高カルシウム血症 症状と治療薬の基本知識

高カルシウム血症は臨床現場で比較的遭遇しやすい電解質異常です。本記事では高カルシウム血症の症状と治療薬について詳しく解説します。重症度によって変わる症状や最新の治療アプローチも紹介していますが、あなたの臨床現場ではどのように対応していますか?

高カルシウム血症の症状と治療薬

高カルシウム血症の基本
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定義

血清総Ca濃度が10.4mg/dL超、または血清イオン化Ca濃度が5.2mg/dL超の状態

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主な原因

副甲状腺機能亢進症、悪性腫瘍、ビタミンD中毒

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重症度

軽度(<12mg/dL)、中等度(12-14mg/dL)、重度(>14mg/dL)

高カルシウム血症の定義と原因

高カルシウム血症は、血清総カルシウム濃度が10.4mg/dL(2.60mmol/L)を超える、または血清イオン化カルシウム濃度が5.2mg/dL(1.30mmol/L)を超えた状態と定義されています。この状態は日常臨床で比較的頻繁に遭遇する電解質異常であり、重症化すれば様々な臓器に障害を引き起こします。

 

高カルシウム血症の主な原因は以下の4つに大別できます。

  1. PTH・PTHrPの上昇による機序
  2. 骨吸収の増加
    • 悪性腫瘍の骨転移(LOH)
    • 多発性骨髄腫
  3. 腎からのカルシウム再吸収亢進
    • サイアザイド系利尿薬
    • ファミリー性低カルシウム尿性高カルシウム血症
  4. 腸管からのカルシウム吸収増加
    • ビタミンD中毒
    • サルコイドーシスなどの肉芽腫性疾患

原因疾患の頻度としては、90%が原発性副甲状腺機能亢進症と悪性腫瘍によるものです。特に悪性腫瘍による高カルシウム血症(MAH)は、腫瘍細胞が産生するPTH関連ペプチド(PTHrP)によって引き起こされる悪性体液性高カルシウム血症(HHM)が約80%、骨転移による局所骨融解性高カルシウム血症(LOH)が約20%の頻度です。

 

疾患別では、成人T細胞白血病(ATL)で約80%という極めて高い頻度で高カルシウム血症が見られる点が特筆すべき点です。また肺がん、乳がん、口腔がん、腎がんなどでも約15%の頻度で発症し、末期になると約2倍に増加します。

 

高カルシウム血症の重症度別の症状

高カルシウム血症の臨床症状は、血清カルシウム値の上昇速度と程度によって異なります。徐々に上昇する場合は比較的高値でも無症状のことがありますが、急速に上昇すると重篤な症状を呈します。重症度別の主な症状は以下のとおりです。
軽度の高カルシウム血症(<12 mg/dL)

  • 無症状または非特異的症状
  • 便秘
  • 軽度の倦怠感
  • 抑うつ気分

中等度の高カルシウム血症(12〜14 mg/dL)

  • 多尿・多飲・口渇(腎の尿濃縮機能障害による)
  • 脱水症状
  • 食欲不振、悪心・嘔吐
  • 筋力低下
  • 知覚異常
  • 高カルシウム尿症による腎結石

重度の高カルシウム血症(>14 mg/dL)

  • 中枢神経症状(傾眠、意識混濁、昏睡)
  • 急性腎不全
  • 不整脈(QTc間隔の短縮)
  • ショック状態(18mg/dL超)

高カルシウム血症による症状は臓器系統別に以下のようにまとめることができます。
腎症状

  • 腎性尿崩症による多尿・多飲
  • 脱水
  • 腎結石
  • 腎石灰化症による腎障害

消化器症状

  • 便秘
  • 食欲不振
  • 悪心・嘔吐
  • 腹痛
  • イレウス
  • 膵炎
  • 消化性潰瘍

神経筋症状

  • 筋力低下
  • 疲労感
  • 情緒不安定
  • 錯乱・せん妄
  • 精神症状

心血管症状

  • QT間隔短縮
  • 不整脈(特にジゴキシン服用患者)
  • 高血圧

悪性腫瘍に伴う高カルシウム血症の特徴として、血清カルシウム値の上昇が急速であることが挙げられます。原発性副甲状腺機能亢進症では数日間でカルシウム濃度が大きく変動することはほとんどありませんが、悪性腫瘍による場合は脱水・腎機能不全などの悪循環が加わり、数日間でカルシウム濃度が倍以上に上昇することもあります。

