医療者が「力価」と聞いてまず思い浮かべるのは、“同じ効果を出すのに必要な量が少ないほど力価が高い”という意味です。これは薬理学でいう力価(potency)の直感に近く、例えば同等の鎮痛効果に必要なmgが少ない薬のほうが力価が高い、という説明がよく用いられます。
一方で、医療の実務では「力価=効き目の強さ」と言い切ると混乱します。理由は、同じ「力価」という語が、①薬理学の比較概念、②規格・試験(局方)での“標準品との比較で決めた値”、③使用量集計での“有効成分量(重量)”など、文脈で別の顔を持つためです。
とくに抗菌薬・生物由来製品では、濃度(mg/mL)や含量(mg)だけを見ても「臨床的に同等の作用」が必ずしも担保されません。そこで“生物学的な作用(抗菌活性など)を標準品と比較して揃える”という発想が入り、力価が品質保証のキーワードになります。
参考)2013年10月30日 薬事・食品衛生審議会 日本薬局方部会…
現場で役立つ言い換えとしては、次の3つを使い分けると説明が安定します。
力価の話でつまずきやすいのが「単位」です。IU(国際単位)は“生体に対する効力(生物学的活性)で量を表す単位”として説明され、物質ごとに1 IUに相当する質量が違う点が特徴です。
つまりIUは「重さ」ではなく、あくまで“効き目を揃えるための単位”なので、mg換算は物質ごとに規定・標準化された換算が必要になります。
一方、mg表示は質量なので一見分かりやすいのですが、局方の世界では「mg(力価)」という表記が出てきます。これは“単なる秤量値のmg”というより、標準品との比較などで定義された「効力として扱う量」を示す意図で用いられてきました。
厚労省の日本薬局方部会議事録でも、抗生物質の領域では歴史的経緯から「薬効本体1 mg当たりの抗菌活性を1 mg(力価)と定義してきた」こと、そして塩型・エステル型など分子型が多様でも薬効本体に換算して混乱を避ける狙いが語られています。
ここが意外に重要で、抗菌薬では“化学構造が明確で高純度なら1 mg(力価)=化学的純物質1 mg(力価)”と整理できる一方、構造不明・低純度などでは生物活性に基づく「単位」で扱う、という二段構えの運用が背景にあります。
規格・試験の文脈での力価は、基本的に「標準品との比較で定める」という思想で成り立っています。日本薬局方部会の議事録でも、抗生物質の力価は標準菌や標準品の枠組みと結びつき、比較によって値が決められてきたことが説明されています。
この“比較”が重要なのは、製造ロット差・分子型の違い・分解や変性などにより、単純な含量測定だけでは機能(作用)が揃わない局面があるからです。
また、力価試験(potency assay)は「臨床効果そのもの」を直接測れない代わりに、“作用機序や期待される機能を反映する指標を定量して、品質の一貫性を担保する”という役割を持ちます。再生医療等製品やワクチンなどでは、力価が出荷判定や安定性評価の重要指標とされる流れが国際的にも強いです(※医療者向けの理解としては「機能が落ちていないことの保証」と捉えると実務に直結します)。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC10196484/
ここでの実務上の注意点は、「力価=1つの試験で完全に語れない」ことです。力価試験は理想的にはMoA(作用機序)に沿って設計され、臨床反応との相関が期待されますが、実際には複数のアッセイ形式(in vitro / in vivo / 代替指標)を組み合わせて妥当性を積み上げる必要がある、とされています。
現場で“いちばん混乱が起きやすい力価”が、抗菌薬使用量の集計で出てくる「力価」です。抗菌薬使用量集計マニュアルでは、力価を「その薬剤の有効成分の重量」と明確に定義し、製剤量(最終製剤としての重量)と区別するよう記載されています。
この定義は、例えば点滴製剤の溶媒や添加物の重さではなく、有効成分として何g使ったか(力価総量)で集計・比較するための実務ルールです。
同マニュアルは、AUD(抗菌薬使用密度)を算出する際に「抗菌薬使用量」には製剤量ではなく力価を使うことを明記しています。
さらに配合剤では、規格表示が“抗菌活性を担う成分量”と一致しないケースがあるため、アンピシリン/スルバクタムのように「アンピシリンとして何gか」で使用量を計算する、といった注意点も説明されています。
ここは意外な落とし穴で、医療現場の「投与量(バイアル本数)」と、サーベイランスの「力価総量(有効成分g)」は、似て見えて別物です。AMR対策の評価や施設間比較を行うとき、力価の定義を合わせないと“増えた/減った”の解釈が簡単に逆転します。
検索上位では「力価=効き目」「力価=単位」までで止まりがちですが、現場で本当に困るのは“同じ単語を別部署が別の意味で使う”状況です。たとえば、薬理のカンファでは「力価が高い=必要量が少ない」を指し、感染対策の集計では「力価=有効成分重量」、品質・製造の話では「力価=標準品比較で決まる規格値」となり得ます。
このズレが残ったまま会話すると、「同じmgなのに計算が合わない」「同じ製剤なのにロットで効きが違うのか」といった誤解が生まれます。
ミスを減らすための“確認フレーズ”を決めておくと、チーム内コミュニケーションが安定します。
また、抗生物質で「mg(力価)」が残り続ける理由として、議事録では“医療現場で単位表記が混在すると混乱するため、歴史的な力価表記を括弧付きで使っている”という趣旨が述べられています。
この背景を知っておくと、「なぜわざわざ“力価”と付けるのか?」という新人の疑問に、制度・運用の言葉で説明でき、教育コストが下がります。
抗生物質の「mg(力価)」の歴史的背景(抗菌活性・塩型/エステル型の換算)に触れている(力価の定義の根拠)
2013年10月30日 薬事・食品衛生審議会 日本薬局方部会…
抗菌薬使用量集計での「力価=有効成分重量」「製剤量との違い」「AUDで力価を使う」など実務定義がまとまっている
https://amr.jihs.go.jp/pdf/koukin_manual.pdf