医療従事者が「エクセラーゼの代替薬」を考えるとき、最初に確認すべきは“適応の一致”です。エクセラーゼは総合消化酵素製剤に分類され、主に「消化異常症状の改善」を狙って用いられてきた位置づけです。つまり、慢性膵炎や膵切除後のような明確な膵外分泌機能不全に対する“補充療法”というより、食後のもたれ、消化不良感、胃部不快などを含む臨床場面で使われることが多いタイプです。
一方、同じ“消化酵素製剤”でも、膵外分泌機能不全に対する補充を目的に開発・評価されている製剤は別枠になります。たとえば、海外では嚢胞線維症など高度の膵外分泌機能不全が多い背景から高力価パンクレアチン製剤(パンクレリパーゼ)が発達しており、日本でも膵外分泌機能不全の治療薬としてパンクレリパーゼ製剤(リパクレオン)が導入されています。総説でも「高度の膵外分泌機能障害(膵外分泌不全)にのみ適応がある」と整理され、適応外の患者に投与されている例が多い点を“適切に処方することが求められる”と注意喚起されています。つまり、エクセラーゼを“胃もたれ・消化不良”で使っていた患者に、単純にリパクレオンを置き換えるのは、適応・設計思想の点でズレが生じやすいのです。
参考)https://www.semanticscholar.org/paper/0ce1b2a06d13c9a065e60bc5a5e2280714379709
代替薬選定を医療安全として考えるなら、処方目的を次のように言語化するとぶれにくくなります。
✅「消化異常症状の改善」(いわゆる消化不良症状、上腹部症状)を狙う
✅「膵外分泌機能不全の補充」(脂肪便、体重減少、栄養指標悪化などが問題)を狙う
この二分は雑に見えますが、少なくとも“同じ土俵”で比較する入口になります。
なお、現場で見落とされやすい点として、「患者が感じている症状」が必ずしも膵由来の不足だけで説明できないケースがあります。総説では、機能性ディスペプシア(FD)に対して国産消化酵素製剤(酸性リパーゼ・酸性プロテアーゼ配合など)を治療として評価してきた経緯に触れており、胃部症状の文脈での“消化酵素”の位置づけは単純な補充療法に留まらないことが示唆されます。
エクセラーゼを含む国産の複合消化酵素製剤は、「胃で溶けて働く部分」と「腸で溶けて働く部分」を組み合わせている設計が重要です。総説の整理では、エクセラーゼは胃溶性顆粒としてサナクターゼM(でんぷん)、メイセラーゼ(繊維素)、プロクターゼ(たん白)、オリパーゼ2S(脂肪)などを含み、腸溶性顆粒として膵臓性消化酵素TA(濃厚パンクレアチン)を含む、と表で明示されています。
この「二層構造」は、代替薬を選ぶ際の“効き方の地図”になります。理由は、膵由来のパンクレアチンは至適pHがアルカリ域で、酸性域では活性が出にくく、胃酸で失活しやすいため腸溶性顆粒として製剤化される一方、微生物由来消化酵素の一部は酸性〜中性でも働き、胃でも消化が期待できるため胃溶性顆粒として製剤化される、という整理がなされているためです。
ここから臨床的に言えるのは、エクセラーゼの代替を「膵由来の酵素だけ」で行うと、食後早期(胃内)での消化サポートの質が変わる可能性がある、という点です。逆に、胃溶性成分をしっかり持つ国産複合消化酵素製剤(同系統の総合消化酵素製剤)を選べば、作用部位の連続性を保ちやすい、という見方ができます。
代替薬の候補を挙げるときは、製品名の印象ではなく、
という“構造”で比較すると、患者の体感(胃もたれの残り、脂質症状の改善など)を説明しやすくなります。
医療者が「どれが同等か」を判断したくなるのは自然ですが、消化酵素製剤は“力価の物差し”が統一されにくい領域です。総説では、日本薬局方(日局法)と欧州のFIP法で、測定pHや測定法が異なることが詳細に述べられています。たとえばFIP法は測定pHが規定され(アミラーゼpH 6.8、プロテアーゼpH 8.0、リパーゼpH 9.0)、一方で日局法は測定pHが固定ではなく最適pHを用いる運用である、と整理されています。
この“測定条件の差”は、代替薬選びの混乱を生みます。具体的には、FIP法のリパーゼ活性(pH 9.0)はアルカリ域の活性評価に寄るため、弱酸性〜中性域で働くリパーゼ活性(舌・胃リパーゼ相当、あるいは微生物由来リパーゼの寄与)が評価されにくい点に注意が必要、と述べられています。
