嫌気ポーターは、嫌気性菌の採取と輸送に特化した専用容器です。自立式試験管の底部には酸素インジケーター付き寒天が充填されており、容器内部は炭酸ガスで満たされています。この炭酸ガスが嫌気状態を維持する重要な役割を担っているため、検体投入時にはガスの漏出を最小限に抑える必要があります。
容器の構造的特徴として、ゴム栓による密閉システムが採用されており、注射針による検体注入が可能です。インジケーター寒天は酸素に触れると着色する性質があり、容器の状態確認に使用されます。底部が赤く変色した嫌気ポーターは嫌気状態が破綻しているため使用できません。
嫌気性菌は酸素に対して極めて脆弱であり、通常の大気中では数分から数十分で死滅してしまいます。そのため、採取から培養開始まで一貫して嫌気状態を維持することが検出率向上の鍵となります。特に医療現場では、感染症の原因菌同定における偽陰性結果を防ぐため、適切な採取技術の習得が不可欠です。
液状検体(胸水、腹水、関節液など)の採取では、注射器を使用した直接注入法が標準的な手技です。まず消毒用アルコール綿でゴム栓表面を十分に消毒し、完全に乾燥させることが重要です。乾燥が不十分な場合、アルコールが検体に混入し菌の死滅を招く可能性があります。
採取手順は以下の通りです。
注入時の圧力調整も重要なポイントです。急激な注入は容器内圧を上昇させ、炭酸ガスの漏出を招きます。また、採取量は容器の容量に対して適切な量に調整し、過充填を避ける必要があります。
夜間や休日など即座に検査室への提出が困難な場合は、血液培養ボトルへの採取も選択肢として考慮されます。ただし、これは緊急時の代替手段であり、通常は嫌気ポーターの使用が推奨されます。
膿汁や組織片などの固形検体採取では、空気接触時間を5秒以内に制限することが最も重要な要素です。固形検体の性状により採取方法が異なりますが、共通原則として迅速性と無菌操作の両立が求められます。
膿性検体の採取手順。
組織検体では、採取量が少ない場合の乾燥防止対策が重要です。ただし、滅菌生理食塩水の添加は必要最小限に留め、過度の希釈を避ける必要があります。組織片は寒天表面ではなく、寒天内部に埋没させることで嫌気状態の維持効果が向上します。
ガーゼや滅菌綿棒で採取した検体も同様に、寒天中央部への埋没が推奨されます。検体が寒天表面に留まると、蓋開閉時の空気接触により嫌気性菌の死滅リスクが高まります。
嫌気ポーターの品質管理では、使用前の容器状態確認が必須です。インジケーター寒天の色調変化により嫌気状態の維持状況を判定できます。正常な嫌気ポーターでは底部寒天は無色透明または淡黄色を呈し、酸素侵入により赤色やピンク色に変色します。
保存条件として、検体採取後は4-8℃の冷蔵保存が標準的です。保存期間は24時間以内が推奨されますが、可能な限り速やかな検査室提出が理想的です。長時間保存では嫌気性菌の生存率低下や雑菌繁殖のリスクが増大します。
輸送時の注意点。
検体採取後の容器取り扱いでは、ゴム栓部分への過度な圧迫や変形を避け、密閉性を維持することが重要です。また、容器外表面の汚染除去と適切な表示記載により、検査室での処理効率向上に貢献します。
嫌気性菌感染症の臨床的特徴を理解し、適切な検査適応を判断することが重要です。嫌気性菌感染が疑われる臨床状況には特徴的なパターンがあります。
主要な適応基準。
ただし、悪臭を発生しない嫌気性菌も存在するため、臨床症状のみに依存した判断は避けるべきです。特に免疫不全患者や糖尿病患者では、典型的な症状を呈さない場合があります。
感染部位別の適応判断では、消化管穿孔に伴う腹膜炎、歯性感染症、褥瘡感染などで嫌気性菌の関与頻度が高いことが知られています。また、抗菌薬治療に反応不良な症例では、嫌気性菌の関与を積極的に疑い検査を実施することが推奨されます。
常在菌として嫌気性菌が存在する部位(口腔、腸管など)からの検体では、病原性の判定に注意が必要です。これらの部位では、検体採取方法の工夫や臨床症状との総合的判断が重要となります。
動物用抗菌薬検査センターの嫌気検査解説