ジクトルテープは「痛い場所に貼る湿布」と同じ感覚で扱われやすい一方で、用法・用量として貼付部位が明確に定められています。通常、成人では1日1回、2枚を胸部・腹部・上腕部・背部・腰部・大腿部に貼付し、約24時間ごとに貼り替える運用が提示されています。したがって、まず大前提として「定められた部位以外」は“貼ってはいけない場所”の中心になります。
医療従事者として患者指導で強調したいのは、患部(例えば手首・足首・膝・肩など)に貼る目的の貼付剤ではない点です。貼付部位が限定されている背景には、薬物動態の再現性や皮膚刺激リスク、剥がれにくさなど複数要素が絡みます。特に関節周囲(肘・膝・足関節など)は屈伸や摩擦が多く、貼付剤がシワになりやすい→剥離や皮膚トラブルにつながりやすい、という「現場あるある」もあります。
では「貼ってはいけない場所」を、現場で使える形に整理します。
ここで医療者側が迷うのが、「肩」や「痛い腰の一点」など、患者が貼りたがる部位です。肩は上腕部と混同されやすく、患者は“肩の上”に貼りがちです。上腕部に貼っても鎮痛の全身効果が期待される設計である以上、患者の希望を尊重しつつも、まずは規定部位へ誘導するのが安全運用です。
参考:用法・用量(貼付部位)の根拠(申請資料内の記載)
PMDA掲載資料:用法・用量(胸部、腹部、上腕部、背部、腰部又は大腿部等)に関する記載
貼付剤トラブルで最も多いのは、薬効そのものより「皮膚」です。ジクトルテープも例外ではなく、貼付部位の紅斑、掻痒、刺激感、接触皮膚炎などの局所反応が起こり得ます。したがって、皮膚バリアが落ちている場所は“貼ってはいけない場所”として、患者説明で明確に線引きする必要があります。
具体的には、次のような皮膚状態がある部位は避けます。
なぜ「皮膚障害部位」を避けるのか。理由は大きく3つです。
意外と見落とされるのが、医療用粘着剤関連皮膚損傷(MARSI)的な視点です。高齢者、ステロイド外用中、低栄養、浮腫、抗がん剤治療中などは角層が脆弱で、剥離時に表皮剥離が起きやすくなります。貼付剤の“薬”の刺激だけではなく、「剥がす」という行為自体がトラブル要因になるので、皮膚が弱い患者ほど貼付部位の選定と剥離手技が重要です。
患者が「かぶれても我慢して貼る」と言う場合がありますが、かぶれを放置すると貼付継続が困難になり、結果として疼痛コントロールが崩れます。かぶれが出たら、貼付中止・部位変更・受診目安を具体的に伝え、自己判断の我慢を止めるのが安全です。
貼付剤指導で差が出るのが「光」の説明です。貼付剤は、薬剤そのものや添加物の影響で光線過敏症が問題になることがあります。ジクトルテープの運用でも、貼付部位が日光に当たる生活(屋外活動、通勤、リハビリ移動、洗濯物干し等)だと、リスク説明が不足しがちです。
ここで“貼ってはいけない場所”の発想を一段進めると、単に身体部位の話ではなく「日光暴露を避けられない場所」を避ける、という臨床的判断が入ります。例えば、夏場に半袖で過ごす人の上腕部は露光しやすいことがありますし、農作業や外回りの仕事では胸部でも汗・摩擦・紫外線の複合負荷が起こり得ます。貼付部位を衣類で覆いやすい部位へ誘導し、同時に「貼付部を日光に当てない」という行動指導をセットにするのが現実的です。
さらに、貼付剤の光線過敏で重要なのは「剥がした後もしばらく注意が必要」という点です。貼付中だけ対策しても、剥離後の露光で皮膚炎が出ることがあります。患者が「もう剥がしたから大丈夫」と思い込みやすいので、剥離後も一定期間は露光回避を勧める説明が有用です。
参考:貼付剤と光線過敏の注意点(剥がした後もしばらく紫外線暴露に注意)
国立病院機構 東名古屋病院:薬と光線過敏症(貼付後・剥離後の紫外線注意)
医療従事者向けに、あえて強調したいのが「ジクトルテープは局所作用型の貼付剤というより、全身性のNSAIDs製剤としての管理が必要」という点です。貼付剤であっても、薬効は全身に及び得る設計であり、単なる“湿布の延長”のように「痛いところに貼る」「効かないから追加で貼る」という行動が起きると、用法・用量逸脱のリスクが上がります。貼付部位の適正化は、実は用量管理の第一歩です。
用法・用量の観点から「貼ってはいけない場所」を言い換えると、次のようになります。
現場の患者指導で使える具体フレーズ例を挙げます。
患者が「肩が痛いから肩に貼る」と言ったときの落としどころも準備しておくと、説明が一気に楽になります。例えば「肩の痛みでも、貼る場所は上腕部でOKです。肩関節そのものに貼らなくても薬は働きます」と伝え、患者の納得感と安全運用の両立を狙います。
検索上位の多くは「部位の列挙」や「禁忌」中心になりがちですが、現場で差が出るのは“患者の生活導線”まで踏まえた貼付部位提案です。ここを丁寧にやると、皮膚トラブルと用法逸脱が目に見えて減ります。独自視点として、医療従事者が使いやすい「貼付部位アセスメント」を提案します。
貼付部位を決める前に、次の3点を短時間で確認します。
このアセスメントで「貼ってはいけない場所」が具体化します。たとえば、独居で背部に手が届かない患者に背部貼付を勧めると、貼付不良→剥がれ→貼り直し→皮膚障害、という連鎖が起こりやすいです。逆に、上腕部は貼りやすく観察もしやすいため、皮膚トラブルの早期発見にもつながります。
また、貼付剤の患者指導で意外と効果が高いのが「貼付日誌」の簡易版です。紙でもスマホメモでもよく、今日貼った場所を一言残すだけで、同一部位連用が減り、皮膚炎が起こりにくくなります。がん疼痛領域では疼痛日誌は一般的ですが、貼付部位のローテーションまで記録する運用はまだ浸透していません。導入の価値があります。
最後に、医療従事者としての安全側の一言を用意しておくと安心です。
この3点を押さえるだけで、“貼ってはいけない場所”の問題は単なる部位の暗記から、患者安全の実践へと変わります。