環境要因は遺伝的要因と密接に関連し合いながら、私たちの健康に影響を与えています 。病気の発症は、遺伝要因(遺伝子の持つ情報)と環境要因(食生活、飲酒、喫煙、運動、ストレスなど)が複雑に絡み合って起こることが医学的研究により明らかになっています 。
参考)https://help.tellmegen.com/faq/%E3%81%82%E3%81%AA%E3%81%9F%E3%81%AE%E7%B5%90%E6%9E%9C/%E7%92%B0%E5%A2%83%E8%A6%81%E5%9B%A0%E3%81%A8%E3%81%AF%E4%BD%95%E3%81%A7%E3%81%99%E3%81%8B/?lang=ja
生活習慣病などの多因子疾患では、心筋梗塞の場合、生活習慣が60%、環境因子が15%、遺伝的要因が25%の割合で発症に関与しています 。がんでは生活習慣が40%、環境因子が33%、遺伝的要因が27%、脳卒中では生活習慣が50%、環境因子が27%、遺伝因子が23%という具体的なデータが示されています 。
参考)http://www.sendaisangyo.jp/pages/62/
興味深いことに、同じ遺伝的素養を持っていても、育つ環境によって特性の現れ方が大きく変わることが行動遺伝学の研究で確認されています 。例えば、問題行動の遺伝的素養がある場合でも、しつけが適切な家庭環境では遺伝的素養が表れにくくなる一方、しつけが一貫していない環境では強く現れる傾向があります 。
参考)https://kodomo-manabi-labo.net/iden-kankyo
大気汚染は環境要因の中でも特に深刻な健康リスクをもたらします 。都市部では工場や自動車からの排出ガスが主な原因となり、人々の健康や環境に深刻な影響を及ぼしています 。
参考)https://gooddo.jp/magazine/health/air_pollution/
微小粒子状物質(PM2.5)は肺に直接侵入し、気管支炎、肺がん、心臓病などの疾患を引き起こす可能性があります 。世界保健機関(WHO)も大気汚染による健康被害について警告を発しており、特に子どもや高齢者などの脆弱な集団にとって大きなリスクとなっています 。
自動車からは二酸化炭素、一酸化炭素、窒素酸化物、PM2.5などの粒子状物質が大量に排出され、これらの物質が呼吸器系疾患や心臓病のリスクを高めることが確認されています 。特にディーゼル車からの排出ガスは、より有害な粒子状物質を含んでいるため、注意が必要です 。
参考)https://sustech-inc.co.jp/carbonix/media/pollution/
工業活動による環境要因では、工場での石炭や石油の燃焼により二酸化硫黄や揮発性有機化合物、重金属類が放出され、これらが酸性雨の原因となったり、人体に蓄積して健康被害を引き起こしたりします 。
心理社会的な環境要因は、メンタルヘルスだけでなく身体的健康にも大きな影響を与えています 。環境の変化は個人に成長機会を与える一方で、メンタルにダメージを与えうつ病などを引き起こす可能性があります 。
参考)https://www.koromogahara.or.jp/archives/376
職場環境における環境要因として、長時間労働、過重労働、職場の雰囲気の悪さなどがメンタル不調の原因となります 。これらの要因が常態化すると、慢性的なストレス状態が続き、心身の健康に深刻な影響を及ぼします 。
参考)https://www.aska-pharma.co.jp/femknowledge/column/column38.html
私たちが人生で経験する環境の変化には、職場での昇進や転職、結婚、離婚、引っ越し、病気、経済状況の変化などがあり、これらの変化そのものがストレスとなります 。興味深いことに、良い変化であっても、変化そのものが環境要因としてストレスになり得ることが医学的に確認されています 。
参考)https://www.shinagawa-mental.com/column/psychosomatic/changes-in-life/
近年の研究では、慢性的な心理社会的ストレスが環境汚染物質への感受性を高める可能性があることが示されており、ストレス関連の免疫、内分泌、代謝機能への影響を介してこの効果が発現すると考えられています 。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC9770040/
気候変動は新たな環境要因として、私たちの健康に多方面にわたる影響を与えています 。気温上昇などによる直接的な影響、生態系や環境の変化を介した間接的な影響、自然災害に伴うメンタルヘルスへの影響の3つのパターンに分類されます 。
参考)https://www.egmkt.co.jp/column/consumer/7569/
直接的な環境要因として、記録的な猛暑による熱中症や熱波による心臓や血管への負担が挙げられます 。これらは気温や気象の変化が私たちの体に直接ダメージを与えるケースです 。
間接的な環境要因では、温暖化により蚊の生息域が拡大し、これまで安全だった地域でデング熱などの感染症リスクが高まる事例があります 。また、地球温暖化の影響で植物の生育期が長くなった結果、花粉の飛散量が増加し、アレルギー症状が悪化することも確認されています 。
メンタルヘルスへの環境要因として、台風の巨大化やゲリラ豪雨など激甚化する自然災害が挙げられます 。災害で家や仕事を失ったり、避難生活を余儀なくされたりする経験は、PTSD(心的外傷後ストレス障害)、うつ病、不安障害などを引き起こすことがあります 。
住環境という環境要因が健康に与える影響について、近年「生活環境病」という新たな概念が提唱されています 。これまで生活習慣病として認識されてきた高血圧や循環器疾患が、住宅の断熱性能不足や不適切な暖房使用を環境要因とする疾患でもあることが明らかになっています 。
参考)https://www.sumaken-lab.com/wellness-note/wellness-3404/
WHO(世界保健機関)は2018年に「住まいと健康に関するガイドライン」で、住宅の室温は健康への悪影響から居住者を保護するため十分高い必要があるとし、冬季における室温として18℃を推奨しています 。この基準は健康リスクを回避するための世界標準の指標として発信されています 。
しかし、日本の住宅環境の現状は世界基準から大きく後れており、WHO が推奨する室温18℃以上に保たれた住宅がわずか1割にとどまっていることが報告されています 。低断熱・低気密の住宅は高血圧や循環器疾患などの健康リスクを高めるだけでなく、寒さから換気を忌避しがちになり換気不足に陥りやすく、結露によりカビやダニの発生を助長して呼吸器疾患のリスクも高める環境要因となります 。
住宅の温熱環境改善による健康への効果を検証した国土交通省の調査では、断熱改修前後での居住者の血圧や活動量の変化が測定され、住環境の改善が健康指標の向上に寄与することが科学的に証明されています 。