「要支援者には専門職によるサービスをしっかり提供するほど状態が改善する」は、実はガイドラインが否定している思い込みです。
総合事業は2015年(平成27年)度に始まった比較的新しい制度です。もともとは一次予防事業・二次予防事業・予防給付(訪問・通所)の3本立てだったものが、「一般介護予防事業」と「介護予防・日常生活支援サービス事業」の2本に再編されました。
改正の根本的な発端は「廃用症候群」の問題でした。要支援者に対してヘルパーが買い物・掃除をすべて代行するスタイルが、かえって高齢者の自立を妨げてしまうことが明らかになったのです。これは痛いですね。
2024年度の改正はこの反省をさらに推し進めたものです。厚生労働省は「リエイブルメント(再び自分でできるようにする)」をキーワードとして掲げ、高齢者一人ひとりの状態に合った選択肢を広げる方向に舵を切りました。第9期介護保険事業計画期間(2024〜2026年度)を「集中的取組期間」と位置づけ、2024年4月1日から新ガイドラインが適用されています。
医療従事者にとって重要なのは、この改正が現場のアセスメントや多職種連携の在り方にも直接影響する点です。介護予防ケアマネジメントの業務範囲が大きく再定義されており、関連する専門職すべてが内容を把握しておく必要があります。
厚生労働省「介護予防・日常生活支援総合事業」公式ページ(制度概要・関係通知・ガイドライン一式)
今改正の最大の変更点は、「従前相当サービスを使える人の絞り込み」です。つまり対象者の限定が原則です。
改正前は要支援者であれば誰でも従前相当サービス(旧来の予防給付に相当)を利用できましたが、改正後は進行性疾患や病態が安定しない者など、状態が悪化していく方に限定されました。それ以外の要支援者・事業対象者は、地域の多様なサービス・活動(サービス・活動A〜D)を選択することが基本となります。
多様なサービス・活動は以下の4種に整理されています。
| 種別 | 実施主体 | 内容例 | 対象者 |
|---|---|---|---|
| サービス・活動A | 多様な主体(清掃業者・NPO等) | 掃除特化サービス、移動販売、農作業支援 | 要支援者等+継続利用要介護者(令和6年4月〜) |
| サービス・活動B(D) | 住民主体(ボランティア等) | 買い物付き添い、見守り、移動支援 | 要支援者等+継続利用要介護者 |
| サービス・活動C | 保健医療専門職 | 3〜6か月の短期集中予防(リハ職等) | 要支援者等・事業対象者 |
| その他生活支援 | 各種主体 | 配食、見守り等 | 要支援者等 |
医療・リハビリ職が特に関わるのはサービス・活動Cです。理学療法士・作業療法士・言語聴覚士がアセスメントと短期集中支援を担い、終了後は住民主体活動や生涯学習等につなげる流れが想定されています。これは使えそうです。
注目すべきは2024年4月から継続利用要介護者がサービス・活動Aを利用可能になった点です。令和3年時点ではB・Dのみでしたが、今回の改正でAも追加され、選択肢がさらに広がっています。令和4年6月時点での継続利用要介護者は全国で295人、対応市町村は59市町村にとどまっていたため、今後の拡大が期待されています。
介護保険最新情報Vol.1242(令和6年3月29日):2024年度ガイドライン改正の告示・通知原文
現場で長年問題とされてきたのが「按分ルール」でした。どういうことでしょうか?
住民主体のサービス(サービス・活動B・D)では、参加者の半数以上が要支援者等でないと地域支援事業交付金を全額使えない、という縛りがあったのです。NPOが「高齢者も子どもも障がい者も一緒に支え合う」場を作ると、要支援者が50%未満になりがちで、按分計算の手間と財源不足に悩まされていました。厳しいところですね。
2024年度の改正でこのルールが実質的に撤廃されました。市町村が「事業目的を達成するための附随的活動」と判断すれば、対象者数の割合によらず定額補助が可能になっています。サービス・活動Aの委託費についても同様の考え方が適用されます。
実務上の注意点は次のとおりです。
- 市町村が「附随的活動」と判断する裁量がある点を確認する(自治体ごとに運用が異なる)
- 要支援者等の利用者数は引き続き把握が必要(ただし、時期は年度内の適切な時期でよい)
- 活動費として補助できるのは「間接経費」(ボランティア奨励金・会場費・光熱費・コーディネーター人件費等)が基本。支援者本人の直接人件費は原則対象外
この変更により、地域包括支援センターや生活支援コーディネーターが民間企業・NPOへの参画を呼びかけやすくなりました。医療従事者が地域活動に関わる際も、財源面のハードルが下がっていることを覚えておくと役立ちます。
SCカフェ配布資料:服部真治氏による総合事業ガイドライン一部改正の解説(スライド全編)
介護予防ケアマネジメントの類型(A・B・C)の位置づけも大きく変わりました。結論はケアプラン作成の「必須範囲の縮小」です。
改正後の整理はこうです。
- ケアマネジメントA:制度上ケアプラン作成が必須。従前相当サービス・活動Aでケアプランと費用が連動する場合、または利用期間を定める場合。
- ケアマネジメントB:ケアプランの要否や内容は市町村の判断で柔軟に対応。サービス・活動A・Cが主な対象。
- ケアマネジメントC:ケアプラン原則不要。サービス・活動B・Dが主な対象。専門職がゆるやかに関与。
今改正で新たに評価できる加算が例示されました。医療・リハビリ職に直接関係するのは以下の2つです。
リハ職連携加算は、地域包括支援センターが事前に都道府県・郡市区医師会等と体制を整備した上で運用することが前提です。現場では事前の連携体制構築が鍵になります。加算の設定は市町村が独自に定める形なので、担当地域の市町村の動向確認が必要です。
大阪ええまちプロジェクト:介護予防の基本理念と2024年度ガイドライン改正点の解説(フレイルサイクル・リエイブルメントの考え方も収録)
2024年度改正では、生活支援体制整備事業に1市町村あたり400万円の「住民参画・官民連携推進事業」が新設されました。これは大きな変化です。
従来の生活支援体制整備事業の標準額は「第1層800万円+第2層400万円×圏域数+就労的活動支援コーディネーター800万円」でしたが、ここに新たに400万円が上乗せされた形です。この予算は、
といった目的に使えます。生活支援コーディネーターが民間企業・地域住民と連携して地域課題を「見える化」し、新しいサービスを生み出すための財源です。
医療従事者にとっての実践的なポイントをまとめると、
1. 従前相当サービスの対象確認:担当する要支援者が「病態が安定しない」等の要件に該当するかをアセスメントで明確化する
2. サービス・活動Cとの連携強化:PT・OT・STを活用した短期集中プランの立案と、終了後の住民主体活動への橋渡し
3. リハ職連携加算の活用検討:地域包括支援センターへ積極的に連絡し、体制整備の早期着手を呼びかける
4. 地域の協議体への参画:新設の400万円予算を活用したモデル事業に医療・リハビリ職として加わる機会を探る
フレイル予防の観点からは、介護予防事業への参加よりも「就労・ボランティア・スポーツ活動」といった多様な社会参加の方が要介護認定リスクを下げる効果が大きいというデータがあります。週1回程度の介護予防プログラムだけでなく、毎日の活動水準を維持できる環境をつくることが目標です。それが原則です。
三菱UFJリサーチ&コンサルティング「介護予防・日常生活支援総合事業」ページ(ガイドブック・ワークシート等の実践資料を公開)