抜歯前にBP製剤を休薬しても、MRONJの発症率は下がらないことが複数の研究で示されています。 honetoha(https://honetoha.jp/info/0576/)
骨代謝マーカーは「骨形成マーカー」と「骨吸収マーカー」の2種類に大別されます。 歯科臨床でよく目にするのはBAP(骨型アルカリホスファターゼ)・TRACP-5b・NTX(Ⅰ型コラーゲン架橋N-テロペプチド)・P1NP(Ⅰ型プロコラーゲンN末端プロペプチド)の4つです。 jsbmr.umin(https://jsbmr.umin.jp/basic/kotutaisha_ma.html)
基準値の全体像をまとめると以下の通りです。
| マーカー | 分類 | 男性 基準値 | 閉経前女性 基準値 |
|---|---|---|---|
| BAP | 骨形成 | 3.7〜20.9 μg/L | 2.9〜14.5 μg/L |
| P1NP | 骨形成 | 18.1〜74.1 μg/L | 16.8〜70.1 μg/L |
| TRACP-5b | 骨吸収 | 170〜590 mU/dL | 120〜420 mU/dL |
| NTX(尿中) | 骨吸収 | 13〜66 nmolBCE/mmolCr | 9〜54 nmolBCE/mmolCr |
zenshin-seikei(https://zenshin-seikei.com/blog/archives/3426)
基準値は「30〜44歳の健常閉経前女性のYAM(Young Adult Mean)」を基準に設定されています。 つまり、高齢女性の実測値が基準値上限を超えていても、それはある意味「正常な加齢変化」と見なせるケースもあるという点に注意が必要です。 crc-group.co(https://www.crc-group.co.jp/crc/info/info-22/10-12.html)
重要なのはここです。基準値には施設間差があるという事実で、同じ検体でも検査機関によって結果が異なることがあります。 数値だけを見て判断せず、各施設の基準値と照らし合わせる習慣が必要です。 mhlw-grants.niph.go(https://mhlw-grants.niph.go.jp/system/files/2007/073051/200722052A/200722052A0006.pdf)
骨代謝マーカーの高値は「骨代謝回転の亢進」を意味します。 これは単純に「骨が活発に作られている」のではなく、「骨の破壊と形成が同時に加速している状態」であり、将来の骨密度低下の予測因子です。 josteo(http://www.josteo.com/data/publications/guideline/2018_02.pdf)
将来のリスクを数字で示すと、BAPとuCTXが1SD(標準偏差)上昇するごとに骨折オッズ比がそれぞれ1.53・1.54上昇するというデータがあります。 これはちょうど骨折リスクが1.5倍以上になるイメージです。つまり「現在まだ骨折していない患者」でも、骨代謝マーカーの値次第で将来リスクを客観的に示せます。 josteo(http://www.josteo.com/data/publications/guideline/2018_02.pdf)
骨吸収マーカーと骨形成マーカーを組み合わせると、骨代謝のパターンが見えてきます。 maniwa-seikei(https://maniwa-seikei.com/wp-content/uploads/2021/03/900817064cae98ce4593a9ba0a95917b.pdf)
- 🔼 両マーカー高値:高回転型骨粗鬆症(閉経後に多い)
- 🔽 両マーカー低値または基準値内低め:低代謝回転型骨粗鬆症(高齢者に多い)
- ⚡ 吸収マーカー高値・形成マーカー正常:骨吸収が優位な状態
低代謝回転型は見逃されやすいタイプです。 症状が出にくく、骨密度も「一見低くない」と判断されがちですが、骨質が劣化しているため骨折リスクは高い、という特徴があります。これが盲点になりやすいところです。 maniwa-seikei(https://maniwa-seikei.com/wp-content/uploads/2021/03/900817064cae98ce4593a9ba0a95917b.pdf)
骨吸収抑制薬(BP製剤やデノスマブ)を服用している患者に抜歯やインプラントなどの侵襲的処置を行う際、顎骨壊死(MRONJ)のリスクが問題になります。 日本では約1,300万人が骨粗鬆症に罹患しており、歯科には骨吸収抑制薬服用中の患者が多数来院している現状があります。 d-furuse(https://www.d-furuse.com/14828332771711)
結論から言うと、BP製剤の予防的休薬には科学的根拠が乏しいです。 国内外の複数の研究で「休薬してもMRONJ発症率の減少を証明できない」という結果が出ており、2023年改訂のポジションペーパーでは「原則として予防的休薬は行わない」と提案されています。 honetoha(https://honetoha.jp/info/0576/)
具体的な対応の流れをまとめると以下の通りです。
1. 🩺 投薬内容・服用年数の確認(4年以上は特にリスク増)
2. 📋 骨代謝マーカー(TRACP-5b・BAP等)の数値の確認
3. 🦷 口腔内感染源の除去・口腔衛生指導の徹底
4. 💬 主治医との連携・リスク説明と同意の取得
heisei-ph(https://www.heisei-ph.com/pdf/DI/a-122.pdf)
