薬物動態における吸収過程は、投与された薬物が循環血液中に到達する最初の重要なステップです 。経口投与された薬物は、胃や小腸の消化管壁を通過して門脈循環に入りますが、この際に初回通過効果と呼ばれる現象が発生します 。
参考)https://www.msdmanuals.com/ja-jp/professional/23-%E8%87%A8%E5%BA%8A%E8%96%AC%E7%90%86%E5%AD%A6/%E8%96%AC%E7%89%A9%E5%8B%95%E6%85%8B/%E8%96%AC%E7%89%A9%E5%8B%95%E6%85%8B%E3%81%AE%E6%A6%82%E8%A6%81
初回通過効果とは、薬物が全身循環に入る前に肝臓や消化管壁で代謝分解される現象で、生物学的利用能(バイオアベイラビリティ)の低下を引き起こす主要因です 。例えば、ニトログリセリンは経口投与時に初回通過代謝により大部分が分解されるため、生体利用率が極めて低く、舌下投与や経皮投与が選択されます 。
参考)https://note.com/pharma_insight/n/nb36e7cb52454
薬物の吸収には以下の要因が影響します。
吸収された薬物は血流によって全身の組織に分布します 。分布容積(Vd)は薬物がどの程度体内に分布するかを表す重要なパラメータで、薬物の性質と組織親和性によって決まります 。
参考)https://knowledge.nurse-senka.jp/206571/
蛋白結合率は薬物分布に大きな影響を与えます 。フィンゴリモドでは蛋白結合率が99.7%以上と高く、結合していない遊離型薬物のみが薬理作用を発揮します 。また、血球移行率も重要で、フィンゴリモドの血球移行率は約86%と高い値を示します 。
参考)https://imu-navi.net/medical/info/rinsyouyakuri/yakubutsudoutai.html
分布に影響する主要な生理学的障壁として以下があります。
薬物代謝は主に肝臓で行われ、シトクロムP450(CYP)酵素系が中心的役割を果たします 。ヒトのCYP酵素は、約80%の酸化的代謝と全体の約50%の薬物消失を担っています 。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC8657965/
CYP酵素の代謝様式には一次消失とゼロ次消失があります 。一次消失では代謝速度が薬物濃度に比例し、特定の半減期を持ちます。一方、酵素が飽和状態になると、単位時間あたりに一定量が代謝されるゼロ次速度過程に移行します 。
参考)https://www.msdmanuals.com/ja-jp/professional/23-%E8%87%A8%E5%BA%8A%E8%96%AC%E7%90%86%E5%AD%A6/%E8%96%AC%E7%89%A9%E5%8B%95%E6%85%8B/%E8%96%AC%E7%89%A9%E4%BB%A3%E8%AC%9D
CYP酵素の誘導と阻害は重要な薬物相互作用の原因となります :
参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/faruawpsj/50/7/50_654/_pdf
薬物代謝における個人差の要因として、遺伝的多型、年齢、性別、併用薬、疾患状態などがあげられます 。
薬物の排泄は主に腎臓と胆汁を介して行われます 。腎排泄では、糸球体濾過、尿細管分泌、尿細管再吸収の3つのプロセスが関与します 。
参考)https://reprocell.co.jp/archive/adme/
腎機能低下患者では、薬物の血中半減期が延長し、蓄積による副作用のリスクが高まります 。クリアランス(CL)は薬物排泄能力を表す指標で、腎クリアランスと肝クリアランスに分けられます 。
フィンゴリモドの排泄パターンを例にとると、投与量の約81%が不活性代謝物として尿中に排泄され、未変化体や活性代謝物は尿中に排泄されません 。糞中には約11%が排泄され、34日間の回収率は89%となっています 。
排泄に影響する因子。
薬物動態学的パラメータは、最適な用法・用量の設定に不可欠です 。半減期(t1/2)は薬物濃度が半分になるまでの時間を表し、投与間隔の決定に重要な指標となります 。定常状態到達には通常5半減期程度が必要とされています。
治療薬物モニタリング(TDM)は、血中薬物濃度を測定して個々の患者に最適な投与設計を行う手法です 。特に治療域の狭い薬物(抗がん薬、免疫抑制薬、抗てんかん薬など)において重要な役割を果たします 。
参考)https://m-hub.jp/analysis/2595/164-1
PK/PD理論では、薬物動態(Pharmacokinetics)と薬力学(Pharmacodynamics)を組み合わせて最適な治療効果を目指します 。抗菌薬では、時間依存性(βラクタム系)と濃度依存性(フルオロキノロン系)の特性に応じた投与設計が行われます 。
参考)https://www.chemotherapy.or.jp/uploads/files/guideline/pkpd.pdf
現代医療における薬物動態学の応用として、以下の分野で発展が見られます。
薬物動態学の深い理解は、安全で効果的な薬物療法の実現において不可欠な知識基盤となっています 。