カルシウムをサプリで補えば補うほど骨が強くなると、あなたも患者に伝えていませんか?
日本人の食事摂取基準は5年ごとに改定されています。2025年版では、カルシウムの推奨量そのものの数値に大きな変更はありませんでしたが、骨粗しょう症との関連を解説する新たな項目が追加されました。これは医療従事者として特に注目すべき点です。
現行の推奨量を年代・性別ごとに整理すると、以下のようになります。
| 年齢 | 男性(mg/日) | 女性(mg/日) |
|---|---|---|
| 18〜29歳 | 800 | 650 |
| 30〜64歳 | 750 | 650 |
| 65〜74歳 | 750 | 650 |
| 75歳以上 | 700 | 600 |
| 妊婦・授乳婦(付加量) | — | +0 |
耐容上限量は18歳以上の男女ともに1日2,500mgと設定されています。通常の食品からの摂取だけでこの上限を超えることはほぼありません。ただし、サプリメントや強化食品を積み重ねた場合には注意が必要です。
2025年版の最も重要な追加点は、「骨粗鬆症とエネルギー・栄養素との関連」という項目が新設されたことです。骨折予防を最終目標に掲げ、カルシウム・ビタミンD・たんぱく質・エネルギー(体格)の4要素が骨粗しょう症に深く関わるとされました。つまり、骨健康の指導においてカルシウム単独の摂取量だけを語るのでは不十分、ということが公式に明記されたことになります。
また、2025年版ではビタミンDの目安量が18歳以上で8.5μg/日から9.0μg/日へと引き上げられました。これもカルシウム吸収を高める文脈で重要な変更です。覚えておきたい変更点です。
参考:骨粗しょう症と食事摂取基準2025年版の関係を管理栄養士が解説(メディジョブネクスト)
参考:カルシウムの推奨量・上限量・食品別含有量データ(健康長寿ネット)
カルシウムの働きと1日の摂取量 | 健康長寿ネット
推奨量はわかった。では実態はどうでしょうか?
令和5年(2023年)の国民健康・栄養調査によると、20歳以上の男女の平均カルシウム摂取量は約482mgです。成人の推奨量(650〜800mg)に対して、毎日約250mgほど足りていない計算になります。コップ1杯(200ml)の牛乳に含まれるカルシウムが約220mgですので、毎日牛乳を1本以上余分に飲む分だけが慢性的に不足している、といえばイメージしやすいでしょう。
この不足は特定の年代に限った話ではありません。平成30年の調査でも男性514mg・女性497mgと、いずれも推奨量の20%以上不足していることが示されています。長年にわたって「日本人はカルシウム不足」の状態が続いているのです。
食品群別にみると、乳類からの摂取が最多で、次いで野菜類、豆類、穀類、魚介類の順です。牛乳・乳製品を日常的に摂取しない人ではさらに大きな不足が生じやすくなります。
骨密度は20〜30代にピークを迎え、その後は加齢とともに低下します。男性は50歳代から、女性は閉経後に骨吸収量が骨形成量を上回り始め、骨量が急速に減少します。若い世代からの十分な摂取が、将来の骨折リスクを大きく左右するわけです。それが基本です。
医療従事者として患者に伝えるべきことは、「補うべき量の目安を具体的な食品量に置き換えること」です。たとえば、「毎食に乳製品か小魚か豆腐を1品加えるだけで、1日の不足分の多くをカバーできます」という具体的なメッセージが実行に結びつきます。
参考:令和5年国民健康・栄養調査を踏まえたカルシウム摂取の実態解説(骨と関節の日推進委員会)
骨のために知っておきたい!カルシウムの吸収率とバランスの良い摂取法 | 骨と関節の日
カルシウムは「摂取量」と「吸収量」が大きく異なります。これが重要です。
食品から摂ったカルシウムのすべてが体内に吸収されるわけではありません。カルシウムは主に小腸で吸収されますが、成人の吸収率は平均25〜30%と決して高くはありません。食品の種類によってもこの吸収率には大きな差があります。