 

高カルシウム血症治療の第一選択薬

高カルシウム血症の治療の基本は、原因疾患の治療と並行して、カルシウム排泄の促進、脱水の改善、骨吸収亢進の抑制を図ることです。治療法の選択は高カルシウム血症の程度と原因の両方に依存します。

 

第一選択治療:生理食塩水による輸液
高カルシウム血症治療の要となるのは、生理食塩水による体液量補充です。ほとんどの高カルシウム血症患者は脱水状態にあるため、まず循環血液量を回復させ、腎血流量を増加させることでカルシウムの腎排泄を促進します。

 

具体的な投与方法。

  • 中等度から重度の高カルシウム血症では、生理食塩水を200-300 mL/時間で点滴静注
  • 体液過剰のリスクがある患者(心不全、腎不全など)では慎重に投与量を調整
  • 尿量をモニタリングしながら輸液速度を調整

ループ利尿薬の適切な使用
かつては輸液療法にループ利尿薬(フロセミドなど)を併用するのが一般的でしたが、現在は慎重な使用が推奨されています。ループ利尿薬は以下の場合に考慮されます。

  • 体液過剰の徴候がある場合
  • 十分な輸液が行われた後
  • 心不全や腎不全のリスクがある患者
  • 尿量が不十分な場合

ただし、ループ利尿薬の単独使用は脱水を悪化させるリスクがあるため避けるべきです。使用する場合は、フロセミド20-40mgを4-6時間ごとに静注します。

 

リン製剤
軽度の高カルシウム血症(血清カルシウム<11.5mg/dL)で症状が軽度かつ腎疾患がない場合は、経口リン製剤の投与を検討します。リンはカルシウムと結合して不溶性の塩を形成し、腸管からのカルシウム吸収を阻害します。

 

リン製剤の使用上の注意点。

  • 腎機能障害患者では高リン血症のリスクがあるため禁忌
  • 投与中は血清リン濃度のモニタリングが必要
  • 下痢などの消化器症状に注意

治療の効果判定には、イオン化カルシウムの測定が有用です。総カルシウム値は血清アルブミン濃度の影響を受けるため、低アルブミン血症がある場合は補正式を用いるか、直接イオン化カルシウムを測定します。

 

高カルシウム血症に使用される骨吸収抑制薬

骨吸収抑制薬は、中等度から重度の高カルシウム血症、特に悪性腫瘍による高カルシウム血症の治療に重要な役割を果たします。これらの薬剤は骨からのカルシウム遊離を抑制することで血清カルシウム値を低下させます。

 

ビスホスホネート製剤
ビスホスホネート製剤は高カルシウム血症治療の中核となる薬剤です。特にゾレドロン酸は最も強力な骨吸収抑制作用を持ち、第一選択薬として広く使用されています。

 

主なビスホスホネート製剤と投与法。

  • ゾレドロン酸(ゾメタ®): 4mgを15分以上かけて単回点滴静注。効果発現は2-4日、持続期間は約4週間
  • パミドロン酸: 60-90mgを2-4時間かけて点滴静注
  • アレンドロン酸: 7.5mgを2時間かけて点滴静注

作用機序。
ビスホスホネートは破骨細胞に取り込まれ、その機能と生存を阻害することで骨吸収を抑制します。特にゾレドロン酸はファルネシルピロリン酸合成酵素を阻害し、破骨細胞のアポトーシスを誘導します。

 

副作用と注意点。

  • 急性期反応(発熱、筋肉痛、関節痛
  • 低カルシウム血症
  • 腎障害(特に急速投与時)
  • 顎骨壊死(長期投与時)
  • 投与前の腎機能評価と水分補給が必要

カルシトニン
カルシトニンは破骨細胞活性を直接抑制し、急速に血清カルシウム値を低下させる効果がありますが、効果は一時的です。

 

特徴。

  • 作用発現が速い(4-6時間)
  • 効果持続時間が短い(48-72時間)
  • 頻回投与で耐性(タキフィラキシー)が生じる
  • ビスホスホネートとの併用で相乗効果

