リスクファクターとは、特定の病気や健康問題を引き起こす確率を高める要因であり、危険因子とも呼ばれています 。WHO(世界保健機関)の調査によると、2004年時点で全世界の死因の12.8%は高血圧、8.7%は喫煙が原因となっており、これらの主要なリスクファクターは心疾患、糖尿病、癌などの長期疾患と密接に関係しています 。リスクファクターは単独で作用するものではなく、複数の要因が相互に作用することで、疾病の発症リスクが増大することが知られています 。
参考)https://toolbox.eupati.eu/resources/%E5%81%A5%E5%BA%B7%E3%81%A8%E7%96%BE%E6%82%A3%E4%B8%8A%E3%81%AE%E5%8D%B1%E9%99%BA%E5%9B%A0%E5%AD%90/?lang=ja
リスクファクターは主に以下の5つのカテゴリーに分類されます 。行動危険因子には喫煙、過度の飲酒、栄養不良、運動不足などの個人の選択に関連するものが含まれます。生理学的危険因子は高血圧、肥満、高血糖、高コレステロールなどの身体の状態を示すものです。人口統計学的危険因子には年齢、性別、職業などがあり、環境危険因子には大気汚染、職場の危険、社会環境などが含まれます 。遺伝的危険因子は個体の遺伝子構成に基づくもので、嚢胞性線維症や筋ジストロフィーなどの完全な遺伝性疾患から、喘息や糖尿病のような遺伝と環境の相互作用による疾患まで含まれます 。
喫煙は最も重要なリスクファクターの一つとして位置づけられており、がん症例の20%、がんによる死亡の30%に寄与していることが明らかになっています 。アメリカ疾病予防管理センターの調査では、喫煙や大量飲酒の習慣がある人は、そうでない人と比べてがんの相対リスクが1.6倍高くなると推計されています 。喫煙のリスクは男性で特に高く、潜在的に予防可能ながんの56%に寄与し、女性では40%に関与しています 。
参考)https://tokuteikenshin-hokensidou.jp/news/2024/013236.php
喫煙による健康被害は呼吸器系だけでなく、循環器系や消化器系にも広範囲に及びます。たとえば、心血管疾患のリスクファクターとしても喫煙は重要な位置を占めており、高血圧、脂質異常症、糖尿病と並んで主要な危険因子とされています 。受動喫煙も含めて、喫煙関連の死亡者数は依然として多く、包括的なタバコ規制政策の実施と早期発見のためのがん検診の充実が求められています 。
参考)https://genryou.toyoshinyaku.co.jp/know-how/detail11/
高血圧は脳卒中や冠動脈疾患に共通する最も重要なリスクファクターの一つです 。日本人においても、脳卒中・心血管疾患への寄与が最も大きい危険因子として高血圧が挙げられており、次いで喫煙(特に男性)が続きます 。高血圧は基本的には無症候性ですが、長年の高血圧状態が動脈硬化を引き起こし、心臓、脳、腎臓、眼に重大な影響を与えます 。
参考)https://www.mhlw.go.jp/content/10905000/001505116.pdf
興味深いことに、正常血圧群を基準とした研究では、少し高い血圧(正常高値血圧:収縮期血圧120-129 mmHgかつ拡張期血圧80 mmHg未満)の段階からでも脳・心血管疾患発症リスクが約2倍に上昇することが明らかになっています 。集団寄与危険割合では、高値血圧群が最も高く17.8%を占め、Ⅰ度高血圧群の14.1%、正常高値血圧群の8.2%が続き、これら3つの群で全体の87%を占めています 。これは、軽度の血圧上昇でも人口レベルでは大きな影響を与えることを示しています。
参考)https://www.yokohama-cu.ac.jp/res-portal/news/2024/20240411kuwahara.html
肥満は現代社会における重要なリスクファクターとして注目されており、がんのリスクを1.22倍、運動不足は1.15~1.19倍高めることが報告されています 。特に2型糖尿病において肥満は重要な危険因子であり、摂取エネルギーが消費エネルギーを上回って体脂肪が必要以上に増えた状態では、インスリンの効きが悪くなって血糖値が上昇してしまいます 。