| 食品の種類 | おおよその吸収率 | 特徴 |
|---|---|---|
| 牛乳・乳製品 | 約40% | 乳糖・CPP(カゼインホスホペプチド)が吸収促進 |
| 小魚(ワカサギ・イワシなど) | 約33% | 骨ごと食べることでカルシウム含有量も多い |
| 野菜類 | 約19% | シュウ酸・フィチン酸・食物繊維が吸収を阻害 |
牛乳1杯(200ml)に含まれるカルシウムは約220mgですが、吸収率40%で計算すると実際に体内に届くのは約88mgです。一方、ほうれん草は100gあたり約69mgのカルシウムを含みますが、シュウ酸の影響で吸収率はさらに低下します。小松菜のほうがシュウ酸が少なく、同じ緑葉野菜でも吸収効率に差があります。
加えて、吸収率を大きく左右するのがビタミンDです。ビタミンDが不足した状態では、腸管でのカルシウム吸収が著しく低下します。いくら食事でカルシウムを摂っても、ビタミンDが足りなければ骨には届きにくいのです。これは厳しいところですね。
ビタミンDを多く含む食品は、サンマ・イワシ・サーモンなどの魚類と、干しシイタケなどのきのこ類です。また、皮膚での日光(紫外線)合成もビタミンD供給の主要ルートです。2025年版食事摂取基準でもビタミンDの目安量が9.0μg/日に引き上げられており、意識的な摂取が求められます。
また、カルシウムとリンの摂取比率も吸収に影響します。リンの過剰摂取(加工食品・清涼飲料水に多い)はカルシウムの吸収を阻害することが知られています。食事の「質」に目を向けることが、単純な「量」の管理と同じくらい重要です。
「骨に良い」とされるカルシウムのサプリメント。しかし、摂り方を誤ると健康リスクを高める可能性があります。意外ですね。
複数の研究がこの問題を指摘しています。まず、BMJ(英国医学雑誌)に2010年に掲載されたニュージーランド・オークランド大学のBolland氏らの研究では、カルシウムサプリメントを摂取した群でプラセボ群に比べ、心筋梗塞の発症リスクが有意に31%増加(143例 vs 111例)したことが報告されました。
さらに2012年のドイツの研究では、サプリメント由来のカルシウム摂取を行っていた人は、サプリを全く使用しない人と比べて心筋梗塞リスクが1.86倍に上昇したと報告されています。
日本人の食事摂取基準2025年版においても、「1,000mg/日以上のカルシウムサプリメント摂取は心筋梗塞のリスクを高める可能性があり、慎重であるべき」という記載が明確に盛り込まれました。これは食品からの摂取とサプリからの摂取では、体内動態が異なることが背景にあります。
食品から摂ったカルシウムは消化・吸収の過程で血中濃度が緩やかに上昇しますが、サプリメントでは短時間に血中カルシウム濃度が急激に上昇し、血管への石灰化沈着が促進されやすいと考えられています。カルシウムが骨ではなく血管壁に沈着すると、動脈硬化・血管石灰化を引き起こすリスクがあります。
また、スウェーデンの女性6万人を19年間追跡した研究では、1日1,400mg以上摂取した人は死亡リスクが50%高かったという報告もあります。
痛いですね。医療現場でカルシウムサプリを勧める際には、現在の食事からの摂取量を確認し、必要最低限の補充にとどめることが求められます。特に既往に心疾患・腎疾患・高カルシウム血症がある患者では慎重な検討が必要です。
参考:カルシウムサプリと心血管リスクに関するエビデンス(CareNet)
心筋梗塞のリスクがカルシウム・サプリメントで増大 | CareNet.com
参考:カルシウムの過剰摂取と骨折・心血管死リスクの解説(ハイモトクリニック)
カルシウムサプリを飲んでも骨折を予防しないどころか心筋梗塞が増える | ハイモトクリニック