投与法。

  • 4-8単位/kgを6-12時間ごとに皮下または筋肉内注射
  • 重症例では最大8単位/kgを6時間ごとに投与

コルチコステロイド
コルチコステロイドは特定の原因による高カルシウム血症に有効です。

  • ビタミンD中毒
  • サルコイドーシス
  • 多発性骨髄腫
  • リンパ腫
  • 白血病

作用機序。

  • カルシトリオール(1,25(OH)2D)の産生抑制
  • カルシウムの腸管吸収抑制
  • 一部の腫瘍に対する直接的な抗腫瘍効果

投与法。

  • プレドニゾン20-40mg/日(経口)
  • 悪性腫瘍では40-60mg/日が必要な場合も
  • 効果発現には数日を要する

特筆すべき点として、約50%以上の悪性腫瘍による高カルシウム血症患者はコルチコステロイドに反応しないため、通常は他の治療法と併用されます。

 

高カルシウム血症治療の最新アプローチ

近年、従来の治療法に抵抗性の高カルシウム血症に対する新しいアプローチが注目されています。

 

デノスマブ(ランマーク®、プラリア®)
デノスマブは、RANKL(receptor activator of nuclear factor-κB ligand)に対する完全ヒト型モノクローナル抗体で、ビスホスホネート抵抗性の高カルシウム血症に対する新たな治療選択肢として注目されています。

 

作用機序。

  • RANKLに結合し、破骨細胞の形成・機能・生存を阻害
  • 腎排泄に依存しないため、腎機能障害患者にも使用可能
  • ビスホスホネートと異なる作用機序により、交差耐性が生じにくい

臨床的有用性。
ある症例報告では、ゾレドロン酸抵抗性の高カルシウム血症による難治性悪心に対してデノスマブを投与したところ、投与15日後にカルシウム値が9.4mg/dLに低下し、悪心もSTAS-J 4から0に改善しました。

 

米国では2014年12月にFDAから高カルシウム血症の適応が承認されましたが、日本国内では骨転移がない症例に対しては保険適応外である点に注意が必要です。

 

副作用と注意点。

  • 重篤な低カルシウム血症のリスク(適切なカルシウム・ビタミンD補充が必要)
  • 顎骨壊死
  • 非定型骨折
  • 終末期患者では経口カルシウム製剤やビタミンD製剤の内服が困難な場合があり、より慎重な対応が必要

カルシウム感知受容体作動薬(シナカルセト、エテルカルセチド)
PTH依存性の高カルシウム血症に対して、カルシウム感知受容体(CaSR)作動薬が使用されることがあります。

 

シナカルセト(レグパラ®)。

  • 副甲状腺細胞のカルシウム受容体に直接作用し、PTHの合成と分泌を抑制
  • 血清PTHおよび血清カルシウム濃度を低下させる効果がある
  • 主に二次性副甲状腺機能亢進症に適応があるが、原発性副甲状腺機能亢進症に伴う高カルシウム血症にも使用される

血液透析
血清カルシウムが18mg/dL(4.5mmol/L)を超える重度の高カルシウム血症や、他の治療に反応しない場合、血液透析が検討されます。

 

透析の利点。

  • カルシウム除去が迅速かつ効果的
  • 体液量やその他の電解質異常も同時に補正可能
  • 腎機能障害患者でも実施可能

新しい研究アプローチ
現在、高カルシウム血症治療に関する研究が進行中です。

  • 抗PTHrPモノクローナル抗体
  • カテプシンK阻害薬
  • Src阻害薬
  • Integrin αvβ3阻害薬

これらの新規治療法は、特に悪性腫瘍による高カルシウム血症に対する効果が期待されています。

 

最後に重要な点として、高カルシウム血症の治療においては、原因疾患の治療が最も重要である点を強調しておきます。特に悪性腫瘍による高カルシウム血症では、原疾患のコントロールができなければ、最善の対症療法を行っても再発してしまうことが多いため、包括的なアプローチが必要です。

 

デノスマブの高カルシウム血症治療効果に関する詳細な症例報告はこちら
高カルシウム血症の詳細な臨床ガイドラインはこちら
臨床現場では、高カルシウム血症は特徴的な症状に乏しく、軽度の場合は無症状であることも多いため、注意深い電解質モニタリングが重要です。特に悪性腫瘍患者や高齢者では、非特異的な症状の背景に高カルシウム血症が隠れていることを常に念頭に置き、早期発見・早期治療につなげることが患者予後の改善に直結します。