail/?id=186amp;category=health

β-カロテンの体内での変換は厳密に調節されており、体内のビタミンAが少ない時には必要量だけがビタミンAに変換され、ビタミンAが十分にある時には変換されずに排出されるか脂肪組織に蓄えられます。この調節機能により、β-カロテンを過剰摂取してもビタミンA過剰症は生じません。吸収効率やビタミンAへの変換率を考慮すると、β-カロテンの生理活性はレチノールの約6分の1から12分の1程度と考えられています。
参考)ベータカロテンはビタミンAの前駆体だと聞きました。ベータカロ…

カロテンの腸管吸収と体内動態の特徴

カロテンのような脂溶性成分の腸管吸収機構は、従来は単純拡散によるものと考えられてきましたが、近年では吸収受容体による促進拡散の関与が報告されています。カロテンは油脂や胆汁酸などと混合ミセルを形成して、小腸上皮細胞から吸収されると考えられています。
参考)https://www.naro.go.jp/publicity_report/publication/files/iv-kotake.pdf

自然界には約600種類のカロテノイドが存在し、一般的な食事には50〜60種類のカロテノイドが含まれていますが、実際に人間の体内に見出されるものは、食事に由来する25種類と体内で生成された代謝物の8種類を合わせた33種類程度です。体内に存在する主要なカロテノイドには、ルテイン、リコピン、β-カロテン、α-カロテン、ゼアキサンチン、β-クリプトキサンチンなどがあります。
参考)野菜・果物に多い天然色素(カロテノイド)は 飲酒と喫煙の毒消…

腸管から吸収されたカロテンは、トリアシルグリセロール(中性脂肪)を豊富に含むリポタンパク質に組み込まれて体内を循環し、肝臓、肺、乳房、子宮頚部、前立腺、大腸、皮膚、網膜をはじめとする眼組織など、人体のいたる所に分布します。野菜や果物に含まれるβ-カロテンやリコピンなどのカロテノイドは、生のままで食べるとわずか10%程度しか体内に吸収できませんが、調理方法や組み合わせによって吸収率を高めることができます。
参考)カロテノイド

一般財団法人日本食品分析センター カロテン、ルテイン、アスタキサンチン等のカロテノイドについて
カロテノイドの種類、性質、分布に関する詳細な解説が掲載されています。

 

文部科学省 日本食品標準成分表
食品成分表の改訂経緯と、β-カロテン当量の算出方法などが記載されています。

 

日本油化学会 カロテノイドの腸管吸収と代謝
カロテノイドの吸収メカニズムと体内動態に関する最新の研究知見がまとめられています。