カルシウムを正しく「骨に届ける」には、単体摂取では不十分です。カルシウムは、複数の栄養素と連携して初めて骨密度の維持に機能します。これが条件です。
医療現場でまだ十分に浸透していない視点として、「ビタミンK2」の役割があります。ビタミンK2は「オステオカルシン」というタンパク質を活性化し、カルシウムを血管ではなく骨に誘導する働きを持ちます。つまり、ビタミンK2が不足している状態でカルシウムを大量摂取すると、骨に届かず血管に沈着するリスクが高まるのです。これはサプリによるリスクをさらに高める可能性を示しています。
ビタミンK2が豊富な食品の代表が「納豆」です。納豆には100gあたり約870μgのビタミンK2(MK-7)が含まれており、日本の伝統的な食文化にはカルシウムを骨に届ける仕組みが自然に組み込まれていたともいえます。これは使えそうです。
次に、マグネシウムとのバランスも見逃せません。カルシウムとマグネシウムの理想的な摂取比率は2:1とされており、カルシウムだけが過剰になるとマグネシウムの排泄が増加します。マグネシウムは約300種類以上の酵素反応に関わる必須ミネラルであり、不足すると血管スパズムや筋肉のけいれん、不整脈リスクが高まるとされています。
さらに、ビタミンDがカルシウムの腸管吸収を高めることは広く知られていますが、ビタミンDの活性化にはマグネシウムが必要です。つまり「カルシウム→ビタミンD→マグネシウム」という三角形の関係が、骨代謝の根幹を支えているのです。
| 栄養素 | カルシウムとの関係 | 不足した場合の主なリスク |
|---|---|---|
| ビタミンD | 腸管でのカルシウム吸収を促進 | カルシウムが吸収されず骨密度低下 |
| ビタミンK2 | カルシウムを骨へ誘導・血管沈着を防ぐ | 血管石灰化リスクの増大 |
| マグネシウム | カルシウムと2:1のバランスが必要 | 過剰排泄・筋肉・血管への影響 |
患者指導の場では、「カルシウムを増やすなら、ビタミンDを含む食品(サンマ・きのこ類)と、納豆などのビタミンK2源も一緒に意識するよう伝える」という具体的アドバイスが実践的です。まずはその1点だけ伝えるところから始めると、患者も実行しやすくなります。
参考:ビタミンK2による骨へのカルシウム誘導と血管石灰化抑制の解説
日本人の食事摂取基準の見直しとビタミンK2の新たな効能 | 骨研究所
参考:ビタミンDとカルシウム吸収の関係についての日本骨代謝学会の解説
ビタミンDとカルシウムの必要性 | 日本骨代謝学会
1日に必要なカルシウムを実際の食事で届けるには、「何をどのくらい食べれば良いか」を具体化することが重要です。
一般的な食事パターンで800mgを目標に設定した場合、以下のような組み合わせが目安になります。
これらを1日に組み合わせると合計で約724〜744mgに達します。あと少し足りない分は、ヨーグルト100g(約120mg)を朝食に加えるだけでクリアできます。
ただし、以下の点に注意が必要です。
骨粗しょう症の治療ガイドラインでは、治療対象の患者には1日700〜800mgが推奨されています。すでに骨量低下がある患者の場合、食事だけで補えない分についてはサプリ補充も選択肢になりますが、このとき心血管リスクを踏まえた上で、食事摂取量を確認してから最低限の補充量を設定することが肝心です。
患者が自分の摂取量を把握するための簡便なスクリーニングとして、静岡赤十字病院が公開している「カルシウムチェックシート(点数×40mgの換算式)」が現場で活用しやすいツールです。16点以上(640mg相当)を目標に、食習慣の改善ポイントを一緒に探す指導スタイルが効果的です。
参考:カルシウム摂取量の簡便なチェック法と食品別点数表(静岡赤十字病院)
栄養課だより2021年4月号 カルシウムの摂取量 | 静岡赤十字病院
参考:骨粗しょう症予防に必要なカルシウム摂取量と食品の具体例(むつみクリニック)
骨粗鬆症予防の食事 | むつみクリニック