口腔内の感染症を放置することが顎骨壊死を誘発するケースも多く、むしろ「感染源の放置」こそが最大のリスク因子です。 歯科従事者として、休薬の是非より口腔管理の徹底を優先することが今の標準対応です。 d-furuse(https://www.d-furuse.com/14828332771711)
骨粗鬆症の治療効果を骨密度で確認するには半年以上かかります。 一方、骨代謝マーカーは薬物治療開始から3〜6ヶ月で有意な変化を確認できるため、早期の治療効果判定に適しています。 ike-seikei(https://ike-seikei.jp/osteoporosis-test-blog/)
測定のタイミングは、骨吸収マーカー(TRACP-5b・NTXなど)は治療開始時と開始後3〜6ヶ月に測定します。 骨形成マーカー(BAP・P1NP)は変化がやや遅れるため、6ヶ月〜1年後の測定が推奨されます。 diagnostics.yamasa(https://diagnostics.yamasa.com/wp-content/uploads/2018/01/YAMASA_BAP_keimou_A4_2P_20171220.pdf)
効果判定で使われるのが「最少有意変化(MSC: Minimum Significant Change)」です。 これは「統計的に意味のある変化の最小量」で、この値を超えた変化があって初めて「治療が効いている」と判断できます。 city.hiroshima.med.or(https://www.city.hiroshima.med.or.jp/hma/center-tayori/201302/center201302-02.pdf)
各マーカーのMSC(参考値)は以下の通りです。 ike-seikei(https://ike-seikei.jp/osteoporosis-test-blog/)
| マーカー | MSC(変化率) |
|---|---|
| TRACP-5b | 約20〜30% |
| BAP | 約20〜25% |
| NTX | 約30〜40% |
マーカーが「基準値内に収まった」だけでは不十分ということです。MSCを超えた変化率があるかを確認する、これが治療効果判定の正しい読み方です。
また、測定にあたっては日内変動と日差変動への注意が必要です。 特に尿中マーカー(NTX・DPDなど)は採尿時間によって値が大きく変わるため、早朝第2尿での採取が推奨されます。同一条件での測定を継続することで、初めて経時的な比較が可能になります。 mhlw-grants.niph.go(https://mhlw-grants.niph.go.jp/system/files/2007/073051/200722052A/200722052A0006.pdf)
骨代謝マーカーの値は、実は様々な生理的要因で大きく動きます。見落とされがちな変動要因を知っておくことが、誤読を防ぐ上で重要です。
主な変動要因は以下の通りです。
- 🌙 日内変動:特に尿中マーカーは朝・昼・夜で最大2倍近く変動する
- 📅 日差変動:食事・運動・季節によっても変化する
- 🦴 骨折後の急上昇:骨折後しばらくは骨代謝マーカーが跳ね上がるため、骨粗鬆症の通常評価として使用できない
- 🤰 妊娠・授乳:骨吸収が著しく亢進するため値が高くなる
- 🏥 腎機能低下:クレアチニン補正が必要な尿中マーカーは、腎機能低下例では解釈に注意が必要
city.hiroshima.med.or(https://www.city.hiroshima.med.or.jp/hma/center-tayori/201302/center201302-02.pdf)
東京歯科大学での調査によると、歯科受診患者全体の47%で骨代謝マーカーの基準値逸脱が認められたという報告があります。 これは想像以上に高い割合です。無症状の患者の2人に1人近くが、何らかの骨代謝異常を持って歯科を受診している計算になります。 ir.tdc.ac(https://ir.tdc.ac.jp/irucaa/bitstream/10130/1665/1/109_369.pdf)
さらに、歯周炎患者群では骨形成マーカー(BAP)の変動が特に大きく、1/3以上の症例で基準値逸脱が認められています。 歯周病と全身の骨代謝は無関係ではなく、歯科特有の視点として「歯周炎の重症度が骨代謝マーカーに影響している可能性」を念頭に置く必要があります。 kaken.nii.ac(https://kaken.nii.ac.jp/ja/file/KAKENHI-PROJECT-21791953/21791953seika.pdf)
骨代謝マーカーだけで確定診断することはできません。 あくまで骨密度検査・既往歴・服薬歴と組み合わせた総合的な評価が原則です。数値の異常値を発見したら、整形外科や内科との連携を早めに検討することが患者への最善となります。 kameda(https://www.kameda.com/pr/osteoporosis/post_65.html)
参考資料として、日本骨粗鬆症学会が発行する以下のガイドラインは、骨代謝マーカーの適正使用に関する信頼度の高い一次資料です。
骨代謝マーカーの適正使用ガイド(日本骨粗鬆症学会)— 各マーカーの測定意義・MSC・治療効果判定フローが詳しく解説されています。
骨粗鬆症診療における骨代謝マーカーの適正使用ガイド(日本骨粗鬆症学会)
MRONJリスク管理のための最新ポジションペーパー(2023年改訂・日本歯科学会関連)— 休薬の是非・リスクファクター・歯科処置前管理のフローが網羅されています。
顎骨壊死ポジションペーパー2023改訂版FAQ(骨と歯の情報サービス)