つまり、同じ「脂肪消化」を語っていても、“どのpH帯での脂肪消化か”が異なると、数字の解釈がずれてしまいます。
意外に知られていない実務的ポイントとして、総説では日局単位とFIP単位の換算係数を、同一製剤を両法で測定することで求めたと述べています(たん白消化力pH8.0で1JP=0.011FIP、でんぷん糖化力pH6.8で1JP=1.9FIP、脂肪消化力pH9.0で1JP=8.6FIP)。この話は、他剤比較を“完全に”簡単にするものではありませんが、少なくとも「測定法の壁がある」という現場のモヤモヤに説明を与えてくれます。
代替薬の議論では「リパクレオン(パンクレリパーゼ)を使えば強いからOK」となりがちです。しかし総説は、膵外分泌不全以外の患者に投与しても副作用はわずかとはいえ、胃での消化活性がないため消化異常には適応がなく、軽度の膵機能障害にも適応がない点を含め、適切な処方を求めています。
したがって、エクセラーゼの代替薬を決める会議では、「力価」だけでなく「適応」「作用部位」「症状のターゲット」を並列で評価するのが安全です。
代替薬の“使い分け”を言語化するなら、消化管内のpH変化と、どの時点の消化を支えるかをセットで捉えるのが有用です。総説では、食直後の胃内pHはおよそ5程度から始まり、胃消化の終盤でpH2〜3程度に低下し、十二指腸に流入すると膵液で中和されpH7.5〜8程度まで上昇すると説明しています。さらに消化酵素製剤は、内服直後から胃で酸性プロテアーゼ・酸性リパーゼなどが働き、その後小腸で消化が進行する、という“時間軸”の見方が示されています。
この整理を現場に落とすと、次のような切替戦略が現実的です。
このとき、便中脂肪排泄量を指標に消化酵素を増量し有効だった報告に触れつつ、国産消化酵素製剤の大量投与が理論的に裏付けられた可能性が述べられています(例としてベリチーム平均8.1g/日などの記載)。もちろん個別患者に当てはめるには慎重さが必要ですが、“増量の根拠をどう語るか”の材料になります。
また、総説は「本来の消化力は、食後数時間の酸性域からアルカリ域までの消化活性値の積分であるべき」と述べ、単一pHでの消化力測定では実際の胃腸内での総合力を評価しきれない、と指摘しています。
この視点は、代替薬で効きが落ちた/逆に効きすぎた、という相談が来たときの説明に役立ちます。すなわち、「同じ“消化酵素”でも、胃と小腸のどこでどれだけ働く設計かが違う」ために、患者の体感(胃の重さ、脂質症状、便性状)が変わり得る、という臨床的に納得しやすいストーリーになります。
検索上位の解説は「代替候補の製品名」や「成分の比較」に寄りがちですが、あえて医療従事者向けに一段深く語れる独自視点として、“消化酵素製剤は日本の医薬史と強く結びついた領域”である点を押さえると、チーム内の合意形成が早くなることがあります。総説によれば、世界で最初の医療用消化酵素製剤として微生物由来のタカヂアスターゼが1899年に国内販売開始されたこと、その後1948年に麦芽ジアスターゼ、1953年にパンクレアチンの製造開始、1960年代にベリチーム・タフマックE・エクセラーゼなどが販売開始されたことが年表として整理されています。
この歴史がなぜ現場に効くかというと、消化酵素製剤は「新薬=優れている」「古い薬=劣る」と単純化しにくいからです。総説は、国産消化酵素製剤が長い歴史を持ち薬価が安価で副作用も少なく使いやすいこと、さらに費用対効果に優れている可能性があることを述べています。
供給問題で代替が必要になった際、薬剤部・医局・病棟で「なぜこの“古い系統”を選ぶのか」を説明できると、単なる在庫都合ではなく患者中心の判断として通しやすくなります。
もう一つ、意外性のある論点として、総説は「微生物由来酵素は酸性から中性、アルカリまで至適pH域が広く胃でも消化が期待できる」と述べています。
これは、PPIやP-CABなど強力な胃酸分泌抑制薬を併用している患者が多い今の臨床で、「胃内環境が変わった患者に、どの酵素設計が合うか」を再考する入口になります(ただし個別の併用可否や適応判断は添付文書・診療方針に従うべきです)。
有用な参考リンク(消化酵素製剤の特長、pH、日局法とFIP法の違い、各製剤の配合・使い分けの総説)
https://www.jstage.jst.go.jp/article/suizo/32/2/32_125/_pdf