参考)https://www.tsubasazaitaku.com/column/column131.html
運動不足もまた糖尿病のリスクを高める要因となりますが、興味深いことに、食後のわずか2~5分の軽いウォーキングでも糖尿病リスクの減少に効果があることが研究で示されています 。運動を行うことで脂肪酸やブドウ糖が利用され、糖分が筋肉や細胞に吸収されるようになるため、血糖値の低下につながります 。フィンランドの研究では、健康的な食事と運動の組み合わせにより、遺伝的に糖尿病リスクが高い人でも70%の発症減少効果が得られることが確認されています 。
参考)https://dm-net.co.jp/calendar/2022/037093.php
社会的要因は精神疾患の重要なリスクファクターとして認識されており、家族、学校、職場などの集団生活において人々が受ける影響が疾病発症に関与します 。家族からの虐待や学校でのいじめは、うつ病や不安症のリスクを高めることが知られています 。特に、遺伝的にストレス耐性が低い人にとって、孤立感や社会的つながりの欠如は症状を悪化させる可能性があります 。
参考)https://www.hiro-clinic.or.jp/gene/%E9%81%BA%E4%BC%9D%E5%AD%90%E3%81%A8%E7%B2%BE%E7%A5%9E%E7%96%BE%E6%82%A3%EF%BC%9A%E3%83%AA%E3%82%B9%E3%82%AF%E3%81%A8%E6%97%A9%E6%9C%9F%E7%99%BA%E8%A6%8B%E3%81%AE%E9%87%8D%E8%A6%81%E6%80%A7/
ストレス脆弱性モデルによると、個人の脆弱性とストレスの相互作用が精神疾患のリスクを増大させる重要な要因となります 。都市部と地方では精神疾患の発症率に差があり、都市部では騒音や過密な環境、社会的不平等や競争の激化、自然環境へのアクセスの欠如などがストレス要因として作用します 。職業性ストレスと運動の相互作用に関する研究では、精神症状および心疾患リスクファクターへの影響が解析されており、ストレス管理の重要性が示されています 。
参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/tairyokukenkyu/83/0/83_45/_article/-char/ja/
加齢は避けることのできないリスクファクターの一つであり、糖尿病をはじめとする多くの疾患のリスクを高めます 。加齢とともに心臓機能や運動機能が低下するだけでなく、膵臓の機能も低下してインスリンが減少し、血糖値が高い状態になりやすくなります 。加齢によって肥満になりやすくなり、運動も不足がちになるため、これらのリスクファクターは密接に関係し合っています 。
老化は多因子的なプロセスであり、酸化ストレス、炎症、DNAの損傷、細胞の代謝異常などが複合的に作用して細胞機能の低下と老化の進行を加速させます 。フリーラジカルによる細胞DNAやタンパク質の損傷、慢性的な炎症による組織へのダメージ、細胞分裂の停止による新しい健康な細胞の生成阻害などが老化のメカニズムとして挙げられます 。遺伝的要因も老化に関与しており、動脈硬化や骨粗鬆症、糖尿病などの老年病の発症しやすさとの関連についても研究が進められています 。寿命には食生活やストレス、運動習慣、衛生環境といった環境因子も大きく関係することから、加齢によるリスク増加を環境要因の改善で部分的に補うことが可能と考えられています 。
参考)https://biostyle.clinic/2024/07/24/%E8%80%81%E5%8C%96%E3%81%AE%E5%8E%9F%E5%9B%A0%EF%BC%81%EF%BC%9F%E3%82%BE%E3%83%B3%E3%83%93%E7%B4%B0%E8%83%9E%E3%82%92%E9%99%A4%E5%8E%BB%E3%81%99%E3%82%8B%E9%9D%A9%E6%96%B0%E7%9A%84%E3%81%AA%E3%82%A2/